GR86とロードスター990Sでワインディングへ。カーブの数だけ言葉を交わすことができる
掲載 carview! 文:山田 弘樹/写真:市 健治 137
掲載 carview! 文:山田 弘樹/写真:市 健治 137
相変わらず、フロントの入りは抜群にいい。兄弟車であるスバル「BRZ」は、操作性とバネ下重量の軽減を目的にナックル(タイヤやブレーキを取り付ける転舵部品)をアルミ製に置き換えたが、GR86は敢えて先代と同じ鋳鉄仕様とした効果がきちんと出ている。
ブレーキングでフロントタイヤに荷重を乗せていくと、GR86は確かな手応えでその力を受け止め、ハンドルを切ればグイグイ曲がっていく。いや、曲がりすぎると言ってもいいくらいだ。
そしてここから、GR86の世界が始まる。
「曲がりすぎるならアクセルを踏めばいいんだよ」
「そのために最初からトルセンLSDを標準装備しているんだから」
「アクセルを踏み出すポイントが早くなってしまうというのなら、もう少しだけステアを遅らせればいい」
「スロットルで水平な姿勢を保ったまま、出口が見えたら徐々にアクセルを開けていくのもアリだ」
そんな風に、GR86との対話が生まれるのだ。カーブの数だけ言葉を交わすことができるから、いつまでも走り続けていられる。
2.4リッターとなった水平対向4気筒エンジンは、ベストな正常進化を果たしたと思う。額面だけで見れば235PS/250Nmの出力は世界のスポーツカーたちと比べて平凡だ。それこそトヨタ86がデビュー当時ライバル視していたポルシェ「ケイマン」などは、いまや「718ケイマン」へと進化して、ベーシックモデルでも300PS/380Nmの出力を得ている。
しかし、こうしたライバルと正面切って戦わなかったからこそ、GR86はオンリーワンのハンドリングを得た。ターボ化してインタークーラーを搭載すればその分重心高は上がり、後輪だけで高出力を受け止めようとすれば、リアタイヤが太くなってそのバランスが崩れる。
そういう意味で言うと718ケイマンがミドシップなのは理にかなっているが、ハイパワーなマシンが欲しければトヨタには「GRスープラ」があるのだ。
もっともターボ化をしなかった最大の理由は、環境性能とコストだろう。それでも先代トヨタ86に対してGR86は30PS/45Nmの出力向上を果たし、スポーツカーとしてはパワー感がやや物足りないという印象をきちんと払拭してくれた。
実際GR86を走らせて、遅いとは感じない。むしろパワーを使い切って走らせるには十分過ぎるほどであり、だからこそ自然吸気エンジンの扱いやすさに価値が出る。7500rpmからレッドゾーンに突入するエンジンは高回転でもサージングせず、トップエンドまできちんと回せる。トルクピークは2500rpmと低い回転で発生させているから、ショートシフトでも加速が鈍らない。
GR86を走らせていると、「どう? 楽しいでしょ!?」と無邪気に言われているような気持ちになる。開発ドライバーの思いが、そこにはポジティブに込められているような気がする。お世辞でも何でもなく、ここまで前向きに作られたスポーツカーはなかなかない。
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