クルマがぜんぶ電気自動車になると走る楽しさは消えてしまうのか?
掲載 更新 carview! 文:岡崎 五朗 2
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僕には、どちらの人たちの気持ちも良くわかる。かつてエンジンが輝いていた時代、エンジンはたしかにクルマの楽しさの源泉だった。しかし燃費規制が厳しくなるにつれ、エンジンは次第にエンターテインメント性を失っていってしまった。この原稿を書くにあたって、僕のFacebookで「いま新車で手に入る国産車のエンジンで、これは最高に気持ちいい! と思うものありますか」という問いかけをした。「NSX」のV6ターボ+モーター、「GT-R」のV6ターボ、「レクサス IS F / RC F」の5L V8、「フーガ」のVQ37VHR、「シビック・タイプR」のK20C型、スバルのEJ20、「ロードスター」のSKYACTIV-G 1.5、「フィットRS」のL15Bなどが挙がったが、ほとんどは高性能車か高級車。「最近の国産車で最高に気持ちのいいエンジンなんてないですね」という意見も多数寄せられた。
僕も同じ想いだ。いま世の中で普及しているエンジンの多くは、燃費はいいが退屈なものが多い。高回転域まで気持ちよく回るショートストローク型エンジンや、大排気量の自然吸気エンジンなどはもはや絶滅寸前。普及型エンジンにいたっては、パサパサした味気ないフィーリングのものばかりになってしまった。美味しいものはえてして身体に悪いと言われるが、エンジンにもそれが当てはまる。そんな退屈なエンジンしか知らない世代の人たちが、エンジンなんてどれも同じだよ、と考えたとしても無理はない。
とはいえ、モーターなんて・・・と考えるのも、とてももったいないことだと思う。テスラから電動カートまで、かなり多くのEVに乗ってきたが、モーターがつまらないなんて思ったことは一度もない。それどころか、モーターにはモーターの気持ちよさが確実に存在して、現代のつまらないエンジンと比べればEVのほうが気持ちいいとすら感じているほどだ。たとえばテスラの「モデルS」。怒濤の如き加速性能に注目が集まりがちだが、気持ちよさを感じたのは、むしろその圧倒的な静粛性と滑らかさだった。どこからでも沸き上がるようなトルクを秘めつつ、どこまでも静かで滑らか。
この走り味にいちばん近いエンジン車を過去の膨大な記憶のなかから脳内検索してみると、ヒットしたのは「デイムラー ダブルシックス」だった。囁くような吐息を発しながら艶やかに回る5.3L V12は自動車史上に燦然と輝く名機の一つ。その代わり、燃費はコンスタントに5km/Lを切り、場合によっては3km/Lさえ切った。EVに乗りながら、あの大食い名機を思い出したという事実には自分でも驚いたが、そこに僕はEVの可能性を感じた。EVでも運転する楽しさを僕たちは手放す必要はないのだ、という。
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