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ボクスタースパイダー 「911じゃなくても良い」

ミッドシップの理想とも言える走り

こうした違いはおそらく、結果的に911が採用するRRと、ボクスターが採用するミッドシップというレイアウトの違いに帰結するのだろう。つまり911の場合、もともとのレイアウトが特異なだけに、不要なものを削ぎ落としていくとその特異性が際立つため、レーシングカー的手法を用いる必要があり、アスリート的な走りとなる。

一方、ボクスターはもともとが運動性能的に優れたレイアウトを持つゆえに不要なものを削ぎ落としていくとそのピュアな部分が際立つため、911ほどハードな仕立ては不要となり、走りもよりスッキリとした感覚が手に入るのだろう。もっとも最終的には1275kgという軽量っぷりと、オープンエアでそれを味わうという環境の違いが、このクルマをさらに軽やかなスポーツに感じさせているのだろうが。

かくしてボクスター・スパイダーには、911の濃さとは全く異なる方向性の、ミッドシップの理想ともいえる走りの気持ち良さが生まれ、これが独自の“濃さ”となる。ゆえに911でなくても良い、と思えるわけだ。

それ以上にハッとさせられるのは、ボクスター・スパイダーというモデルが成立する手法と結果手に入れた感触の関係。もちろんボクスター・スパイダーをしてエコだ、というつもりはないけれど、結局メインとなる軽量化は今注目の技術であり、それを施すことによって運動性能が向上することは視点を変えると高効率化、ともいえる。今までより軽いなら、今までより速く限界高く走れるが、見方を変えれば今までと同じ速さや限界を実現するのに使うエネルギーは減少するわけだ。しかも、そうした高効率化が行われたことと同時に、フィーリングが向上していることも忘れてはならない。視点を変えると高効率化と気持ち良さは一体だという風に言えるのだ。

そう考えると、最近巷で騒がしいハイブリッドやEV、それに付随した高効率化技術等を見る視野に広がりも出てくるように思える。

もちろんボクスター・スパイダーは、決して時代の要求にバッチリ答えているタイプのクルマではない。が、しかし、それを成立させる手法には、イマドキのクルマを見つめ直すヒントにもなる、自動車の原理原則が実は静かに語れていたりするのだ。

と、そんなことを記していたら1年前にこのボクスター・スパイダーが発表されたLAショーでは、ボクスター・スパイダーのクローズド版ともいえる“ケイマンR”が登場した。こちらは屋根付きゆえに、ボクスター・スパイダーよりは硬派かもしれないが、これによってますます、911じゃなくても良いかも…の選択肢は増えたわけで、贅沢な悩みを抱えたオーナー予備軍が増えそうな予感だ。

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