2024年6月に登場した、ホンダの3列シートコンパクトカー「フリード」。販売は好調で、登場翌月から3か月間の登録台数は、7月8,442台、8月6,990台、9月8,943台と、前年を大きく上回る販売を記録、ホンダ車において(軽を除いては)もっとも売れているモデルだ。
3列シートコンパクトカーといえば、トヨタの「シエンタ」も大人気。ただ、人気ジャンルであるにもかかわらず、現在ラインアップされているのはこの2モデルのみ。かつては日産にも、「キューブキュービック」という3列シートコンパクトカーがあったが、(キューブキュービックが)2008年に廃止となったあとは、日産はこの人気ジャンルに参戦すらしていない状況だ。
日産はなぜ[キューブキュービック]みたいな小さい3列シート車を作らないのか?
シエンタもフリードも、強力なライバルではあるが、「出せば売れる」人気ジャンルに、なぜ日産は参戦しないのか。出せない理由でもあるのだろうか。
文:立花義人、吉川賢一
写真:NISSAN、TOYOTA、HONDA
【画像ギャラリー】実用性はイマイチながらデザイン性は高かった、日産の3列目シートコンパクトカー「キューブキュービック」(9枚)
■年間15万台規模の需要がある大人気カテゴリ
2024年6月にデビューした新型フリード。標準車のエアーと、アウトドアテイストが与えられたクロスターの2つをラインアップ。プレーンなエクステリアデザインがカッコいいと評判が高い
1990年代後半から普及し始めた3列シート車。ファミリー層を中心に人気が集まり、2000年以降、一大ブームが巻き起こった。ストリーム、ウィッシュ、ラフェスタ、ステップワゴン、ノア/ヴォクシー、セレナ、エルグランド、オデッセイ、アルファードなど、様々なサイズの3列シート車が登場した。
これら3列シート車のなかでも、子育て層から絶大な支持を集め続けてきたのが、フリード(先祖はモビリオ)やシエンタのような、コンパクトなサイズの3列シート車だ。
全長4300m、全幅1700m、全高1700m程度というコンパクトなボディサイズながら両側スライドドアをもち、3列目シートも、「緊急時はこれならば十分」と感じられるギリギリの広さを持っている。小回りがきき、運転もしやすいので、運転が不慣れな人にもやさしい。
車内も広く、乗り降りもしやすくて、荷物もたくさん積める。しかも価格もミドルクラスミニバンよりも安く、見た目もよく、4人家族にはちょうどいいパッケージングだ。
実際に過去3年の登録台数を振り返ると、2021年はフリード69,557台/シエンタ57,802台、2022年はフリード79,525台/シエンタ68,922台、2023年はフリード77,562台/シエンタ132,332台とよく売れており、常に登録車販売台数ランキングでトップ10入りをしている。こんなに売れるジャンルであるにもかかわらず、日産はモデル投入すらしていない。
ヨーロッパ車のような雰囲気でデザイン性も高いシエンタ。売れているモデルだけあり、実用性やユーティリティも文句なしの出来だ
■このクラスで求められる実用性と扱いやすさに欠けていた、キューブキュービック
2003年登場のキューブキュービック。このクラスで求められる実用性と扱いやすさに欠けていたことで、販売は振るわなかった
日産の3列シートコンパクトを考えるうえで外せないのが、キューブキュービックの失敗だ。2002年10月に登場した2代目「キューブ」から遅れること11ヵ月の2003年9月、日産は、キューブのホイールベースを170mm伸ばし、折り畳みできる3列シートを装備した「キューブキュービック」を追加した。
日産としては、デザインがよく、当時大人気となっていた2代目キューブをベースとすることで、当時すでに人気モデルだったモビリオやシエンタの対抗馬にしたかったのだろう。しかし結果は、見事に撃沈。
「キューブ(=立方体)」のデザインを優先したことで、ホイールベースをあまりのばすことができず3列目シートが激狭だったこと、そして、後席ドアがスライド方式ではなくヒンジ式だったことなどが原因だと思われる。キューブキュービックは、このクラスで求められる実用性と扱いやすさに欠けていたのだ。
キューブキュービックは独特のデザイン性を損なうことなく3列シートを採用したことが最大の魅力だが、肝心のそのシートの使い勝手は最悪だった
【画像ギャラリー】実用性はイマイチながらデザイン性は高かった、日産の3列目シートコンパクトカー「キューブキュービック」(9枚)
■3列シート車はセレナがあればいい、と考えているのでは
ただ、いま日産がこの3列目シートコンパクトカーにチャレンジしないのは、キューブキュービックの失敗がどうこうではなく、やはり、3列目シートコンパクトカーは、国内専売モデルとなってしまうことにあるのだろう。日産はここしばらく、海外で売れるクルマ以外は登場させていない。
道路や駐車場は狭い日本ではコンパクトカーが人気の中心だが、コンパクトでありながら、いざというときにしっかり多人数乗車ができたり、家族でレジャーに出かけたりといろいろ便利に使えるマルチパーパスさも求められる。何でもかんでも詰め込むのは日本独特の傾向であり、大人数ならばそれなりの大型車を求める海外では、そんなコンパクトカーは求められない。
日産としては、日本で絶対に売れる確証がもてないクルマには、余計なリソースを割くことはできないのだろう。コンパクトSUVである「キックス」も、もともとは南米や東南アジアをターゲットに開発されたものであり、タイ生産のものが日本に入ってきている状況だ。e-POWERはいいパワートレインだと思うが、キックスのデザインやパッケージングがなんだか日本人にはしっくりこないと感じるのはそのせいだろう。
新型のコンパクト3列シート車を出したところで、既存のノートやノートオーラ、サクラの販売台数が減るだけ、という懸念もあるのかもしれない(そんなことはないと思うが)。こうしたことから、日産は、3列シート車はミドルクラスミニバンのセレナがあればいい、と考えているのだろう。
◆ ◆ ◆
キューブのような面白いデザインとパッケージ性能でしっかりと実用性のある3列目シートモデルをつくることができれば、またこのカテゴリを盛り上げてくれる面白いモデルとなると思う。日本市場は世界的に小さい規模かもしれないが、日産の内田誠社長は社長就任時の会見で「日本は日産にとってのホームマーケット、非常に重要なマーケットだ」としていた。日産はもっと自信を持っていいと思う。ぜひともチャレンジをしてほしい。
【画像ギャラリー】実用性はイマイチながらデザイン性は高かった、日産の3列目シートコンパクトカー「キューブキュービック」(9枚)
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