初代とぜんぜん違うトヨタ ミライは現時点で最高のFCVに仕上がったが、黒塗り社用車としては後席が微妙
掲載 更新 carview! 文:塩見 智/写真:望月 浩彦 93
掲載 更新 carview! 文:塩見 智/写真:望月 浩彦 93
官公庁が次世代車両普及政策の一環として採用するのみではなく、多くの一般ユーザーに純粋に魅力を感じて買ってもらうことを目指したという2代目ミライ。まだ発表されていないものの「初代(約740万円<ただし補助金が約200万円出る>)より安くします」と関係者が漏らすように、戦略的な価格となるようだ。この内容で約500万円ということであれば、興味を示す新しいモノ好きも少なくなく、現在黒塗りのクラウンやレクサスを社用車として導入している企業の導入も十分に考えられる。
そのことを踏まえてパッケージングを確かめてみると、ラゲッジスペースの容量と形状に不満はないが、後席がもう少し広ければ良かったのにと思う。膝前、頭上ともにOKレベルだが十分とまでは言えない。リアドアの開口面積が小さく、乗降性が良好とは言えない。いざ座ってしまえばシートの掛け心地は良好だし、足も自然なかたちで投げ出せるだけに惜しい。FCVには水素タンクがあり、後輪駆動を採用したことで車体後部にモーターを配置する必要がある。ギリギリのところまでパッケージングを煮詰めた結果だとは思う。
純粋にホイールベースをもっと伸ばして後席の空間を稼げばよいのでは? と思いついた。全長が長いことが絶対に許されないクルマではないはずだ。田中チーフエンジニアいわく「ホイールベースを伸ばすことは可能で、検討はしましたが、スタイリングのバランスや最小回転半径などを考慮し、最終的にこのホイールベースに落ち着きました」。世界的には2種類のホイールベースをもつサルーンは珍しくない。ストレッチ版ミライの追加も期待したい。
そのほか、最新のトヨタセーフティセンス、路車間通信、車車間通信のための各種コネクテッド機能が標準装備される。また初代同様、外部給電機能をもつ。直流を交流に変換する外部給電器を介して給電するDC外部給電と、ハイブリッド車などと同じAC給電の両方が備わる。DC外部給電は最大9kWの電力を給電可能。容量は75kWh(一般家庭の約1週間分)。
ミライは現時点で最高のFCVだと思う。ただしFCVが普及するかどうかを決めるのは価格を含めたクルマの良し悪しだけではない。ユーザーが痛痒なく水素を入手できなければ、クルマが良くてもどうにもならない。一般社団法人次世代自動車振興センターによれば、20年7月時点で水素ステーションの数は135カ所。首都圏、中京圏、関西圏、北部九州圏の四大都市圏とそれらを結ぶ幹線沿いを中心に整備が進められている。裏を返せばそれらの圏域を外れると、水素ステーションを見つけるのは難しいということ。1カ所もない県もある。高速道路上には1カ所もない。事前に予約が必要なステーションもある。夜間営業しているステーションもほとんどない。ディスペンサーの不具合で休業するステーションもままある。あるいは本来の充填能力を発揮できないまま営業を続けるステーションもある。これが水素ステーションの実態だ。
FCVが増えなければステーションは増えないし、ステーションが増えなければFCVは増えない。この“ニワトリが先かタマゴが先か”に対し、トヨタは自動車メーカーとしてFCVを良くして増やそうとした。これに応えるべきは水素供給側だ。実際には国が政策によって増やすしかない。FCVを増やし、ステーションを増やすことで両者のコストを下げ(クルマ側に対してもいつまでも1台200万円の補助を出せるわけがない)、水素消費を拡大し、水素エネルギーの社会受容性を高めていくことは、菅首相が所信表明で「脱炭素社会の実現を目指す」と宣言したことからもわかる通り、国家戦略だ。
仮にガソリン並みの手軽さとコストで水素が手に入るとなれば、ミライは実に魅力的なサルーンだ。
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