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NSX2019モデルは限界性能を高めたが、牙を抜かれて丸くなった寂しさもある

サーキット試乗の評価のせいで個性が消えてしまった

「クルマを本当に理解するために必要なのは、サーキットを限界まで走らせることなのだろうか?」

乗り始めてしばらくして、そんな疑問が浮かんできた。私はNSXが大好きで、どうしてもマイナーチェンジしたモデルにも乗ってみたいと思っていた。それがようやく実現したのに、試乗中はその疑問が引っかかって消えなかった。

実はマイナーチェンジをする前のモデルは、一部のジャーナリストに「サーキットでの挙動が不安定だ」と酷評されていた。私もサーキットで試乗したのだが、クルマが滑り始めるまで攻めようとすると、確かにクルマを制御するのは難しい。

ただそれ以上に、普通に運転している時の楽しさや個性がもっともっと勝っていたから、私は「このままでいい!」と思っていた。サーキットで最大のパフォーマンスを出せるような安全なクルマにするなら、日常域のドライブではより安定方向になるに決まっている。そして、マイナーチェンジしたNSXは見事にそういうクルマになっていた。

「サーキットで不安な思いをするスポーツカーなんてありえない」それも正しい意見だとも思う。でも、約2400万円するクルマをサーキットで全開走行するオーナーなんて、この世に何人いるのだろう? それよりも、たまにガレージから出して運転した時に、ニヤリと笑ってしまうような楽しいクルマの方がスーパーカーとしてよっぽど価値があると思う。

それに、日々テストコースを何千回、何万回と全開走行しているテストドライバーがOKを出したものなら、無茶なことをしない限り一般の人も安全に運転できるはずだ。ジャーナリストが二、三度サーキット走行しただけで否定されて、クルマの性格そのものまで変わってしまうのは、ちょっと寂しい。牙を抜かれて丸くなったNSXを見ながら、ユーザーにとって本当に嬉しいクルマとはなんだろうと考える。これからもクルマの楽しさを広めていくために、改めて自分の記事のひとつひとつに魂と責任を込めようと誓った。

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伊藤 梓(いとう あずさ):ライター
クルマ好きが高じて、グラフィックデザイナーという異業種から自動車雑誌の編集者へと転身。2018年からクルマの魅力をより広く伝えるために独立。自動車関連のライターのほか、イラストレーターとしても活動している。

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