旧オーナー伏木悦郎が 新旧プリウスで哲学!
掲載 更新 carview! 文:伏木 悦郎/写真:編集部、トヨタ自動車
掲載 更新 carview! 文:伏木 悦郎/写真:編集部、トヨタ自動車
そう言っては身も蓋もないが、メディアで語られる「スポーティな走り」のほとんどは日本の法律になじまない。法律を変えるか、クルマのあり方や楽しみ方を新しい枠組みで創造するか。300km/hを目指す今まで通りの方法で21世紀に持続性のあるモビリティが実現可能かどうか。ここは考えどころだろう。
プリウスIIIは、諸元を参照すれば明らかなようにプリウスIIよりパワフルだ。レベルアップしたパワートレインに対応するボディも剛性面で不足を感じることはない。象徴的なのは、ツーリングセレクションに標準装着される215/45R17タイヤの設定である。バネ/ダンパーを締め上げたサスペンションを前提とするセットアップだが、その乗り味にエコカーという言葉からイメージされるひ弱さは感じられない。
システム出力は100kW(136ps)。プリウスIIの82kW(113ps)に20%上乗せに対する評価はさまざまだろうが、僕は単純にパワーに余裕があるから良いとは思わない。これによって180km/hのトップスピードと低中速トルクの充実が得られ、結果的に高速燃費が改善された。EGR(排気ガス循環システム)のクーラー冷却や電動ウォーターポンプの採用でエネルギー損失を低減し、排気熱をエンジン冷却に再利用することで寒冷期に燃費の悪化が目立ったプリウスIIの弱点にもメスが入った。
あらゆる角度から比べてみても、レベルという視点ではプリウスIIIが上。その差は歴然だ。しかし、日本のリアルな交通環境で走らせた時にプリウスIIが輝きを失うかというと、そうでもない。プリウスIIは急峻な上り区間では100km/hのアベレージ速度を取るか、燃費の悪化に目をつぶるかというハムレット状態に陥ることも度々だ。とくに初期型の場合、ボディ剛性は緩めだし、サスペンションの限界やハンドリングの精度にも難点が指摘できる。
書き連ねると救いがないと思われそうだが、常識的な速度で破綻するわけではない。緩いと感じる穏やかなハンドリングは、時折非力と感じさせるTHS-IIとともに、ごく自然な感覚で乗り手を丁寧なドライビングスタイルに向かわせる。
より速く……を基本とする従来的価値観に立った場合、すべての面でプリウスIIIが上を行くだろう。そのように開発しているのだから当然だ。しかし、それゆえ速く走らせたくなるセットアップになっているという事実には注意が必要だ。走る気にさせるというのは賛辞だが、これからもそれで良いのか。スピードに依存しない走りの楽しさは考えられないだろうか。
燃費がすべてではないが、事実として今回比較した6つのセクターでは2勝3敗とプリウスIIが善戦した。6年目のクルマということを考えると、これは見過ごせない結果だ。
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