フィットとヤリスをサーキットで乗り比べるとどうなるのか? 次期型フィットRSの走りも見えてきた
掲載 更新 carview! 文:山田 弘樹/写真:ホンダ技研工業 173
掲載 更新 carview! 文:山田 弘樹/写真:ホンダ技研工業 173
モータージャーナリストが主催する「TOKYO NEXT SPEED」と、ホンダ開発陣がタッグを組んだJOY耐仕様フィットの試乗会。さてここからは、真打ちの登場だ。コースに待ち構えていたのは、青いボディカラーが鮮やかな、車高の低いレーシング仕様のフィットである。
その概要を見て行くと、まずベースとなるのはe:HEVの「BASIC」グレード。カーペットやアンダーコート、レースには必要のない装備がストリップダウンされた代わりに、広い室内にはドライバーの命を守るロールケージが張り巡らされている。
面白いのはエアコンが取り除かれていないことで、これにはふたつの大役がある。ひとつはバッテリーの温度上昇を防ぐべく、ダクトでリアまで冷風を導いている。そしてもうひとつはドライバーの冷却用。クルマの性能を維持するか、ドライバーの性能を維持するかの判断は、ドライバーに委ねられているのだという(笑)。
レーシング・フィットのアーキテクチャーは、足まわりを除いて基本的に市販車と同じだ。エンジンは1.5リッターの直列4気筒DOHC。これに2モーター式のe:HEVを組み合わせている。
ハードは量産パワートレインをそのままに。しかしその制御データを変更することで、レース用のパワーマネージメントが得られている。
まずジェネレーター出力は70kW(90PS)から78.8kW(107PS)へ、駆動用モーターは80kW(109PS)から96kW(131PS)へと出力を向上。
さらに昇圧機(VCU)も制御をレース用に変更することで、そのシステム電圧が570Vから600Vへと高められている。またバッテリーは市販車用の耐久性マージンを削り、その使用領域を拡大している。
こうした変更によって得られる効果は、中間トルクの向上。そして最大トルク継続時間の拡大だという。
またサスペンションを強化したことで車体のピッチングが抑えられ、アクセルレスポンスを高めることができた。逆にウエット走行時はそのレスポンスを緩め、接地性を確保することが可能だという。
いかついバケットシートに潜り込み、レーシングハーネスを締め込んでコースイン。
一体どんな加速をするのだろう? と身構えながら、思い切りアクセルを踏み込んでみた。………!? 一瞬グッと前に出たものの、まったく加速しない!?焦って車内を見回してみると、シフトが「B」モードに入っていた。普段回生ブレーキに使うこのモードを、レースではピットレーンリミッターに使っているのだ。
気を取り直してDモードに。すると今度は、間髪入れずに加速した。
ちなみにその最大トルクは253Nmと、市販モデルと変わらない。
しかし前述の通りアクセルレスポンスは引き上げられており、加速体制に入るタイミングがとても早い。エンジンはアクセルオフでも発電を続けるため、ターンを終えてすぐにコーナーを立ち上がって行ける。この“間”のなさがとてもレーシーで、走らせているとかなりワクワクする。
モーター出力96kW(131PS)のスピード感は手に余るほどではないが、フィットと考えれば十分以上に速い。それがむしろ、コンパクトスポーツの楽しさにはちょどいいと思えた。そしてこれを新型フィットのスポーティモデル「RS」として仮想したとき、そこには“覗いてみたい未来”が見えた気がした。
ちなみに今回の試乗コースだと、距離の短さやブレーキングによる回生の多さから、このフィットが“電欠”することはない。しかしこれが4.8kmのロードコースになると、現状その電力は4コーナーで底を突いてしまう。よって予選では電気を貯めながらアタックのタイミングを伺い、レースではその電力を回生しながら配分して使うのだという。
問題は、簡単に言えばモーター出力(131PS)が発電機(即ちエンジンで107PS)の出力を上回ってしまっていること。街中であればこうした組み合わせでも電欠することはまずないが、常に全開走行を強いられるサーキットだと話は別で、バッテリーが底を突き、パワーダウンしてしまうのである。
これを補う一番シンプルな方法は、エンジンパワーを上げることだ。とはいえその排気量を増やすことは、環境性能車として本意ではないだろう。
となると残るは「HGU-H」か? これはエンジンの排気ガスを電気エネルギーへと変換するシステムで、まさに現代のF1が活用する技術。
「タービンを付けるのか!? そう簡単に言ってくれるなよ!」なんてホンダに言われてしまいそうだが、だからこその開発車両だろう! と言っておこう。
なぜならこのチームのには、HRD Sakura(モータースポーツ技術開発研究所)でF1に携わっていたエンジニアもいるのだ。というよりもホンダの市販車造りは、常にモータースポーツの現場とつながっているのである。
たしかに今はまだ、JOY耐仕様のフィットe:HEVはよちよち歩きだ。
しかし筆者はそこに、明るい未来を夢見たい。これぞパワー・オブ・ドリームだろう。
ホンダはこのe:HEVを、V-TECに変わる中核ユニットと位置付けている。であればやっぱりそこには、V-TECが持っていた走りの気持ちよさを実現して欲しい。
筆者はEG6やEK9といった、小さくて速いシビックで育った。高級スポーツカーが買えなくても、俺達にはシビックやハチロクがある! という世代である。
そして思うのだ。あの頃に味わった楽しさや気持ちよさ、そしてカッコよさを、今の若者たちが知らないままでいるのはどうなのか? と。
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