I-PACEはジャガーの思想が反映されたクルマ屋らしい完成度を持つEV
掲載 更新 carview! 文:岡崎 五朗/写真:菊池 貴之
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キャビンがグッと前にでたショートノーズを特徴とするI-PACEのフォルムは、ロングノーズにコンパクトなキャビンを組み合わせた正統派スポーツサルーンという従来のジャガーデザインとは明らかに異なる。エンジンの時代、長いボンネットフードはその下に大きく強力なエンジンを搭載している=高性能であることの象徴だった。
しかしEVは違う。エンジンよりはるかに小型で補機類も少なくて済むモーターは長いノーズを必要としない。むしろ制約となるのはバッテリーで、運動性能を考えると大きく重いバッテリーは車体中央のできるだけ低い位置に置きたい。衝突時の保護という観点でも前後タイヤの間に収めたい。そこから導き出されるのが床下搭載だが、大量のバッテリーを積むためには大きな床面積が必要になる。となればホイールベースは長く、オーバーハングが短くなるのは自明の理。実際、I-PACEの全長は4695mmと5ナンバーサイズ枠内に収まっているものの、ホイールベースは2990mmもある。
EVとしては理にかなっている反面、「非ジャガー的」なフォルムをいかにジャガーに見せるか。I-PACEのデザインでもっとも苦労したのはその点だったと、チーフデザイナーのイアン・カラムは言っている。顔とお尻は紛れもなくジャガー流の仕立て。しかしフォルムは超が付くほど斬新。ちなみにジャガーらしさの表現として採用した特徴的なグリルは冷却用ではなく空力のためであり、入った空気は整流されつつフードから抜けていく。そんなI-PACEのデザインを果たしてユーザーはどう評価するだろうか? 往年のジャガーファンのなかには「ジャガーらしくない」と感じる人もいると思う。僕自身、もしこのクルマがサルーンだったらそんな印象をもったかもしれない。
ジャガーの巧みなところは、SUVというフィルターを通すことで違和感を薄めてきたことだ。I-PACEは決して典型的なSUVではない。むしろクーペテイストを採り入れたクロスオーバーモデルという表現が相応しいとすら思う。そんなモデルにSUVであることを示す「PACE」というネーミングをあえて付けてきたのは、いまSUVが売れ線であることに加え、新しいフォルムを受け入れやすくするための環境作りという狙いがあるのかもしれない。
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