新型パッソ&ブーン、女目線の超現実主義!
掲載 更新 carview! 文:伏木 悦郎/写真:荒川 雅臣
掲載 更新 carview! 文:伏木 悦郎/写真:荒川 雅臣
グローバル化が進み、世界中のクルマが均質な性能、機能、クォリティを求めてレベルアップするフラット化が現実となっている。性能は高いに越したことはなく、機能も充実しているほうが良く、デザインに連なる質感も可能なかぎり追求されるべきだ…そんな強迫観念にも似た主義が渦巻いている。
そこをプッシュして世界的な評価を得ているドイツ車に深い思い入れを持つ態度がメディアを中心に根強くあるが、国内市場とそこに暮らすユーザーはもっと現実的な価値観とともに生きているかもしれない。
安全はクルマにとっての最優先課題だし、命は地球より重いという意見に異論を唱えることは難しい。しかし、クルマは高額の消費財であり、支払われるコストとのバランスで機能、性能、質感が決められる宿命を持つ。
先代(オリジナル)パッソ/ブーンを手がけたのは昨年FT86のチーフエンジニアとして名を馳せた多田哲也さん。マーケットの現実を直視し、きめ細かい市場調査を元にした合理的な開発によって、リアルな顧客のニーズを的確に掘り起こして行く。横滑り防止装置を日本に初めて紹介し、VSCを世に送り出した異能のエンジニアは、ラウム、bB、パッソ/ブーン、ラクティスなどを経て現在に至る。
トヨタ最小プチトヨタこと初代パッソは、平均で7500台/月の顧客を発掘。軽自動車以上、ヴィッツ未満という、黄色ナンバーを嫌い、でもそんなに大きく立派なクルマも要らないという現実的な女性や熟年層の“ニーズ”とリアルに向き合い、ブーンと合わせて10万台/年という十分にビジネスになる需要を生み出した。
「需要があるかぎり作り続けます」2代目パッソの鈴木敏夫CEは、いわゆるクルマ好きが抱くその商品性と作り続けることに対する疑問への答えを、シンプルな一言で言い表した。シビアな経済感覚を持つ実在するユーザーとしての彼女と彼は、理想主義的な高性能、高機能、高品質なマシンとしてのクルマではなく、身の丈にあったモビリティツールという商品を求めている、ということだ。
クルマにとって安全性能は絶対的な価値だが、高度なVSCや複数のエアバッグは現実的な使用パターンの中で必要としない。そういうリアルワールドで暮らす人々の価値観は無視できないだろう。安全を自分の問題として捉え、メカニズムに頼らない慎重な運転を心がけるという考え方は案外パワフルだ。
「コストはクルマの開発で常に問われる重要課題ですが、安くて良いクルマを求められるパッソ/ブーンの場合、とりわけシビアな判断が必要とされます」開発から生産を受け持つダイハツの大野宣彦エグゼクティブCEは、価格に対してセンシティブなユーザーの存在を強く意志していることを隠そうとしない。
軽自動車を中心とするコンパクトカー作りの経験とノウハウ、リソースを活かしながら非常にハードルの高いユーザーニーズに対応する。日本の道路環境や社会システムを走る彼女と彼に応えるクルマ。需要に応じて開発されたパッソ/ブーンは、リアルな日本のクルマシーンを映すもう一つの鏡なのである。
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