新型グランドボイジャー 元祖ミニバンに理由あり
掲載 更新 carview! 文:佐野 弘宗/写真:荒川 雅臣
掲載 更新 carview! 文:佐野 弘宗/写真:荒川 雅臣
これだけ世界中にミニバンがあふれた現在にあっても、“元祖”であるクライスラー・ミニバンの魅力のひとつは走りにあった。といっても、それは高速でSクラスを追い回せるくらい速いとか、山道でランエボを突っつけるほどハンドリングがシャープ…という意味ではもちろんない。
そうではなくて、とにかくすべてに絶妙なサジ加減なのである。過敏でもなく鈍すぎもせず、十二分に速いが動力性能をことさらに誇示するわけでもない、すべてに角が取れた大人のチューニングである。重くて背高のボディをどのように動かせばストレスなく快適に運転できるか…を、さすが世界で最も長いミニバン経験を持つクライスラーは分かっていた。セダンやSUVでは過剰に鋭いスロットルレスポンスと過敏なクイックステアリングを売りとするアメリカ車も多いが、少なくともこれまでのグランドボイジャーはその正反対。そしてその美点は、この新型でもまったく健在である。
先代と大きく変わらないウェイトに、0.5リッターも拡大されたエンジン、クロスレシオの6速ATが与えられた動力性能は確実に先代より強力だが、かといって荒っぽい操作でも後ろで寝ている住人をたたき起こすような下品さは皆無だ。OHVらしいバルブ周りのノイズが目立つエンジンはことさら静かでもないし、超絶な全開加速を披露もしない。初期レスポンス(だけ)が鋭いパワートレインに慣れきっていると、物足りないと感じてしまうかもしれないが、とくに気を使わないでもまろやかな加速が可能で、しかもスロットルに乗せた右足だけで微妙な速度調整もピタリと決められるのはさすがであり、非常に運転しやすい。
大径17インチホイールを履くリミテッドでも、そこには安っぽいスポーティな演出はほとんどなく、乗り心地は良好で、ステアリングも絶妙に鈍い。しかし、グランドボイジャーの走りの真骨頂を味わえるのは、16インチを履くツーリングのほうである。17インチではステアリング中立付近に不感帯があり、あるところからグッとコーナリングパワーが立ち上がるポイントが存在する(とはいっても下品な動きを誘発するほどではないけど)のだが、16インチは全域でリニアそのもの。急激な横Gを立ち上げず、弧を描くように上品なコーナリングラインを描きやすいのは、間違いなく16インチである。路面からの突き上げもわずかながら16インチのほうが快適だし、タイヤ幅は両グレードとも225なので限界性能に実質的な差もない。
リミテッドとツーリングの両グレード間には、ホイールサイズのほかに、エクステリアやシートヒーター(1列目と2列目)やHDDナビの有無などそれなりに装備差もあるのだが、販売店オプションでツーリングにもダッシュ内蔵型ナビが装着可能(ただしナビ本体は違う)だそうなので、個人的には安価なツーリングのほうを積極的に選びたい。
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