ここのところ販売台数ランキングトップの常連となっているトヨタ ヤリス。では2位はどうだろうか。2021年に入ってからの1月から6月は全てトヨタ ルーミーが2位となっている。
ここでは2位のルーミーに目を向け、ライバル車であるスズキ ソリオと比較しながら、ルーミー好調の理由を探っていく。
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文/小林敦志、写真/ベストカー編集部、SUZUKI
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■盤石のツートップ!! トヨタ ヤリス&トヨタ ルーミー
トヨタ ルーミー。2021年の月別ランキングで、1月から5月まで毎月2位となっている
自販連(日本自動車販売協会連合会)の統計によると、2021年5月単月の登録車のみとなる販売台数ランキングをみると、トップはここのところ常連となっているトヨタ ヤリス(含むヤリスクロス)となるが、2位を見るとヤリスより5000台ほど少ない、1万1597を販売したトヨタ ルーミーとなっている。
2021年に入ってからの単月ランキングをみると、ルーミーはいままで、つまり1月から6月まで毎月2位となっている。つまり、登録車のみの販売ランキングでは、ヤリスとルーミーの2トップ状態が続いていることになる。
ルーミーは兄弟車のタンクとともに、2016年11月9日にダイハツ トOEM(相手先ブランド供給)としてデビューしている。ちなみに、このほかスバルへも“ジャスティ”の車名で供給されている。
自販連の販売統計をもとに、2016事業年度締めから、2020事業年度締めまでの、ルーミー、タンクそして、ルーミーのライバルとされているスズキ ソリオのそれぞれ年間販売台数の推移を棒グラフで表してみた。
事業年度別年間販売台数推移
ルーミーとタンクについては、2016事業年度については2016年11月9日デビューなので、11月もフルカウントとすると、事実上5カ月間の累計販売台数となるが、それぞれ月販目標が3750台なのに対し。ルーミーが月販平均台数約5009台なのに対し、タンクは約5507台となり、タンクのほうが売れていた。
ソリオは先代モデルが2015年にデビューしているので、2016事業年度はフルカウントの状態となるが、月販目標台数3500台に対し、月販平均台数が約3982台となっている。2016年にルーミー&タンクがデビューするまでは、ガチンコでぶつかるライバルはいなく、よく売れており“我が世の春”を謳歌していた。
ルーミー&タンクが登場したあとは、ソリオが販売台数で呑みこまれてしまうのではないかという話もあったが、2017事業年度はルーミー&タンクの相乗効果があったようで、年間販売台数で5万台オーバーとなり、その後も年間販売で4.5万台前後をキープしており、ルーミー&タンクの悪影響はほとんど受けていないと考えていいだろう。
2020年9月のマイナーチェンジのタイミングでタンクは生産終了となり、ルーミーに一本化されている。この時(ルーミーに一本化された時)のルーミーの月販目標台数は8700台。これに対し2020年10月から2021年3月までの半年間の平均月販台数は約1万1464台となっている。
一方のソリオはこの期間中となる2020年11月にフルモデルチェンジを行っているが、月販目標台数4000台に対し、平均月販台数が約4520台となっており、統計上はルーミーに押されることなく、堅調な販売が続いている。ネットワークなどの販売力の差を見れば大健闘といってもいいだろう。
■ライバル車ソリオにあってルーミーにないもの
トヨタ系ディーラーによると、ルーミーはスズキ ソリオと比較検討するユーザーが多いとのこと
“トヨタ一強時代”などと呼ばれる最近では、トヨタ系ディーラーのセールスマンに話を聞くと、まずライバルメーカー車のクルマと商談でぶつかることはなくなったとのことである。
ただし、「ルーミーですと、スズキのソリオとぶつかることが多いですね。値引き競争では自信があるのですが、たまにソリオに注文を持っていかれることがあります。値引きで負けるのではなく、クルマの魅力で負けるのです」と語ってくれた。
ソリオにあって、ルーミーにないもの、それは“ハイブリッド”というおまじない。ソリオは先代モデルではストロングタイプまでラインナップしていたのだが、現行モデルではマイルドハイブリッドのみとなっているが、新車購入の上で、ハイブリッドというおまじないの効果は大きいようである。
ルーミーはターボもあるが、NAとともに1000ccエンジンを搭載しており、ソリオの1.2Lエンジンのみに対して、自動車税の安さでアドバンテージがあるのだが、ハイブリッドの存在でかき消されることも多いようだ。
ルーミーよりも、ヤリスクロス登場までビッグヒット状態であった、やはりダイハツ(ロッキー)からのOEMとなる、コンパクトクロスオーバーのライズとともに、人気車で販売実績もすごいのだが、それでも「ハイブリッドがないからなあ」ということで、契約までにいたらないこともあるとセールスマンから聞いたことがある。
それでは、ハイブリッドもないダイハツからのOEMであるルーミーが、月販で1万台を超える時もあるほど人気車であり続けられる背景についてみていこう。
■コンパクトMPVの元祖はルーミーではない
後部サイドドアにスライド式を採用するコンパクトMPVはルーミーが最初ではない。ライバル車であるスズキ ソリオで具現化した形だ
ルーミーのような、後部サイドドアにスライド式を採用するコンパクトMPV(ミニバンのような3列シートではない多目的車)というコンセプトはスズキが2010年に2代目(ワゴンRの拡大版ではなく、オリジナルデザイン採用では初代)となるソリオで具現化し発売されている。
前述したとおりルーミー系が登場するまでは、ライバルもなくヒット街道をひた走っていた。
つまり、ルーミー系はいわゆる“二番煎じ”モデルと言ってもいい存在なのだが、不思議なことに、ルーミーが登場して初めて「こんな便利そうなモデルが出たんだ」と気がつくひとが意外なほど多い。
つまり、ソリオのころでは目に留まらなかったが、トヨタがソリオの対抗馬として世に送り出し、テレビコマーシャルを頻繁にオンエアするなど、宣伝活動を活発化したことで初めて、その存在に消費者の多くが気づいてルーミーがヒットモデルの座を奪ってしまったということは否定ができない。
ダウンサイズ需要というものが目立つ昨今でこそ、“仕事をリタイアして高齢にもなったから、クラウンからワゴンR”といった乗り換えも珍しくなくなってきている。
しかしそれでも、スズキやダイハツなど、軽自動車がメインのブランドに対し、コンパクトモデルから大型セダンまで幅広くラインナップをそろえる総合ブランドしか興味がないというユーザー層が一定層存在する。
ホンダN-BOXのビッグヒットや、日産のデイズやルークスといった軽自動車がよく売れるのも、「総合ブランドがラインナップするなら」とのことで、いままで軽自動車に縁遠かった人が選んで乗ることも影響しているのである。
一方で、スズキやダイハツの軽自動車などを乗り継ぐひとも一定数おり、そのようなひとはトヨタや日産といった総合メーカーのモデルには興味がないひとも目立つ。
つまり、ルーミーが年間10万台以上販売しても、ソリオはコンスタントに月販目標を上回る販売台数を維持できるのは、お互いのブランドに馴染まないユーザーが一定数存在することがあるといってもいいだろう。
■トヨタブランドでMPVが出るというインパクト
トヨタブランドでルーミーのようなMPVが登場したインパクトは大きい
いわゆる“リッターカー”とも呼ばれる、軽自動車に近いサイズのコンパクトセグメント(登録車)では、いまもトヨタ ヤリスや同パッソ、日産ノート、ホンダ フィット、マツダ2、スズキ スイフトなど、ラインナップではハッチバック車がメイン。
そのなかで、トヨタブランドでルーミーのようなMPVが登場したインパクトは大きい。
N-BOX、スペーシア、タント、ルークスと言った、ハイト系軽自動車では、“子どもが車内で立ったまま着替えができる室内高の確保”というのは、“マスト”とのこと。ルーミーとソリオも、室内で子どもが立てるような室内高が確保されている。
さらに、自転車の積載性能というものも重視される。
スズキ系ディーラーでは、「ルーミーは、サイズにもよりますが、後席を倒せば自転車2台を無理せず積載することが可能です。新型ソリオではその点もクリアするために、あえて前後席、つまり居住空間の長さを詰め、その分を積載スペースの寸法アップに使っています」と説明を受けた。
そして、この2台は登録車なので、軽自動車の乗車定員が4名なのに対し、5名となるのである。ルーミーもスイフトもカタログ上では、子ども2名に大人2名が登場しているが、乗車定員が5名になるのも魅力のひとつである。
ルーミーは確かにスイフトから見れば、“二番煎じ”と言ってしまうこともできるが、トヨタでは、いままでルーミーのような“軽自動車っぽい多目的車”がなかったところで、トヨタユーザー内でブレイクしたのもヒットした要因のひとつといえるだろう。
また、N-BOXやタント、スペーシアなどに興味があっても、なかなか軽自動車の購入に踏み切れないひとは、トヨタ車以外のユーザーにも意外に多い。
あるトヨタ系ディーラーのセールスマンは、「なかなか商談が進まないお客様に、『このようなクルマもありますよ』とルーミーをお勧めすると、あっさりと契約までいくことも多いです」と語ってくれた。
ルーミーはすで子育てを終えたミニバンユーザーが乗り換えるといったケースも多い。長いことミニバンに乗り慣れていると、一般的なコンパクトハッチバックにダウンサイズするよりは、馴染みやすいというところも大きいようだ。
■ルーミー&ソリオ人気には市場の縮小が関係!?
2020年にモデルチェンジした新型ソリオ。ソリオの二番煎じであるルーミーをさらに研究して開発されたともいわれている
新型ソリオは、ルーミーを丹念に研究して開発されたようで、専門家のなかにはルーミーより高く評価(設計年次がルーミーのほうが古いので仕方ない面もあるが)する声がある。
ただ、スズキ系ディーラーでは、「ルーミーはオプションが多いですが、ソリオは標準装備も多く、しかも装備を奢っています」と説明しつつも、「販売力も含め売り方ではトヨタさんにはかなわないです」との声も聞いている。
ルーミーもソリオも、軽自動車のラインナップが豊富なダイハツとスズキのプロダクト。軽自動車とのプラットフォーム共用などを進めたからこそ、コスト問題をクリアして国内専売モデルとしてのラインナップを可能としている。
これは、現状では日産やホンダ、マツダなどでは残念ながら、トヨタのようにOEMにでもしなければ、なかなか実現不可能なプロダクト(三菱へはソリオをデリカD:2として供給)といっていいだろう。
日本車が元気いっぱいで、新車販売市場も右肩あがりだった80年代ならば、「ソリオ、ルーミーに続け」と、トヨタ(ダイハツ)、スズキ以外のメーカーも独自の“ルーミー的モデル”を投入していただろう。
しかし、国内新車販売市場は80年代最盛期の半分ほどに縮小し、そんな日本市場に日本人向けに特化した国内専売車を開発し、投入することは採算を考えるとかなり厳しい。ルーミーの爆発的人気と、ソリオの安定した人気は、ある意味国内新車市場の縮小がなければ実現できなかったともいえるのだ。
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