時代の移り変わりとともに1世代で消えてしまった名作エンジンもある!
名機と呼ばれるエンジンは時間を越えて愛され続ける輝かしいもあれば、時代にマッチせずに消えてしまったり、名機の素質はあったのに1車種に搭載されただけで消えてしまった残念なものもある。ここでは、誰もが知っている、納得できる名機ではなく、マニアック&ちょっと変わり種の名機5選を紹介したい。
名車は「エンジン」抜きで語れない! 「RB26」「EJ20」「F20C」など異論なき「名機」6選
1)1LR-GUE型 単体価格約900万円! 生産台数は1日わずか1基の超絶ユニット
R35GT-Rに搭載されるVR38DETT型エンジンは日産の横浜工場で匠と呼ばれる職人が手で緻密に組み上げられ、発売当初の単体価格が400万円であることも話題となったが、日本にはこれを超える製造&組立方法で生産され、単体価格(補修部品)が約900万円といわれるプレミアムなエンジンが存在するのだ。
それが1LR-GUE型エンジン。自然吸気の4.8リットルV型10気筒という、スーパーカー並みのマルチシリンダーと聞けば、これが2009年に500台限定で発売されたトヨタのスーパースポーツ「LFA」のモノだと気が付く人も多いのではないだろうか。
560ps/48.9kg-m(日本初の500㎰オーバー)と欧州のスーパーカーと肩を並べるスペックも素晴らしいが、レッドゾーンは4.8リットルとしては驚異的な9000rpm、レブリミットは9500rpmというからまさにトヨタ渾身のパワーユニットといっていいだろう。そのため、オイル供給はレーシングエンジンと同じドライサンプ方式となっている。
開発には長年トヨタの高性能ユニットを手掛けてきたヤマハ発動機も参画。最初はV8という案もあったが、トヨタのF1エンジンや長年参戦してきた耐久レース(グループC)のイメージを踏襲するためにV10となったそうだ。
スーパーなのは数値だけでなく、ピストンはアルミ鍛造、コンロッドはチタン鍛造、クランクはクロモリ鍛造(前端にはねじり防止のダンパーが付く)などムービングパーツには高品質な素材を採用。シリンダーヘッドは軽量&コンパクトな設計で高効率シリンダージャケットや燃焼室の3D加工成型などの最新技術が投入されている。
そして、部品を1台の加工機を使って全個数の精度を確認。それらを手組みによって完成させる生産効率を無視した体制を敷いていた。ちなみにエンジンは1人で1基を担当し、本体には製造者のアルミネームプレートが取り付けられている。ここまで徹底した管理体制の下で組み上げられたエンジンは過去に存在せず、まさにトヨタの常識を打ち破ったといっていいだろう。単体価格約900万円といわれるも納得できるというわけだ。
2)SR16VE型 打倒ホンダ・VTECに掛ける日産開発者の意地で完成した逸品
1989年に登場したホンダの可変バルブタイミング機構VTECエンジンは、そのハイパフォーマンスからレースはもちろん、ストリートまでを速さで席巻。当時の1.6リットルのパワー競争をさらに過激にさせた。
打倒VTECを目標に日産、三菱(4G92型)、トヨタ(4A-GE型5バルブ)、いすゞ(4XE1型ターボ)が新エンジンを開発。なかでも、並々ならぬ意欲を持っていたのは日産だ。1990年代の日産スポーツハッチを受け持っていたのはサニーとパルサー。ただ、当時はスポーツユニットとして1.6リットルエンジンはなく1.8リットルのSR18DE型がそれを受け持っていたが、140ps/17.0kg-mとまったくライバルに歯が立たず、その争いに加わることができなかった。
そこで開発されたのが、同じSR型をベースに、排気量をダウン。当時最新であった可変バルブタイミング機構であるVVLを組み合わせたSR16VE型。175㎰/16.5ps-mのスペックは1997年当時の自然吸気エンジンとしてはトップの数値であったが、9月発売直前の8月にシビックSiRのパフォーマンスアップ仕様であるタイプRが185ps/16.3kg-mで登場したからさあ大変。
急遽なのか、もともと設定されていたのか、9月の発売と同時にN1耐久レース参戦ベース車両としてパルサー/サニー・ルキノVZ-R N1を200台限定でリリースした。 クラス最強の200ps/18.5kg-mを誇る通称「赤ヘッド」と呼ばれたSR16VE型の開発は日産とオーテックジャパンが受け持ち、燃焼室/ポート/吸排気のマニホールドを研磨。クランク/フライホールのバランス取りを行った上で、出力向上に対応して追加インジェクターを加えるなど、タイプR以上にエンジンに手が入ったメーカー謹製のチューンドエンジンだった。
このなりふり構わないパフォーマンスアップ作戦はまさに日産の意地以外なにものでもない。翌年にもバージョン ll として300台が追加されるなど人気は高かった。
3)MR16DDT型 日産で生まれ、ルノーで開花した最新テンロクターボ
2010年にジュークに搭載されたMR16DDTは1.6リットルでありながら、2.5リットルの出力と、2リッター並みの燃費を実現した日産の最新ダウンサイジングターボエンジン。
直噴で充填効率と燃焼効率を引き上げるとともに、カムとバルブリフターに表面処理、シリンダー内部にもGT-RのVR38DETTと同じミラーボアコーティング溶射を施し、フリクションロスを低減。さらに、吸排気両方に可変バルブタイミング機構(CVTC)を設け、小型でレスポンスのいいターボを装着することで低速式から高回転まで全域パフォーマンスを高める方向で煮詰めている。
効率重視のエンジンと思われがちな、MR16DDT型だが、もともとは日産の次期スポーツモデルのエンジンとして開発されていた。残念ながらその計画は断ち切れ、日産ではジュークに搭載されたのみで終わってしまい、日産からこのエンジンを組み合わせたスポーツモデルは現在のところ誕生していない。
が、スポーツモデルへの搭載はアライアンスを組むルノーで実現している。実は先代ルーテシアR.S.に搭載されている1.6リットル直噴ターボは型式こそ変わっているが、ほぼMR16DDT型であるし、現行のルノー・メガーヌR.S.やアルピーヌA110の1.8直噴ターボはこのエンジンをベースに進化したモデルなのだ。
ジュークターボの数値は190ps/24.5kg-mであったが、ルーテシアは220ps/26.5kg-mまで性能向上。1.8リットルターボに至っては300ps/40.0kg-mとリッター167㎰を絞り出すなど、スポーツユニットとしての潜在能力の高さと圧倒的なパフォーマンスを証明したといえる。
日産でスポーツモデルが開発されないのならば、トヨタのスープラのようにアルピーヌをベースとした兄弟車が出れば、もっとこのエンジンの魅力が国内で伝わると思うのだが…。
4)JC-DET型 R35GT-Rも上回るリッターあたり168psを誇る日本一の強心臓
ニュルブルクリンク最速を記録したこともあるルノー・メガーヌRSの高性能エンジンを超えるのがダイハツのJC-DET型だ。1990年に軽自動車が660ccに排気量アップされたことでラリーやダートトラアルのAクラス(1000cc以下)は軽ターボ一色となった。このカテゴリーの王者であったアルトワークスRに勝つために、ダイハツは車両レギュレーション(当時のターボエンジンは排気量に1.4を掛けることで排気量が決定されていた)を最大限に生かした「軽自動車の排気量よりも少し大きなエンジン」を作ってしまった。しかも搭載したのは小型車のストーリア(X4)。ひと回り大きなボディはトレッドも広く、車体の安定感にも貢献するなど、まさに勝つためにはなりふり構わないピュアなマシンだった。
エンジンはミラのJB型エンジンのボアを拡大し、排気量を713ccまでアップ。これに1300ccクラスの大型タービンをドッキングし、ブースト圧1.2キロをかけることで120pc/13.0kg-mを絞り出した(ブーストは調整可能で150psまで引き上げられた)。ちなみにリッターあたりの馬力は168.3㎰。これは当時の市販レプシロエンジンとして日本のみならず世界最高値であった。開発のコンセプト、エンジンメイク、潜在能力の高さを含め、まさにダイハツ版RB26ETTという印象だ。
エンジンフィールは小排気量に大径ターボを組み合わせたハイブーストエンジンゆえに、その特性は超ドッカンターボ。4500rpm以上でしか本領を発揮できず、常に高回転をキープし続けていないと速く走れないかなりのジャジャ馬であった。
当時はこの手のモンスターマシンが淘汰されていたこともあり、競技専用車にもかかわらず注文が殺到。’99年には正式なカタログモデルとしてラインアップに加わるなど人気を博した。
5)番外編 EN07型 働くクルマに合わせて生まれたメーカー謹製の高耐久エンジン
軽自動車としては数少ない直4エンジンであるスバルのEN07型。DOHCヘッドを持ち、スーパーチャージャー装着した最強バージョンはヴィヴィオRX-Rに搭載され、軽自動車最強の一角を担う高パフォーマンスエンジン(64ps/10.8kg-m)であった。
が、ここで紹介するのは赤帽軽自動車運送共同連合会(通称:赤帽)仕様のサンバーに搭載されたSOHCのスーパーチャージャー(58ps/7.5kg-m、RRのためインタークーラーが付かない)だ。
ヴィヴィオのような高性能やスペックを狙うのではなく、長距離移動で距離を重ねる運送業の過酷な使用を加味して特別に高耐久仕様に仕立てられたエンジン。これは360cc時代から続いており、当時の軽自動車エンジンは走らない、ライフが持たないといわれており、「これを何とか対策してほしい」という要望を自動車メーカーに話したところ、スバルだけが対策を検討してくれた、という経緯から生まれたそうだ。
具体的には、エンジンブロック、ピストン、クランク、ベアリングなどの腰下、シリンダヘッドの形状、バルブ周りなどムービングパーツの多く部品を専用品に交換している。このため、スバルの工場には赤帽仕様専用の製造ラインがあった。
赤帽仕様は通常走行&定期的なメンテナンスだけで20万kmでもオーバーホールなしで走り切れるタフさを持っている言われており。中古車のマーケットには50、60万km走っている個体が見受けられるなど、驚くべき耐久力を誇っていた。スバル製サンバーは2012年を最後に生産中止となっているが、いまだ人気は根強く、長く乗るために赤帽仕様のエンジンに乗せ換えるオーナーも多いそうだ。
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