ゴーンの戦略は正しかった!? あの徹底した利益志向の裏側を深読みしてみた
掲載 更新 carview! 文:伊達軍曹/写真:日産自動車
掲載 更新 carview! 文:伊達軍曹/写真:日産自動車
だが自動車メーカーというのは――特にロータスなどとは違う日産のような巨大メーカーは――カーマニアのために存在しているわけではない。半分は「何らかの自動車を実用上必要としている世界中のピープルのため」に存在しており、もう半分は「ぶっちゃけ金を儲けるため」に存在している。
で、世界を見渡したときに「ステアフィール」みたいな部分にいちいち重大にこだわる人間がどれほどいるかと言えば……世界人口の5分の1もいないだろう。欧州では比較的「ステアフィールこだわり人比率」が高いような気もするが、それでもたかが知れているはず。
つまり世界のピープルの大半にとって車とは、嗜好品ではなくコモディティ(代替可能な低付加価値商品)なのだ。
無論、そうは考えない人も世界にはたくさんいるわけだが、大半がそこにさほどこだわってはいない以上、コモディティっぽい車(つまりここ最近の日産車全般みたいな車)を自社の主力商品とするのもひとつの手というか、むしろ「正しい経営戦略」とすら言える。
それゆえ、「ゴーンがいなくなったんだから日産、とっとと面白い車作れよ!」というようなカーマニアの大合唱に、筆者は違和感を覚えるのだ。君たち、それで本当に(経営が)うまくいくと思ってるの? と。
「とはいえコモディティっぽい乗り味の車ばかり作って売ってたら、短期的には利益が出ても、長い目で見ればそれがブランドイメージを毀損し、多大な不利益を生じさせるじゃないか。そこについてお前はどう考えるんだ!」というご意見もあるだろう。
なるほど、確かにそのとおりではある。だが、もしかしたらゴーン氏は「長い目」で見ていたからこそ、カーマニアから見ると納得のいかない車の開発をあえて命じていた可能性もある。
どういうことかといえば、いわゆる自動車カルチャーの完全な終焉についてだ。
「マニアの言い分もわからんではないが、それを聞き入れる必要はない。なぜならば、ステアフィールがどうしたとか、四輪の接地感がこうしたとかいう話が(一部で)まかり通るのはせいぜいあと10年だからだ。自動運転が中心となる時代はきわめて近い。ゆえにわたしは経営者として、ステアフィール等々へ投資する価値を認めない」
ゴーン氏がこう考えていたかどうかはもちろん不明だが、可能性はあるはずだ。
まぁもちろん筆者個人はそのようなニュアンスで生まれた車は好きではなく、買うつもりもないわけだが、「そういうメーカーがあってもいいんじゃないですか?」とは思っている。
ゴーン氏なき後の日産がどのような方向に進むのかはわからないし、知らない。ただ、「面白い車を作りつつ、利益もバンバン上がるステキな自動車メーカー」になるに越したことはないが、「中途半端な面白い車志向(その結果あまり儲からず従業員が大量解雇される)」よりは、「徹底した利益志向」のほうがまだマシであるはずなのだ。
(ジャーナリストコラム 文:伊達軍曹)
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伊達軍曹(だて ぐんそう):自動車コラムニスト
外資系消費財メーカー勤務を経て自動車メディア業界に転身。「IMPORTカーセンサー」編集デスクなどを歴任後、独自の着眼点から自動車にまつわるあれこれを論じる異色コラムニストとして、大手メディア多数で活動中。
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