プジョー「208」試乗 クセはあれどそれを補って余りある高い質感と光る個性
掲載 carview! 文:伊藤 梓/写真:小林 俊樹 88
掲載 carview! 文:伊藤 梓/写真:小林 俊樹 88
208は、スペックを見れば紛れもないコンパクトカーなのに、日本車の同セグメントのクルマと比べると、骨格がもっとギュッと凝縮されて“骨密度”が増しているかのような、ワンランク上の剛性の高さを感じる。
ステアリングを切れば、ごく自然にクルマが右へ左へと追従してくるので、いつも通りの道を運転しているだけでも楽しい。乗り心地は、昔ながらのフランス車のようなふわふわした乗り味というよりは、もう少しコシが強くて、しっかりとした足回りになっている印象だ。ただ、不快な硬さはなく、路面の凹凸を走る時も、スキーのモーグルのように上手く衝撃をいなしてくれる。このエンジンとボディとサスペンションの三位一体が気持ちよく、ずっと走らせていたくなる。
気になるのは価格。コンパクトカーとはいえ、輸入車ゆえ同セグメントの日本車と比べると値段は高め。ヤリスとフィットのハイブリッドの最上級グレードが約230万円で、208 Allureは約260万円。「それなら日本車を買う」という人もいるかもしれないが、日本車のBセグメントではなく、Cセグメントを検討している人が208を選択肢に入れるのはアリだと思う。
208は、日本車と比べるとワンランク上の質感を持っているので、Cセグメントと比較しても、ネガティブな部分はボディサイズくらい。おそらくCセグメントを検討している人の中には、ファミリーユースではなく、基本的に自分で使うクルマとして考えている人も多いはず。もしサイズ感は208でも十分だと感じるなら、試乗だけでもおすすめしたい。
208を運転していて、少し寒くなってふとエアコンをつけた(※編集部注:取材日は気温10℃前後でした)。設定温度を24℃にする。なかなかあたたまらない。どうやら日本車の設定温度の感覚と違うようだ。エアコンのボタンが分からず、指先がうろうろ。エアコン用のパネルが無い。やっと見つけたタッチパネルのボタンで設定温度をマックスに。ようやくあたたまってきたことに苦笑いしながら、ハンドルを握り直す。
相変わらずブレーキペダルが変な位置にあるけれど、もう気にならなくなっていた。アクセルをぐいと踏み込んで、208にパワーを送り込む。弾むように208は飛び出していく。トトッ、トトッ、と、動物が4つの足を滑らかに動かして駆けているようなリズムが体に伝わってくる。小さくて軽いステアリングを回して、様々な道をすいすいと走っていくと、なんだか難しく考えていたことも、フッと吹かれた綿毛のように飛んでいくような気持ちになった。
208の欠点を探せば色々とあるのかもしれないが、ペットのように“その子らしさ”がある方が、愛着が沸くのがよく分かる。これだけクルマを返却するのが惜しくなったクルマは久しぶりだった。
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伊藤 梓(いとう あずさ):ライター
クルマ好きが高じて、グラフィックデザイナーという異業種から自動車雑誌の編集者へと転身。2018年からクルマの魅力をより広く伝えるために独立。自動車関連のライターのほか、イラストレーターとしても活動している。
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