旧オーナー伏木悦郎が 新旧プリウスで哲学!
掲載 更新 carview! 文:伏木 悦郎/写真:編集部、トヨタ自動車
掲載 更新 carview! 文:伏木 悦郎/写真:編集部、トヨタ自動車
エコアイコン、エアーマネージメント、陶器質感……。デザイン陣の話に耳を傾けているとつい引き込まれた。旧車オーナー目線で眺めていると、これまでの取材プロセスがあらためてフラッシュバックしてきた。
センターメーター、楕円ステアリング、バイワイヤーのエレクトロシフトマチック……。インターフェイスはプリウスIIで採用されたアイデアがすべて再導入されている。
ところが、ドライバーズシートの印象は全然違う。プリウスIIのインテリアを端的に表現すると集約化、単純化、そして開放化だ。情報量は必要最小限にし、普段必要のないものは階層の下に隠して見せない。
僕は普段、センターマルチディスプレーは燃費モニター画面にして、ナビ画面は必要な時だけ開く。走行時の情報はなるべくシンプルが好ましいからね。目を楽しませるスイッチやディスプレイは愉しいが、身体に優しいとはかぎらない。
プリウスIIの運転席まわりは、開放感を優先した造形。いい意味でゆるく柔らかい乗り味に見合う。中央に据えられたマルチディスプレイは乗員全員に均等に情報を提供するし、4名乗車時の居住空間にも配慮が感じられる。
プリウスIIIは、きっぱりドライバー中心を打ち出した。アーチ型センタークラスターを採用し、いわゆるスポーティな走りを意識した雰囲気作りを演出する。プラットフォームを共有するオーリスに由来するの? せっかくの開放感を捨てた理由を尋ねると、それはないという。
操作系と表示系に分けたレイアウトは、一見整理されて手際がいい。しかし、スイッチ、ディスプレイともに数が多く密集しすぎで、個々のサイズも小さい。いずれも目の衰えが気になる世代には切なくも辛い。新機軸のタッチトレーサーディスプレイも指先と視覚のシンクロに難があり、煮詰めの甘さを感じた。
プリウスIIではユニバーサルデザインの概念が導入され、誰にでも扱いやすいことに力点が置かれた。プリウスIIIでも受け継いだということだが、よく言われるクルマらしさを優先するあまり肝腎を削いだ感がある。
車両の形式名はNHW20からZVW30に変わった。これはエンジンがN系の1.5リッターからZ系1.8リッターに換装されたため。トヨタマニアなら知って当然のトリビアだが、この排気量アップはおもに高速燃費の向上を目的になされている。拡大を続ける海外市場での競争力アップが狙いで、プラットフォームの変更もそこに掛かっている。
ステアリングを握ってまず印象的なのは、動き出しの力強さだろう。無音からモーターだけで走り出すEVスタートはTHS-IIならではの走りの個性。駆動用と発電用のモーターを別個に備え、遊星ギアを駆使した3軸の動力分割機構によって、エンジンとモーターを有機的に結びつける。スムーズなモータードライブとアイドリングストップは、一度経験したら元には戻れない。信号待ちでエンジンが回っていることが無駄に思えるようになる。この意識の変化こそが、燃費と並ぶプリウスに乗って得られる価値であり、21世紀的モビリティの原点なのだと思う。
THS-IIの仕組みは基本的に同じだが、新旧ではレベルが違う。モーターそのものの出力アップに加えて、モータードライブ時の速度と走行時間がのびている。従来から存在するEVモードの上限は55km/hに。そういえばこれまでノーチェックだったので試してみると、全開で約500m走れた。バッテリーの状態にもよるが、フル充電時に抑えて走れば2kmぐらいは可能だろう。
ハード面の変更点は、リダクションギアの追加、昇圧回路の高圧化(500→600V)、バッテリーの高効率化など。いずれも動力性能の向上と燃費の低減を目的としたものだが、力強い走りだけでなく、上質で静かな乗り味にも大きく貢献している。
今回の行程は東名高速が中心。新設された走行モードは基本的にECOモードを選んだ。とくにエコランを意識したわけではないが、ことさら急ぐ時以外にはPOWERモードは使いたくない。走りはストレスフリーとなるが、その分燃費にしっかり反映されるからね。らしくない……と言われそうだが、僕は時代の変化を痛切に感じている。
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