メルセデスのTOPデザイナーにインタビュー
掲載 更新 carview! 文:岡崎 五朗/写真:菊池 貴之
掲載 更新 carview! 文:岡崎 五朗/写真:菊池 貴之
2008年にワーグナー氏がデザイントップに就いてから、メルセデスのデザインは大きく変わった。より官能性を重視したデザインは、過去のメルセデスからの脱却と考えていいのだろうか?
「私はそうは考えていません。なぜなら、メルセデスは歴史があるメーカであり、それを守るのが私の役目の一つであると考えているからです。しかしながら、人間とは常に新しいものを欲し、常に変わりたいと考える生き物でもあります。ですから、ブランドを守っていくためには、その価値を次の世代へと伝えていかなければならないのです」
そのための変化をどうプロデュースしていくか。前述したように、メルセデスの平均ユーザー年齢はライバルたちより高い。しかしだからといって、メルセデスがライバルたちと同じ手法をとることはないという。
「私は2008年以来、デザインフィロソフィーだけでなくブランドフィロソフィーを変えてきました。ここで重要なのは、ブランドを伝えるのは広告ではなくあくまで商品であるということです。クルマのデザインとは単に1車種のデザインであってはいけない。10年先を見据えた商品戦略、ブランド戦略の一環と捉えるべきです。その点において、われわれは一面的ではなく多面的であることを望みます。他社のように各モデルで区別がつかないようなことはしません」
たしかに、最近のメルセデスは車種ごとに強烈な個性をもっているため他の車種と間違えるようなことがない。それでいてメルセデスであることもひと目でわかる。それがワーグナー氏の狙いなのだろうか。
「その通りです。デザインをするにあたって、トラディション(伝統)、エモーション(官能)、プログレッション(先進)という3つの方向性を設定し、Sクラスはトラディション、SLSはエモーション、Aクラスはプログレッション、Sクラスクーペはトラディションとエモーションの中間、CLSとCLAはエモーションとプログレッションの中間、というように、個々のモデルのテイストを別けています。具体的にはAクラスはラインを多くしてエッジを立たせ、Sクラスはラインを少なくしてシンプルに。その結果、個々のモデルの個性が際立ちます。けれど、それぞれ方向性は違えど、トータルとしてのデザインはひとつの言語でつくられているのです。メルセデスデザインというひとつの言語でありながら、それぞれ発音が違うと捉えていただくのが正解でしょう」
急速にモデルラインナップを増やしているメルセデス。それによってブランドアイデンティティが薄まるのではないか? そんな危惧に対する答えはそこにある。
注目したいのは、それぞれが異なる個性をもつクルマの集まりが、今後どんなブランド価値をメルセデスにもたらしていくかだ。
「クルマをデザインし、ブランド価値を上げていくという行為はチェスのようなものです。それぞれのクルマを駒としてゲームを優位に進めていくのです。Sクラスはキング。さらに先の先を読み、10年後を見据え、マスタープランを考え、クイーンやビショップを置いていく。来年にはご覧いただける予定の新型Cクラスも大切な駒の一つですが、全体が完成するのは2016年。つまり3年後には、新しい時代のメルセデスをより明確にご理解いただけるラインナップをご呈示する予定です」
2020年までにプレミアムメーカーのトップにたつという成長戦略を掲げているメルセデス。果たして2016年にチェックメイトとなるのか。今後の動向から目が離せない。
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