アストン・ラピード試乗 スポーツカー足りえたか

座れて積めるよく考えられたリアシート空間

そのリアシートに座るチャンスは意外と早くやってきた。ヴァレンシアに着いた日の夕食は、ホテルから離れた場所にあるレストランに出掛けると予定表に書いてあったが、なんとそのレストランまでの豪華なシャトルとして、ショーファーつきのラピードが10台ほど、ホテルの前にやってきたのだ。早速、そのなかの1台のリアシートに収まった。

僕は運転席の後ろの席に座ったのだが、幸いドライバーは小柄な人物らしく前席がけっこう前にセットしてあったから、レッグルームはまったく充分、しかもヘッドルームにも圧迫感は皆無だった。したがって、少なくとも前席の住人がさほど大柄でなく、同様に後席の住人も特に大柄でなければ、ラピードのリアシートは大人がまったく無理なく座れる空間を持っていること、つまりそれがフル4シーターと呼べる居住スペースを持ったクルマであることを確認できたのだった。しかもその、トランスミッショントンネルで隣のシートと遮られたタイトな空間が、僕にはむしろ心地好く感じられた。子供の頃、狭いけれど居心地のいい自分だけの秘密の隠れ家にこもった、あの気分。しかも走り出したら、後輪からの突き上げは充分に和らげられていて、乗り心地も存外快適なものだった。

ラピードのリアシートとその周辺は、感心するべきアイデアに満ちた空間だった。まず驚いたのは、後席のバックレストの直ぐ後ろにかなり広い手荷物置き場が備わっていることだ。これは、ちょっとした大きさの鞄なんか持ってリアシートに座ったときには、それを膝の上に抱えていなくて済むから、とても有り難い。その空間は、テールゲート下のラゲッジフロアをツイタテで分割することによって生み出されているのだが、V8ヴァンテージのような2座スポーツにもシート直後に必ず有効な手荷物置き場を設けているアストンマーティンらしい、実に気の利いたデザインだ。しかもバケットタイプのリアシートは、バックレストの上半分を前に倒すことが可能で、そうするとリアからフラットに繋がる荷室フロアを生み出すことができる。前輪を外したマウンテンバイクだって積める、と豪語していたほどだから、どうやらそれ、ベッツ社長のアイデアから生まれたものらしい。