アウディRS5、サーキットで見えた進化と真価

高回転型・自然吸気エンジンの魔力

今回の試乗の舞台は富士スピードウェイのレーシングコース。ストレート後半部分こそパイロンで速度規制されていたとは言え、RS5のポテンシャルを知るには絶好の舞台であることは間違いない。

「目がついていかないかも…」　実はコースイン直後、アクセルを踏み込んだ瞬間に脳裏をかすめたのは、そんな思いだった。あふれるパワーと、それを余さず路面に伝えるクワトロによる、背中をシートバックに押し付けるほどの加速自体もそうだが、自然吸気ならではの鋭いピックアップと、高回転域まで猛然と吹け上がるその勢いに、恥ずかしながら一瞬、恐れを成したのである。

幸い、すぐに慣れはしたのだが、それでもやはりこのエンジンには昂揚させられる。あれだけ過給ユニットを推進しているアウディの頂点たるモデルが高回転型の自然吸気エンジンを積むのは不思議な気もするが、乗ればその説得力はさすが。最近の過給ユニットがいくら良く出来ているとは言っても、職人が手作業で組んだ高精度の自然吸気スポーツエンジンの、右足の動きと一体化したような繊細なピックアップを味わえば、やはりコレしかないよなと納得させられてしまう。

とは言え、決してピーキーなわけではない。むしろ今時のエンジンらしく実用域にも扱いにくさは皆無。むしろ、もっとマニアックな特性でもいいのに、そうすればパドルを駆使する歓びだって味わえるのに、という気すらしてくるほどだ。現状では、全域あまりにスムーズなせいで、マニュアルモードでは回転計を注視していないとレヴリミッターにぶち当ててしまうことも多々ある。

朗報は、今回のフェイスリフトでSトロニックに、ドライブセレクトで「動的」を選んでいなくても単独で選べるSレンジが追加されたこと。ワインディングロードなどシャシーまでハードな設定にしたくない場面では、コレを選ぶのが一番速く、そして気持ちも良さそうだ。