【スバル クロストレック試乗記】乗り心地が「異常にいい!」と感じたグレードとは!?
掲載 更新 carview! 文:伊達軍曹/写真:SUBARU 58
掲載 更新 carview! 文:伊達軍曹/写真:SUBARU 58
スバルのクロスオーバーSUV、新型「クロストレック」。そのプロトタイプには二度にわたってクローズドコースで試乗したが、このたびやっと、公道にて市販バージョンに試乗することができた。
結論から申し上げると新型クロストレックの市販バージョンは、「ある種のユーザーには今、おそらくは最適なCセグメントSUVである」と感じられた。
クロストレックのボディサイズやその他スペックの詳細はこちらの記事をご参照願いたいが、そのうえで全長4480mm×全幅1800mm×全高1575mmという「小さすぎず、大きすぎず」なサイズ感が、まずはある種のユーザーには最適なのだ。
もちろん家族構成や使用環境などによっては、もっと大きな、あるいはもう少し小さなSUVこそが最適である――という場合も多いだろう。

だが近年におけるSUVのおおむね一般的な使い方であると考えられる「普段は1~2名乗車で買い物や通勤などに使用し、たまに2~4名ほどのユニットで何らかのレジャー活動のために使用する」という場合には、このサイズ感が――日本においては――おおむねベストだ。「普通に余裕があるのだが、しかし邪魔にはならない」といったサイズ感である。そして先代モデルのスバル「XV」の「e-BOXER(イーボクサー)」(マイルドハイブリッド)グレードでは深さにやや不満があった荷室も、クロストレックでは改善されている。
エクステリアのデザイン的クオリティも高い。先代XVと比べると「アグレッシブすぎる」と感じられるかもしれないフロントマスクも、ダーク系ボディカラーの場合は黒系の装飾パーツ類が自然と溶け込んで見えるため、いわゆる「下品なオラオラ感」のようなものは感じにくい。現車を見れば、「むしろシックに見える」という人のほうが多いのではないかと推測する。

また「オアシスブルー」や「ピュアレッド」などの鮮やかなボディカラーの場合は、その鮮やかさが黒系装飾パーツ類のアグレッシブ感をいい具合に中和するため、全体としては「ちょうどいい塩梅のポップ」と感じられることだろう。
以上の前提をベースに、市販バージョンのクロストレックをいよいよ公道へと放ってみよう。走った場所はごく普通の県道や国道、一般的な高速道路にちょっとしたワインディングという、要するに「普通の人がSUVを普通に使う際に、普通に通るはずの道々」である。

まず乗ったのは、XVからクロストレックに変わった段階で追加されたFWD(FF)バージョン。その「Touring(ツーリング)」という、安いほうのグレードである。
まず感じるのは「きわめて乗り心地が良い」ということだ。これは、上級グレードである「Limited(リミテッド)」は18インチホイールを履くが、安いほうである「Touring」は扁平率がやや高く、タイヤ内のエアボリュームも多い17インチホイールを履いているからというのもあっただろう。またLimitedの標準シート表皮が「ファブリック」であるのに対し、Touringのそれは、表面のアタリが若干ソフトに感じられる「トリコット」だから――というのもあったはずだ。
しかしそれを差っ引いたとしても、このSUVの一般的な公道における一般的な速度(30~120km/hぐらい)での乗り心地の良さは、ちょっと異常なほどである。路面が荒れていようが何だろうが、車体は(体感的には)常にほぼフラット。その様は、古い話で恐縮だが「ハイドロニューマチックサスペンションを採用していた往年のシトロエン」に近いものがある。
そしてカーブが近づき、ごく普通あるいは“それなり”程度の速度で進入したうえで曲がろうと試みると、ドライバーが脳内でイメージしたほぼそのとおりのニュアンスでもって、これまた(体感的には)ほぼフラットな姿勢のまま、曲がっていく。

加速時においても「脳内イメージと結果とのズレがない」というのは同様だ。
従来型から徹底的かつ全面的にブラッシュアップされたとはいえ、パワーユニットの基本は従来型と同じ最高出力145psの2L水平対向自然吸気エンジン+同13.6psのモーターである。スペック的にはハッキリ言ってどうってことがなく、いわゆる0-400m加速みたいなモノも、おそらくは大したことのないものであるはずだ。
だがしかし、「……ここでこう、力が盛り上がってきてほしいんだよね」と、加速を企図したドライバーが脳内でイメージした0.01秒後ぐらいに“イメージそのまま”の力感がドライバーと路面とに伝わるため、“数字の大したことなさ”がまったく気にならないのだ。いや、気にならないというよりもむしろ「気持ちいい!」と感じてしまうのが、このスペック表的には大したことのないパワーユニットなのである。

ついでに言えば――というか、けっこう大事なポイントだが、スバルが「リニアトロニック」と呼んでいるCVTも、クロストレックでは大きく進化しているように思えた。
筆者が私物として乗っていた先代XVのCVTは「基本的には不満なしだが、たまにちょっと不満(CVTっぽさ)を感じる」というものだった。それが、2020年暮れに購入した現行型スバル「レヴォーグ STI Sport」では「ほぼ不満なし!(でもごくごくたまに、ちょっと不満も……)」というニュアンスに進化していたわけだが、新型クロストレックのCVTは現行型レヴォーグ STI Sportのそれとほぼ同等か、もしくはそれ以上である。少なくとも筆者は試乗中、新型クロストレックがCVTを採用した車であることを忘れていた。
17インチホイールを履く“安いほう”のTouring FWD車から、18インチホイールを履く“ちょっと高いほう”であるLimitedの4WD車に乗り替える。
Limited 4WDはTouring FWDよりも車両重量が70kg重く、タイヤもエアボリュームがやや少なめの225/55R18となるため、Touring FWDで感じた「往年のハイドロシトロエンのような雲上感」はない。だが「路面が荒れていようが何だろうが、きわめてフラットな姿勢を保ちながら、快適な乗り心地でもって疾走できる」という基本的なニュアンス自体は、17インチ車と同様だ。そこに「引き締まった感じ」が加わったのが18インチ車である――といったところだろうか。
こうなってくると「17インチのTouringで良しとするか、それとも18インチのLimitedを選ぶべきか?」というのはなかなか難しい問題になるが、基本的には「お好み次第で」ということになるだろう。ディーラーにTouringとLimited双方の試乗車が置かれているかは不明だが、できれば両者を乗り比べて「自分の好みに合うのはどちらか?」をお考えいただきたいところだ。
少なくとも「装備が充実してるのはLimitedだから」的な理由だけでLimitedを選ぶべきではないだろう。一部の例外はあるが、たいていの装備は、オプションとしてTouringに装着することもできる。

以上のとおり、このたび登場した新型クロストレックは、冒頭で申し上げたとおり“ある種の人”には、つまり「どうせ乗るなら“本当に気持ちよく走れるSUV”を選びたいし、そんなSUVを車両価格300万円ちょいまでのレンジで買えたら素晴らしいじゃない?」と考える人にとっては、おそらくは最高レベルの満足感を与えてくれるCセグメントSUVだ。そういった人には、間違いなくおすすめである。
だがそうではない人は――つまり「今の時代、車はなんだかんだ“燃費”で選ぶべきしょ?」と考える人は、ほかを当たったほうがいいだろう。
新型クロストレックのWLTCモード燃費はFWD車でも16.4km/Lで、4WD車は15.8km/L。今の時代、もっと燃費のいいCセグSUVはたくさんある。もしも「燃費性能こそがほぼすべて!」と思うなら、どうぞそういったCセグSUVを選んでいただきたい。
こんなにも気持ちよく走れる、さほど高額ではない新型SUVが登場した今、それは非常にもったいないことだと思うのだが、価値観・人生観の違いだけはいかんともし難い。そしてそもそも、筆者が口出しすべき問題でもない。
<おわり>
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