マクラーレンMP4-12C 「踏んでいける！」

重要なのは「踏んでいける」こと

MP4-12Cのポテンシャルを存分に引き出すにはサーキットに持ち込むのがいちばんだが、だからといってサーキットスペシャルではないのがこのクルマの最大の美点だ。まず乗り心地が望外にいい。しなやかに動くサスペンションと強固なボディは、ラグジュアリーなGTカーを彷彿させる快適性を実現。舗装の荒れた路面を走っても、内臓が揺すられたり、ガツンという眉をひそめるような衝撃にさらされることは一切ない。

足がきれいに動くということは、タイヤの接地性にもプラスの影響を与えている。うねりのあるコーナーに飛び込んでいってもタイヤは常に路面をしっかりと捉え続け、安定感と安心感と自信を与えてくれる。ステアリング特性もクイック感を強調したものではなく、ステアリング操作にどこまでも忠実な味付け。スリリングな動きを演出するのではなく、安全に速く走るにはどういう特性が必要なのか・・・そんな思想が貫かれているのだ。

安全といえば、この種のクルマにありがちな斜め後方の死界が少なく、街中や高速道路の合流で冷や冷やさせられないのも有り難かった。

抑えめのエンジンサウンド、スイッチ類を完全に排したステアリングホイール、整理統合された操作系など、表面上はF1マシンとオーバーラップする部分の少ないMP4-12C。しかしそこには間違いなく、マクラーレンがモータースポーツ活動を通じて培ってきた骨太な思想が反映されている。100分の1秒を競うレーシングマシンに求められるのはクイックなハンドリングでも官能的なサウンドでもなく、ドライバーが自信をもって「踏んでいける」こと。マクラーレンにとって扱いづらさは「悪」なのだ。

そんな思想の元、公道上を走る超高性能スポーツカーとしての理想像を徹底的に追求したのがMP4-12Cである。年間生産台数は先日追加されたスパイダーと併せて1500台を予定。2790万円也を用意さえすれば、このきわめて洗練されたスーパーカーのオーナーになれる。現実度は別として、なかなか素敵な世の中だと思いませんか？