■トヨタの強みは「トヨタ対トヨタ」図式だった?
2019年1年から9月に日本国内で売られた小型/普通車の内、トヨタが占める割合は、レクサスブランドを含めると47%に達します。
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今は国内市場で販売されている新車の37%が軽自動車なので、これを含めるとトヨタのシェアは30%ですが、小型/普通車市場では圧倒的に強いです。なぜトヨタはここまで高いシェア率を誇るのでしょうか。
トヨタがここまでシェアを広げた背景には、小型/普通車市場における他メーカーの弱体化もあります。たとえばホンダの場合、軽自動車の「N-BOX」などのヒットもあって、最近では国内販売台数の約50%を軽自動車が占めます。
そうなれば小型/普通車の割合は下がります。また、日産も軽自動車比率が34%に高まり、三菱では半数を超える55%です。
他メーカーの軽自動車比率が増えて、軽自動車に頼らないトヨタの小型/普通車市場における支配力が強まった面もあります。
そしてトヨタの1人勝ちが進むと、トヨタ車同士で競争関係が生まれます。トヨタブランド内の販売事情について、カローラ店の営業担当者は、次のように説明しています。
「売れ筋ミニバンの『ノア』が値引きなどで競争する相手は、兄弟車の『ヴォクシー』が圧倒的に多いです。次が日産の人気ミニバン『セレナ』です。
ホンダのミニバン『ステップワゴン』とは、ほとんど競いません。トヨタのコンパクトミニバン『シエンタ』も、トヨタのほかの販売系列が扱うシエンタとの競争が多くなり、その次がホンダのコンパクトミニバンの「フリード」と競っています」
※ ※ ※
ほかのメーカーが軽自動車に力を入れた結果、小型/普通車では「トヨタの敵はトヨタ」の図式が明確になります。
その結果、トヨタから新型車が発売されると、今まで人気の高かったトヨタ車の売れ行きが下がります。直近では2019年4月に新型SUVの「RAV4」が発売されて、同じトヨタのコンパクトSUV「C-HR」の売れ行きが下がりました。
C-HRはもともと外観の個性が強く、実用性よりも趣味性が重視される商品です。従って発売直後にユーザーの購買意欲を刺激して売れ行きを一気に伸ばし、その後は急速に落ち込みました。
時系列で説明すると、2016年12月にC-HRが登場して、2017年では登録台数の1か月平均が約1万台に達しましたが、2018年には6400台へ急落しています。
この後、2019年4月にはRAV4が発売され、C-HRのターゲットユーザーはさらに奪われました。2019年4月から9月の1か月平均は4200台です。
前年の同時期と比べても31%減り、C-HRが発売されたときの1か月の販売目標は6000台だったことから、今後テコ入れを積極的におこなわないと、目標に到達できません。
一方のRAV4は、2019年4年から9月の1か月平均が6500台を超えました。RAV4の1か月の販売目標は、3000台となりC-HRの半数ですが、現時点のRAV4の売れ行きはC-HRの1.5倍です。
RAV4が好調に売れる一番の理由は、商品の特徴と市場のニーズがタイムリーに合致したことです。過去を振り返ると、乗用車のプラットフォームを使うSUVは、1990年代の中盤に普及を開始しました。今では20年以上を経過して、小型/普通乗用車の20%を占める人気のカテゴリーに成長しています。
普及が進んだ代わりに、最近のシティ派SUVには、飽きられる傾向も見られます。トヨタ「ハリアー」、マツダ「CX-5」、ホンダ「ヴェゼル」などの車種が増えて、シティ派感覚をさらに強めたC-HRも存在し、飽和状態に陥ったからです。
その半面、SUV本来の悪路指向を意識させる車種は、大幅に減りました。後輪駆動ベースのSUVは、三菱「パジェロ」が廃止されて同クラスはランドクルーザーシリーズのでです。
日産「エクストレイル」は、前輪駆動ベースの4WDながらもオフロードのイメージを感じさせますが、現行型はシティ感覚を強めて今では設計も古くなりました。
SUV市場にこのような閉塞感が生じたとき、ちょうど良いタイミングで登場したのがRAV4です。ボディは大柄で日本向けではありませんが、最低地上高(路面とボディの最も低い部分との間隔)が190mmから200mmのボディを含めて悪路指向を感じます。
■今後は「トヨタの敵はトヨタ」が無くなっていく?
RAV4はSUVの原点に回帰する魅力もあり、注目を浴びてC-HRの顧客を奪いました。2018年に20年ぶりのフルモデルチェンジをはたしたジムニー/ジムニーシエラも、SUVの原点回帰を求めるユーザーの間で人気を高めています。
そしてRAV4に顧客を奪われたC-HRも、過去には別のトヨタ車のユーザーを奪った経験があります。C-HRが2017年に1か月平均で1万台以上を登録したときは、現行「プリウス」の売れ行きが大幅に減ったのです。対前年比で35%の減少でした。
さらに遡ると、現行プリウスもトヨタのコンパクトカー「アクア」の顧客を奪っています。2013年から2015年の小型/普通車の登録台数1位はアクアでしたが、2016年にフルモデルチェンジを受けた現行プリウスが1位になり、アクアは2位に後退しています。この年のアクアは対前年比が22%のマイナスです。
このように今の小型/普通車市場の販売上位は、新旧のトヨタ車だけで入れ替わっていることも多いです。高人気の背景には、メーカーの商品開発力と併せて、販売店の系列化もあるでしょう。
ほかのメーカーは2010年までに系列を撤廃して車種数も減りましたが、トヨタは今でも東京地区以外は系列化されています。プリウス、アクア、C-HRなどは全店が扱いますが、RAV4はトヨタカローラ店とネッツトヨタ店のみです。
系列があるために、トヨタは同じカテゴリーに複数の車種をそろえ、売れ行きを伸ばしました。ユーザーはトヨタ車のなかから、用途や予算に応じて複数の車種を選べる自由があります。
販売系列間では、トヨタ同士の競争も生じます。ユーザーの選べる自由と販売会社の競争が、ユーザーの利益に結び付いてトヨタの強みになりました。
しかし今後はどうなるか分かりません。2020年5月には、東京地区に続いてほかの地域でも、トヨタの全店が全車を扱う体制へ移行するからです。
トヨタにはメーカーの資本に頼らない地場資本の販売会社が多く、4つの系列は残りますが、全店が全車を扱うと実質的に系列の意味は薄れて形骸化します。
そしてヴォクシー/ノア/エスクァイアのような姉妹車は不要になり、ミニバン人気の火付け役ともいえる「エスティマ」が廃止されて「マークX」も2019年中に終了します。
販売系列ごとの専売車種があると、販売店の財産だから廃止は困難ですが、全店が全車を扱えば廃止も可能です。このように国内で売られるトヨタ車の車種数を半減させて、合理化する方針です。
こうなるとすべての販売会社が同じ車種を扱うので、同じ地域内では、販売会社同士の過当競争が激化します。その一方で車種数が減ると、「C-HR 対 RAV4」のような車種同士の競争は生じにくくなります。
直近では、「ヤリス 対 アクア」のような新たな競争関係も生まれますが、今後「ヤリスがあればアクアは不要」といった判断をされると、1カテゴリーに1車種の品ぞろえに集約され、トヨタ車同士が競うトヨタの強みが薄れ、次第にほかメーカーと同じようになる心配があります。
「販売系列をなくせば、全店で全車を買えるから便利」といわれますが、別の見方をすると、1つの店舗で扱える車種数には限りが出てくるのです。
つまり全店が全車を売る本当の目的は、車種数を減らすリストラです。その結果、日産は、軽自動車「デイズ/デイズルークス」、コンパクトカー「ノート」、セレナ、エクストレイルの5車種だけで、国内で売られる日産車の約70%に達します。
仮に日産に専売車種を含めた系列が残っていたら、この販売状況では販売会社が成り立ちません。以上のように考えると、全店が全車を扱う方針は、後ろ向きの市場戦略であることが分かるでしょう。
小型/普通車を愛用する人達のために「トヨタの敵はトヨタ」であり続けて欲しいと思います。
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