新型セレナe-POWERの走りはスポーティ!? 家族も自分も楽しめる1台だった
掲載 carview! 文:伊達軍曹/写真:篠原 晃一、日産自動車 62
掲載 carview! 文:伊達軍曹/写真:篠原 晃一、日産自動車 62
ガソリン車は昨年末に発売済みであったものの、少々遅れて2023年4月20日に正式登場した新型日産「セレナ」の“e-POWER”に公道で試乗した。
結論から先に申し上げると、5ナンバー級ミニバンとしての本分(利便性や快適性など)を重視するとともに、デザイン性や操縦フィールといった趣味的な部分も同時に重視したいユーザーにとって、新型セレナe-POWERはかなりナイスな選択肢であると思えた。
新型セレナe-POWERの基本情報については、筆者が2カ月ほど前に書いたこちらの記事をご参照いただけると幸いだが、超基本部分のみをあらためて記すと、おおむね下記のとおりとなる。
●全幅1715mmとなる一部の上級グレードを除き、ボディサイズは5ナンバー枠をキープ
●従来型でも使い勝手の良かった車内の諸々は、さらにいろいろブラッシュアップ
●「e-POWER」の発電用エンジンは、新開発の1.4L e-POWER専用エンジンに刷新
●プラットフォームは従来型をベースに随所に細かな改良が加えられている
●「プロパイロット」は全車標準装備
●最上級グレードには「プロパイロット2.0」を標準装備
以上の超基本情報を伴い、新型セレナe-POWERでもって公道に繰り出してみよう。
>>新型セレナに試乗。「家族が楽しめるミニバン」の正常進化形、センスが光るデザインもポイント

最初に試乗したグレードは一番人気の「e-POWERハイウェイスターV(2WD)」である。まずはミニバンとしての本分である「車内の利便性や快適性など」を確認してみる。
室内寸法は従来型とほぼ変わっていないが、シフトセレクターがレバー式からボタン式に変更されたことで、前席の足元まわりは120mm拡大された。これにより、前席から前後左右へのウォークスルー性能が向上している。
1列目にも2列目にもセットできる「スマートマルチセンターシート」は従来型から採用されて好評を博した機能だが、新型ではe-POWERにもこれを標準装備(※e-POWER LUXIONを除く)。2列目シートをキャプテンにもベンチにもできるということで、シチュエーションごとのアレンジ能力は抜群である。
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そして3列目シートはクラス唯一となる120mmのスライド機構付きである点や、バックドアの上半分だけを開けることが可能な「デュアルバックドア」の魅力も健在。
左右に跳ね上げて格納する3列目シートは、従来型と同様に「最後はベルトで固定する」というひと手間が必要になるタイプだ。
競合であるトヨタの新型「ノア/ヴォクシー」は完全ワンタッチ式に変わったわけだが、あちらはワンタッチで格納できる代わりに、格納時はリアクォーターウインドウが塞がってしまうという弱点もある。「ひと手間」と「室内の明るさと斜め後方視界」のどちらを優先すべきかは、メーカーおよびユーザーの考え方次第だろう。
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荷室長は3列目シートを最後端までスライドさせた場合で342.4mm、通常位置では462.3mmとなる。競合がおおむね370mmの固定タイプであることから考えると、新型セレナの荷室長は「まずまず長い」と評していいだろう。
なお1~2列目のシートは、5ナンバー級のミニバンだけあって「サイズ的に巨大」ということは決してない。だが身長175cm/体重67kgの成人男性である筆者が座っても「小さいな……」と感じることはなく、むしろ肉厚で好ましいとすら感じた。
そして3列目も、さすがに1時間以上乗っていたいとは思わないが、普通に30分ほど座るのであれば、成人であっても特段の苦痛は感じないはずの広さと作りである。
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以上のとおり「ミニバンの本分」となる部分に何ら問題はなく、むしろ良好で好ましいパッケージングであることを確認したのちは、「趣味的な部分」について確認してみることにしよう。まずは「デザイン」から。
エクステリアデザインは、従来型では日産の「Vモーション」をメッキモールによって直截的に表現していたが、新型では縦3列に配置したLEDヘッドランプと、フロントグリル内のバーの色によって“V”を間接的に表現している。
デザインに対する感じ方は人それぞれかと思うが、少なくとも筆者は、新型の手法のほうが100倍は洒落ていると感じる。特に2トーンのボディ色は今回のフロントグリルおよびVモーション表現と相性が良いように思うが、e-POWERの場合、残念ながら注文を入れたユーザーの約75%はモノトーンを選択しているとのこと。
それはさておき「インテリア」だ。これがまた秀逸である。
12.3インチのメーターパネルと統合型インターフェイスディスプレイが組み合わされた横長のインパネは、ざっくり言うとモダンで都会的。日産としては初めてのスイッチタイプの電制シフトセレクターを採用した操作パネル部分も、ちょっと「iPhone」を思わせるシンプルビューティな意匠だ。各部に入っているステッチや、メタル系および樹脂系部品の質感や形状および手触りも、このクラスとしては上々である。
5ナンバー級ミニバンにしばしば見られる「所帯じみた内装デザイン」あるいは「安価なバンの残り香」みたいなものが苦手な人でも、新型セレナのインテリアであれば何の抵抗もなく受け入れられるのではないかと推測する。

お次は「走り」である。
走行性能の高さとそのフィーリングの良さは、あくまで「家族のため」を第一義とするミニバンにおいては「割とどうでもいい」ともされがちだ。しかし人生の貴重な時間の一部をわざわざ割いて運転するのだから、ミニバンといえども、走行性能と走行フィールは良好であるに越したことはない。
そういった意味において新型セレナe-POWERは、5ナンバー級ミニバンを求めている多くの人に真剣に推奨したい一台だ。
日産初のe-POWER専用エンジンである「HRS14DDe」は、従来型より出力が16%向上しているだけでなく静粛性も大幅に向上。そして一次バランサーシャフトを日産として初採用したことで、3気筒エンジン特有の振動もよく抑えられているように思う。
そこに従来型より出力を20%向上させた駆動用モーターを組み合わせているわけだが、もちろんそれで終わりではなく「遮音性」や「エネルギーマネジメント」「サスペンション」等々々々を微細にかつ徹底的にブラッシュアップさせた結果、新型セレナe-POWERハイウェイスターVの走行フィールは「十分にパワフルでシャープだが、それと同時にやたらとなめらかでもある」というニュアンスに進化した。
もちろんスポーツカーのように運転できるわけではないが(当たり前だ)、クイックでもダルでもないステアリングの反応は「ミニバンとしては最適」であり、そのうえで正確無比でもある。「クイックでパワフルだから」という意味ではなく、「ほぼイメージどおりの回頭や直進を、適切なパワー感とともに行えるから」という意味で、このクルマは結構“スポーティ”なのだ。
車両重量は競合より200kg近く重いが、運転中はむしろセレナ e-POWERのほうが軽量であるとの錯覚も覚えた。
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走行性能とフィールにおいて、難点のようなものは特に感じ得なかった新型セレナe-POWERハイウェイスターVではある。
だが強いて挙げるとすれば、高速道路にて法定速度で巡航中の状態から一気に追い越しをかけようと試みると、エンジンはけっこううるさく吠え、そしてスピード自体も実は大したことがない。V6 3.5L級のミニバンに乗り慣れているような人からすると、やや物足りなく感じる可能性はある。
だが常識的なドライバーであれば、高速道路において「100km/hからガツンと踏んで一気に追い越す」みたいな行為をする頻度は低いはず。多くの時間帯は100km/h前後の定速で走り、状況に応じてそこからじんわり加速させたり、じんわりと速度を落としているはずだ。
そういった常識的な走り方をする限りにおいては、1.4Lエンジン+モーターの新型セレナe-POWERは「普通にまあまあ速い(そしてきわめて静かで乗り心地の良い)ミニバン」である。

一番の売れ筋グレードであるe-POWERハイウェイスターVが十分に満足できる仕上がりであったことを確認したのちは、最上級グレードである「e-POWER LUXION」に乗ってみることにしよう。
パワーユニットやタイヤ&ホイールのサイズなどはe-POWERハイウェイスターVと同一だが(※編集部注:タイヤはLUXION専用品)、LUXIONはスマートマルチセンターシートではなく固定式センターコンソールとなるため、乗車定員は8名ではなく7名になる。そして諸々の上級装備が標準装備になるという違いがあるわけだが、もっとも大きなポイントは「プロパイロット2.0が標準搭載される」ということだろう。
プロパイロット2.0とはご存じのとおり、かなりざっくり言ってしまえば「120km/hでの巡航中もハンズオフ走行ができる運転支援システム」だ。
従来型のプロパイロットは「渋滞走行時と高速巡航時にアクセルとブレーキ、ハンドル操作を車がサポートしてくれる」というものだが、2.0は、高速道路を120km/hで走っている際にも(条件が合えば)ハンズオフ走行が可能になる。
筆者は私物であるスバル車で「アイサイトX」によるハンズオフ走行を日常的に行っているが、2023年6月現在のアイサイトXでハンズオフ走行ができるのは「50km/hまで」だ。
そのため、すでに「スカイライン」や「アリア」などで十分な実績のある日産のプロパイロット2.0の制御技術についてはまったく心配していないものの、「自分の心理」にはいささかの不安がある。「120km/hで走っている最中にハンドルから手を離す」という行為に心理的なハードルを感じ、実際はビビって手を離せないのではないか? と心配に思ったのだ。
>>スカイラインってどんな車? 価格やスペックはこちら
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だがそれは杞憂に過ぎなかった。まぁアイサイトXである程度は慣れているからというのもあるかもしれないが、新東名高速道路の120km/h制限区間であっても、セレナe-POWER LUXIONのステアリングホイールから両手を離すのは、思いのほか簡単な作業だった。そしてLUXIONは勝手に粛々とスムーズに、120km/hにて新東名高速を快走した。
LUXIONのみに設定されるプロパイロット2.0は「絶対にあったほうがいい装備」というわけでもないため、従来型のプロパイロットが標準装備されるその他のグレードでも十分であると、個人的には思う。ちなみにe-POWERの最廉価グレードである「X」でさえなければ、プロパイロットの「ナビリンク機能付」をメーカーオプションとして選ぶこともできる。

そのあたりの具体的なグレード選定は各位におまかせするほかないが、筆者が試乗を通じて言いたいことはただひとつ、以下のとおりである。
「家族を大切にするのはもちろんですが、もしも、車の運転や美しいモノが好きな“自分”のことも同時に大切にしたいなら、今度出た新型セレナのe-POWERに注目したほうがいいと思いますよ」
ちなみに売れ筋であるe-POWERハイウェイスターV(2WD)のWLTCモード燃費は19.3km/L。強豪よりはいささか劣るが、これだけ楽しませてくれるミニバンとしては「十分!」と言ってもいいはずだ。
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