先行開発から10年、レース挑戦から5年で到達した「水素が当たり前の光景」。なぜTGRは“超電導”という未知の世界に挑むのか
掲載 carview! 文:ハシモトタカシ 16
掲載 carview! 文:ハシモトタカシ 16
もう1つトヨタが公開したのが超電導技術だ。残念ながら、今回レースへの実戦投入は叶わず、あくまでデモンストレーションのみだったが、世界でまだ誰も実用化したことのない超電導技術を手の内化するべく、トヨタは京都大学などの仲間と一緒に奮闘している。
超電導とは、極低温にすることで電流が流れても電気抵抗がゼロの状態のこと。液体水素カローラの燃料に使われる水素は、タンク内で-253℃に冷却されており、その極低温のタンクの中に超電導モーターを埋め込み、燃料ポンプを超電導モーターで駆動するという。
文字に書けばいたってシンプルな話だが、先に述べた通り超電導技術はまだ誰も実用化できていない未知の世界。しかも、静的な実験室ではなく、時に暑く、時に寒く、右に左に、上に下に強烈なGがかかり絶え間ない振動が襲うレーシングマシンの内部に収めるのである。
超電導モーター最大のメリットは、一般的なモーターに比べコンパクトで高出力が狙えること。タンク内にモーターと燃料ポンプを収めることで、タンク上部でスペースを奪っていた燃料ポンプがなくなり、燃料タンクの容量を大きくすることができる。
トヨタによると、タンク容量は現状の220Lから300Lまで拡大することができるそうだ。航続距離の大幅な延伸が期待でき、さらに重量物であるポンプがタンク内に収まることで重心高も下げられる。
現時点では、ボイルオフや燃料が減った際に上手く機能しないなど、レースで使うにはまだまだ課題だらけだが、高橋氏は次のように話す。
「気体の水素の時も液体の水素の時も、我々は十分テストしてレースに持ち込んでいるのに、必ず想定しない問題で出鼻をくじかれてきた。きっと超電導技術も(何か)起こるんだろうな、というのをワクワクしながら待っているのがこの人です(※伊東氏を指差す)」
トヨタは来年の富士24時間レース出場を目標に、レースで戦えるレベルまで超電導技術を鍛えていくそうだ。
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