ポルシェミュージアムへ 圧巻の歴史が一望に
掲載 更新 carview! 文:伏木 悦郎/写真:編集部
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ポルシェが明確なイメージとして僕の脳裏に刻まれたのは1972年、ハタチの時である。この年に公開された映画「栄光のルマン」は、スティーブ・マックィーン演じる主人公が前年の24時間レースを回想するシーンから始まった。ディテールは忘れたが、そのプロローグにナローボディのポルシェ911が登場する。ルマン市街のスポットを走る姿は印象的で、まるで優れたTVCMのように強く記憶に焼きついている(YouTubeで探してみよう)。
去年の9月、パリサロン取材に向かうエールフランスの機内プログラムに栄光のルマンのタイトルを見つけた。ほとんど反射的にリモコンを操作していた。とくに冒頭の十数分間は、僕がポルシェ911というスポーツカーを知った原体験。生涯初の渡航となった1980年の欧州取材の記憶(ルマン24時間も取材した)と重なるところもあり、その後の展開そっちのけで惹きつけられた。行きだけでなく、帰りのフライトでも何度も繰り返して観てしまったほどである。
そうだったのか…てっきりダークブルーと思っていた911は、実は渋い(メテオ)グレーだった。あらためて見るその姿はマックィーンのスター性に少しも引けを取ることがない。際立つ個性と存在感。(いま買うなら断然この色だな)小さなモニター画面で再確認したところで、よし911買うぞ! 根拠のない機運が盛り上がったというのはまったくの余談だが、あの時蘇えったポルシェ熱がパリサロン取材前日にルマンを訪ねる衝動を生み、半年後のツッフェンハウゼン詣でにつながったというのは本当だ。
クルマ好きの多くがそうであるように、ポルシェは気になる存在として常に僕の意識の内にあった。式場壮吉のポルシェ904(カレラGTS)と生沢徹のプリンススカイラインGTの伝説が生まれた第二回日本グランプリ(1964年)。当時中学に上がったばかりの僕には後で知る歴史上の出来事だが、1971年の富士グランチャンピオンシリーズ最終戦をTV観戦した記憶は鮮明に残る。やはり生沢徹がステアリングを握ったグリーンのポルシェ917Kは、初めて名前と形が一致するレーシングマシンとして記憶に留められた。
自動車メディアに身を置くようになった1980年代前半には、924カレラGT(80年)やグループCマシンの956(85年)などを取材で手にする機会を得た。そのことで距離がぐっと詰まる気分を味わったりもしたが、その後某国産グループCカー取材中の事故をきっかけに走りの表舞台から引いてからは、ポルシェとの関係は微妙に薄くなっていた。
プロのジャーナリストでありながら、長く自力でシュツットガルトのポルシェAGにアクセスしなかった。基本的にファン目線で見ているという意味ではアマチュアに近い。当然、忸怩たる思いはあった。今回ツッフェンハウゼンの本社で試乗車(カイエン・ハイブリッド)を借用し、ポルシェプラッツの「Porsche Museum」を訪ねようと思い立ったのは、エールフランス機内で呼び起こされた「お前が本当に好きなことは何なんだ?」というシンプルな内なる問いかけに始まる。それに答えてこそプロではないか。
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