新型ゴルフはコネクト性能でライバルを圧倒。トヨタの技術者は3~5年遅れを取ったと危機感を強めた
掲載 更新 carview! 文:岡崎 五朗/写真:フォルクスワーゲンAG 217
掲載 更新 carview! 文:岡崎 五朗/写真:フォルクスワーゲンAG 217
ここまで読んできて、ちょっと退屈だったかもしれない。しかし冒頭で「ある一点を除き」と書いたように、ゴルフ8の真骨頂は別のところにある。それが最新のデジタルコックピットだ。全グレードともメーターは10インチの液晶になり、センターコンソールにはこれも標準で1083×480ピクセルの8.25インチタッチスクリーンが備わる。加えて、お約束だったダイヤル式ライトスイッチはついにタッチパネル化され、オーディオのボリウムやオートエアコンの温度設定までもがスクリーン下のタッチ式スライドスイッチでコントロールする方式になった。
バイワイヤ化されたDSGのセレクターと相まってコックピット周りはかつてないほどスッキリしたが、一方でブラインド操作、とまではいかずともチラ見での操作は難しくなった印象も受けた。それを補うのが「Alexa」を利用した音声認識だというのがフォルクスワーゲンの言い分。たしかに音楽や各種情報サービスへのアクセス&操作、カスタマイズ項目が増えた車両設定などなど、ますます複雑化する機能を運転中に扱うにはこの方法しかない。
ということは頭では理解できるのだが、「Aクラス」や「3シリーズ」がそうだったように、こうした変化はユーザーにガラケーからスマホへの移行と同じぐらいの慣れを要求する。ことに老若男女を対象としたゴルフのようなクルマを一気にデジタル化するとなれば、一部のユーザーから大きな反発を食らう覚悟が求められる。実際、新型カローラは2DINを廃止しディスプレイオーディオにしたが、既存ユーザーのデジタルリテラシーを案じてあれほど単純なロジックにしたにもかかわらず、CDが聴けないとか、使いにくいという声が多数寄せられているという。おそらく日本以外だって同じようなことになるだろう。それでもフォルクスワーゲンは批判を怖れず覚悟を決めて前に進んできた。僕はここに、ゴルフ8の、またフォルクスワーゲンの攻めの姿勢を感じずにはいられない。
実際、ゴルフ8が実装してきた多彩なデジタルサービスは、ID.3をはじめとする今後のフォスクスワーゲン車に水平展開され、欧州最大のユーザー母体を背景とした一大車載ネットワークを形成していく。スマホで解錠すれば、どのフォルクスワーゲンに乗ってもあらかじめアプリに登録しておいた好みのシートポジションが自動的に設定されたり、駐車しているクルマのトランクに宅配サービス業者が荷物を配送してくれたり。その他、ここでは書き切れないほどの新機能、新サービスが紹介された。フォルクスワーゲン グループ ジャパンがどこまで本国と同じサービスを展開できるのかとなると難しいかもしれないが、フォルクスワーゲンはそういうことをゴルフ8で実際に始めようとしている。言い換えれば、そういうサービスを始めるためには、ゴルフという保守的だが沢山売れるクルマのインフォテインメントシステムを大改革せざるを得なかったということだ。
ユーザーが果たしてゴルフのこうした大改革を受け容れるのか受け容れないのか、僕にはちょっと予想がつかない。けれど、中長期的に見れば、クルマがこの方向に向かい、また自動車メーカーのビジネスを大きく左右するようになるのは間違いない。ゴルフ8を見て、あるトヨタのエンジニアは危機感を強めている。「われわれはインフォテインメントシステムの領域で3~5年遅れをとってしまった」と。走り、曲がり、止まるという旧来型のハードウェア領域に関してもはや圧倒的リードという表現は使えないが、「走り、曲がり、止まり、繋がる」という今後の自動車のキーファクターのうち、繋がる=コネクティビティに関しては間違いなくライバルを圧倒したのがゴルフ8である。
最後に、現地で聞いたゴルフ8開発担当者の言葉をお伝えしておこう。「EVがメインに? まあ環境問題が盛り上がっているいまのヨーロッパはトップもそういうことを言わざるを得ないんでしょう。ですが内燃機関はあと25年は使われるし、ゴルフがフォルクスワーゲンの主力車種だという社内認識に一切変化はありません」。
ゴルフ8、日本導入は来年末頃の予定だ。
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