落札価格20億と言われた最古のポルシェが売れ残り。理由はサザビーズのミスとナチスの影にあった
掲載 更新 carview! 文:木村 好宏/写真:Kimura Office
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オットー・マテはこのタイプ64を気に入り、一年後に購入した。その後、このタイプ64はいくつかのレースに参加。1950年のアルペン・カップでは優勝を果たしている。このクルマは彼が1995年に没するまで彼の下にあった。
その2年後、ポルシェ収集家のトーマス・グリューバーが購入、フルレストアして今回のオークションに登場したわけである。前評判では20億円という天文学的な額が噂されていた。
ところが、このタイプ64は落札されなかった。理由はいくつかあったが、一番の“事故”はオークション会場のデジタル表示が1300万ドル(約14億円)のはずが3000万ドル(約32億円)に、さらには1700万ドル(約18億円)が7000万ドル(約74億円)にと2度も大きな間違いを表示したことで、入札者が辟易してしまったのだ。
さらにこれは私の考えだが、このクルマは正式には“最初のポルシェ”ではない。すでに説明したが、タイプ64はポルシェとエルビン・コメンダ(Erwin Komenda)とヨーゼフ・ミックル(Josef Mickl)など彼のチームが設計製作したのは確かだが、当時のポルシェは“設計事務所”であり、自動車メーカーではなかった。故に正式に認可をとってNo.1カーとなったのは356ロードスターだったのである。
そしてこのクルマはあまりにもキナ臭い。つまり当時のナチス政権による国威高揚のイベントを盛り立てるために製作されたものなのだ。故に翌日の報道では「ナチの遺産は落札されなかった!」というタイトルまで見られたほどだ。
アメリカのコメディアン、ジェリー・サインフェルドがそうであるようにリッチなポルシェ ・コレクターの多くはユダヤ人である。彼らにとってタイプ64は負の遺産なのだ。ポルシェ博物館がこれまでにこのクルマに興味を示さなかったのは、こうした理由があるのかも知れない。
こうしてタイプ64は多くの人々の前から夢のように消え去った。こんな悲惨な結果ではしばらくは公の場には出て来ないと思う。例外的に実車に触れさせてもらった私は“強者どもが作った80年前の夢の跡”をひしひしと感じたのだった。
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