ポルシェミュージアムへ 圧巻の歴史が一望に
掲載 更新 carview! 文:伏木 悦郎/写真:編集部
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本当のことを言うと、ベルリン・ローマ・ワーゲンタイプ64に関しては完全なる後知恵である。その左隣に展示された世界初のハイブリッドカー、ローナーポルシェ(1900年)のインホイールモーターとハブのほうが、事前の知識と目の前の現実が噛み合った。今ならあのアルミ無垢ボディが911のルーツでありポルシェの歴史の始まりと言えるが、正直に告白すると僕にとってのポルシェは1963年のIAAフランクフルトショーにデビューした911の後。歴史は興味深く楽しいが、最良のポルシェは最新のポルシェに尽きるのだ。
今回は1948年のポルシェAG以前のフェルディナンドとフェリーのポルシェ親子の仕事ぶりに触れ、911をデザインした孫のブッツィにつながる系譜を肌で感じることができた。ダイムラーベンツAG 時代のポルシェ博士の仕事(1928年製のメルセデス・ベンツ26/120/180psタイプSツアラー)をメルセデスベンツ博物館で見たことで、数多くの人間模様に彩られたモータウン、シュツットガルトの面白さにも思いが巡るようになった。
ポルシェAG創業から15年にわたって屋台骨を支えた356の歴代もなかなか趣が深い。1948年に試作されたリアミッドシップの356「No.1」ロードスター(VWの水平対向4気筒35psエンジン搭載、585kgのボディで135km/hを実現)をひな型に、より現実的なVWビートルのRRベースで具体化したのが356の実像だ。
当初はアルミボディだった356/2クーペとカブリオレ(49年)に始まり、ポルシェ博士の75歳の誕生日に贈られた黒の356フェルディナンド(50年)、ライトウェイトの精神が息づく605kgのアメリカ・ロードスター(53年)、スピードスター(55年)に356A(56年)、熟成の356Bカレラ2…展示は、停滞することなく進化し続けた過程を雄弁に物語っている。そこにはテクノロジーと人間の身体機能が適度にバランスした皮膚感覚があり、浸ってみたい誘惑に駆られる怪しい緊張感がある。356を愛する人の気持ちが理解できたような瞬間だった。
しかし、やっぱり何です。1964年製の911 2.0クーペの展示には心底魂を奪われちゃいました。なんたって色がいい。ドイツならではというか、ポルシェだけが上手に使いこなす地味派手なグレーに赤レザーのコーディネーション。2リッターボクサー6の130psに185/70R15タイヤの組み合わせで210km/hを得る走りのパフォーマンスのあり方は、トータルパッケージという現代的な視点からも好ましいバランス感覚を備えている。時計の針は戻せないけれど、クルマのデザインや商品性はこのあたりに帰ってもいいのではないだろうか。
911の歴史を彩る裏話としての注目は、T7という呼称が与えられたタイプ754(1959年)というボディデザイン。ポルシェデザインを創設したフェルディナンド・アレキサンダー・ポルシェ(=ブッツィ)の手になるそれは、リアに二人分のシートと普通のトランクに見える独立したエンジンフードを備える。スポーツカーとしてのエモーションより機能主義的な乗り物であることを優先したデザイン感覚は、現代目線でも妙に引っ掛かる。ファストバックのスポーツカールックにこだわる父親の賛同を得られず変更を余儀なくされたという記述に、ポルシェAG創設者フェリー・ポルシェの隻眼を知る思いがしたが、後のポルシェのブランド資産となるフロントデザインはそのまま活かされている。
興味深いのは、その後も911シリーズでフル4シーターの開発が継続されていた事実。タイプ915プロジェクト(1970年) の展示は、代を重ねて成長した997に慣れた目には「これはこれでありでは?」と思わせるものがある。ホイールベースを350mm延長した企画は結局ボツとなったが、開発そのものは4年間にわたって続けられたのだ。
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