10年単位で世の中はガラリと変わったりする。さて、この先10年でクルマは、クルマを取り巻く社会はどのように変わっていくだろうか?
EVの普及、水素燃料、自動運転の進化、クラウン。4つのトピックでニッポンのクルマ社会、その10年後を読み解いてみよう。
新型ノートにSUV風とNISMO登場!! いっぽう名門マーチがついに…???
番外コラムでは自動車評論家永田恵一氏による「これまでの20年を紐解く10のキーワード」を掲載。こちらもぜひ目を通してみてほしい。
※本稿は2021年6月のものです
文/永田恵一、ベストカー編集部 予想CG/ベストカー編集部 写真/ベストカー編集部ほか
初出:『ベストカー』 2021年7月10日号
【画像ギャラリー】2030年までのクルマ界はどうなる? 4つのトピックをギャラリーでクイックチェック!!!
■2030年、世の中はEVだらけになっている⁉
この前提となるのが2050年に向けてカーボンニュートラルを実現する、という地球規模での目標がある。
政府は「2030年代半ばまでにガソリン車の販売を禁止する」と言い、これを受けて東京都は「2030年に都内での内燃機関車の販売を禁止」と方針を表明。
ここで言われる「電動車」は、ピュアEVだけを念頭にしたものではなく、ハイブリッドパワーユニットを含めたもので、純内燃機関車を禁止する、という方向性。
現実的に、今後10年で日本国内にEVが大規模に普及することは、考えにくい。
そもそもインフラ整備が追いつかない。
現在の電力供給レベルで考えた場合、2030年にEVが国内保有台数の10%にまで拡大したら、急速充電機は完全に不足するし、夜になって各家庭でいっせいにEVの充電が始まったらブラックアウト停電してしまうだろう。
下図に示したように、国内乗用車の保有台数は6100万台程度で推移しており、今後も大きく減ることはないだろう。
ハイブリッド車&EVの保有台数と全体に占める割合(各%は乗用車保有台数に対する比率)
ハイブリッド車の保有台数は徐々に増加傾向で、昨年で約930万台で15%。一方EVは桁が違って、10万台前後で全保有台数に対して0.2%程度に過ぎない。
いかに今後EVのラインナップが各メーカーから増えたとしても、現在の100倍の販売台数になることはちょっと考えにくいし、前述のように充電インフラが追いつかない。
現実的にはマイルドハイブリッドを主軸とした内燃機関の高効率化との合わせ技で、カーボンニュートラルへの対応を模索することになろう。
トヨタとスバルの共同開発で新開発EV専用プラットフォームが開発される。これによるニューモデルが2022年以降、7モデル投入されることが明らかにされている
■水素燃料は普及する!?
ピュアEVよりも現実的なのが水素燃料だ。
2000年代初頭では水素タンクの問題や、水素をレシプロエンジンで効果的に燃焼させる技術に障壁があったが、MIRAIが実用化されている今、カーボン素材の水素タンクは実用化されている。
水素燃焼技術も、トヨタが5月22~23日に開催された24時間レースにレーシングマシンを投入したことからもわかるように、目処はついている。
水素ステーションは法規改正をして設置基準を緩和すれば現在のガソリンスタンドとの併設ができる。
燃料電池車用だけでは水素ステーションの普及は望めないが、水素エンジン車が増えるのであれば、ステーションの普及の原動力となる。
もちろん、「じゃ、水素はどのように作るの!?」という問題はあるが、副産余剰水素の活用など、『グリーン水素』を使えれば問題はある程度解決できるだろう。
なによりも、エンジン自体は現在のガソリン&ディーゼル用と基本は同じでいい。ここが大きなメリットになるのだ。
トヨタが静岡県裾野市に建設を進めるウーブンシティ。5月28日の報道発表では、「ENEOSとトヨタがウーブン・シティでの水素エネルギー利活用について具体的な検討を開始」とアナウンスされた
■自動運転だらけになる?
本当の意味で「自動運転」と言えるのは、いわゆるレベル3以上とされている。
現在、レベル3を実現しているのは3月4日に発表されたホンダレジェンドだけ。
1000万円で100台限定のリース販売のみということで、市販車とはいえ、普通に誰もが買って乗ることができるクルマではない。
ちなみに、レジェンドがレベル3自動運転を実行できるのは、高速道路などの自動車専用道路で、前後に他車がいる状態で、30km/h以下になる(つまり渋滞中)という条件が必須。
ハンズオフしてモニター画面で映像を見るなど、運転操作の主体をクルマにゆだねることができるが、50km/h以上で解除されるほか、システムにエラーが生じた場合、直ちに運転を引き継げなければならない。
実際にレジェンドでレベル3を体験したが、システムの信頼性は高く、渋滞中のストレス軽減効果は思いのほか大きいのだが、ちょっと流れがよくなるとすぐに50km/hを超えてレベル2に移行。
もちろん一般道ではシステムが起動しないため、かなり限定された「自動運転体験」といった感覚だった。例えば、新東名などで120km/h巡航でのレベル3が実現すると、かなり「自動運転感」が実感できるだろう。
とはいえ、巡航時の自律的な自動運転を実現するには、高速道路に限定しても、かなり高度な全方位センシング技術が必須だし、渋滞速度とは比較にならない遠距離センシングと、超高速演算処理が求められる。
レベル3を保証する以上は、「万が一」にもシステム側のエラーに起因する事故が起こってはならないからだ。
例えば、高速道路の限定された区間で車線を物理的に区切るなどして、レベル3車以外が走れないレーンなどを設定すれば実現可能だろうが、現実的ではない。
さらに進んだレベル4となると、トヨタが静岡県裾野市に展開するウーブンシティのように、最初からそれを念頭においた街づくりとともに、専用レーンを走るシティコミューターモビリティのようなモデルケースで実現していくというのが現実的。
少なくとも、2030年時点でレベル4自動運転車がそこらを走り回っているということは、ないだろう。
レベル4以上の自動運転となると、限定された専用レーンなどでのコミューターバスなどで実現されていくことになるだろう
■クラウンはSUVになっている!!?
そりゃあわかりません!! なんて言っちゃうと身もフタもないので本誌スクープ班に聞いてみた。
結論から言えば、既報のとおりで、ハリアーなどに使われるGA-KプラットフォームをベースとしたFFとして今後のクラウン(に相当する4ドアサルーン)が開発される計画で、このニューモデルは2023年に登場する、ということ。
バリエーションとしてSUV的な車型も用意される可能性が高い、というものだ。
クラウンがFFになるというと違和感があるが、現在のクラウンのポジションはMIRAIが担うとみれば納得できる話だ。
2023年から7年後の2030年なら、さらにもう1世代先のクラウン。それこそEVの可能性も大きい。
次期型クラウンとして燃料電池のMIRAIがその役割を担うというのは、かなり現実的な話(※写真は次期クラウン予想CG)
【番外コラム】クルマ界 この20年を紐解く 10のキーワード
この20年間、時代を築き、流れを作った自動車業界のキーワードを自動車評論家 永田恵一氏に解説してもらった。
* * *
●01.選択と集中……これは文字どおりの「一球入魂」に近い意味なのだが、クルマの場合には、昨今はクルマに求められる要素が環境、安全など激増しており、必要な開発資源(人員、資金、時間など)は1990年代に比べると1.5倍から2倍近くになっている。
そのため2000年代までのようにパワートレーンなどのバリエーションを増やすことは難しく、「数を減らす代わりに残すものに注力する」という動きが進んだ。
具体的な例としてはトヨタ、日産、ホンダ、三菱がディーゼルをやめてハイブリッドに注力、マツダがハイブリッドはトヨタから供給してもらいディーゼルに注力、といったことが挙げられる。
●02.合従連衡……開発資源とも関係するが、2000年代に入ってからはパワートレーンなど、すべてを自社で賄うということはトヨタのような大メーカーでも難しくなり、自動車メーカーの合従連衡が進んだ。
具体的な例としてはダイハツ、日野に加えスバルとマツダ、スズキのトヨタグループ入り、三菱自動車のルノー日産アライアンス入り、独立独歩にこだわっていたホンダのGMとの業務提携拡大などが挙げられる。
また、商品で見ても86/BRZ、日産&三菱自動車の軽自動車など、2社が手を組まなければ世に出なかったものも少なくなく、合従連衡には歓迎すべきところも多い。
●03.モリゾウ……モータースポーツ参戦の際などに使われる「モリゾウ」こと豊田章男氏がトヨタの社長に就任したのは、章男氏が53歳だった2009年のことで、トヨタの豊田家出身の社長は’90年代中盤の豊田達郎氏以来だった。
副社長時代から86やレクサスLFAの開発を後押しするなど、カーガイ(自動車野郎の意)だった章男氏であるが、就任直後はプリウスのブレーキなど大規模リコール問題をはじめとした困難が続き、章男氏に対する冷たい声も少なくなかった。
が、2012年あたりからクルマ自体を含めてトヨタの雰囲気がハッキリ変わり始め、現在のトヨタの勢いに手がつけられない状況となったのは章男氏の功績だ。
●04.自動運転……クルマにとって究極の形のひとつである自動運転は昭和の最後から研究が進められていた。2010年代になると、自動ブレーキなどとも関係する停止まで対応するアダプティブクルーズコントロールや操舵支援が普及し、自動運転に近づいたが、これらはあくまでもドライバーに責任がある運転支援システムだった。
それが今年に入って「レベル3」と呼ばれる高速道路の渋滞中という限定された状況下での自動運転を実現したレジェンドが、限定的な販売ながら市販化された。自動運転には事故の際の責任問題など課題も多いだけに、その行方を慎重に見守りたいところだ。
●05.カンパニー制……カンパニー制はトヨタが代表的なのだが、「社内で独立した形に近い、各々のカンパニーごとに利益を出していく」という組織形態を指す。
トヨタをクルマの企画ごとに見ていくとミッドサイズビークル、CV(商用車系)、Gazoo(スポーツ車両、モータースポーツ)、レクサスインターナショナルなどに分かれる。似た形態となっているのがホンダなのだが、ホンダの場合は「〇〇地域の××というクルマごとに利益を出していく」という方針になっている。
そのため、例えば日本で売れる確信がないモデルだと、弱気な戦略で価格も高くなりがちになるなどの弊害も起きている。
●06.EV……EVも古くからあるものだが、実用化に対する最大のハードルはやはりバッテリーのサイズと容量や、耐久性&信頼性だった。そのハードルを越えて2009年に世界初の量産電気自動車として登場したのがi-MiEVで、翌2010年にはリーフも登場し、EVでは日本が世界をリードしていた。
しかし、海外では実用的なEVとはまったく違う価値観を持つテスラに加え、次々とEVのバリエーションが増えて中国製EVも台頭。日本車のEVが持つアドバンテージは急速に減っているだけに、トヨタ&スバルのEVや日産アリアによる巻き返しを期待したいところだ。
●07.水素……「走行中は水しか排出せず、充填も短時間ですむ」という究極のエコカーであるFCVは20世紀から試作車はあったが、実用化への道は険しく、世界初の量産FCVとなったのは2014年登場のMIRAIだった。
MIRAI以降量産FCVはクラリティ、ヒュンダイネッソなど数えるくらいしかなく、FCVの市販化が非常に難しいことがよくわかる。FCV、というより水素社会への移行には水素ステーションに代表されるインフラ整備や水素の生産方法など課題も多いが、次世代エネルギーとしての期待も大きいだけに成長を温かく見守ろう。
●08.クロスオーバーSUVブーム……SUV(クロカン)ブームは1990年代初めにもあったが、現在のSUVとクロスオーバーブームが始まったのは2010年代初めからである。
その理由としてはSUVの側面衝突に対する有利さ、着座位置の高さによる視界や乗降性のよさ、新興国などでの整備されていない道路への対応、「車格がわかりにくい、クーペルックなどのバリエーションも作りやすい」といったことがあり、勢いはいまだ衰えない。
SUVは現時点で飽和状態になっているだけに今後は淘汰されるものも出ると思われるが、SUVが市民権を得たのも事実だけに、これからもクルマの柱のひとつとなり続けるのは確実だろう。
●09.カーボンフリー……カーボンフリーとは「地球温暖化の原因となる二酸化炭素を出してはいけない」ということである。つまり、化石燃料を使うエンジンが付いたクルマは禁止となり、その時期は遅くとも2050年あたりである。
その対応としてはまずEVやFCVといったものが浮かぶが、EVの電気の作り方など、総合的な二酸化炭素排出量やインフラ整備など、「現実的にはどうなのか?」という問題もある。
そういったことも考えると、その答えはEVやFCVだけでなく、アルコール燃料や水素燃料といったエンジンにも可能性はあり、今後どうなっていくのかは常にウォッチしていく必要があるだろう。
●10.運転支援、アイサイト……自動ブレーキや運転支援システムは、2000年代末まで停止にこそ対応しなかったものの、その時点で基盤はできていた。
日本で“停止まで対応”という大きな一歩を踏み出したのが「自動ブレーキなしがないから」という理由で認可された2009年登場のボルボXC60の先代モデルで、2010年には5代目レガシィに「機能と性能を考えたら激安価格」のアイサイトVer2が加わり、自動ブレーキ&運転支援システムはここから急速に進化していった。
自動運転への発展は必要なハードウェアの増加によるコストアップもあり当面難しいにせよ、このふたつの進化はまだ新しい分野だけに必見。
(TEXT/永田恵一)
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みんなのコメント
正直全体的な人の流れは読めないね
私はガソリン車がなくなれば環境整えられるのでEV選ぶ
一部の趣味的要素の強いガソリン車は高騰するだろね
ハイテクは短命だから余計なものが少ない素の911とか