BMW M3…男は優しいだけでは生きられない
掲載 更新 carview! 文:小沢 コージ /写真:菊池 貴之
掲載 更新 carview! 文:小沢 コージ /写真:菊池 貴之
少々古臭いと思われるかもしれないが、私にはM3を見る度に思い出す言葉がある。「男は強くなければ生きていけない。優しくなければ生きる資格がない」。ハードボイルド作家のレイモンド・チャンドラーが小説の中に残した言葉だが、まさにその通り。極端に価値が様変わりしていく現代にあって、男には相変わらず強烈な二面性が求められている。それは強さと優しさだ。
今の超弱気国家=日本では一見優しいだけで生きていけそうな気もするが、どっこいお金だって、クチだって、知識だってカタチを変えた立派な“強さ”であり“武器”。力がないと生きていけないことに違いはない。小沢流に翻訳すると「男は優しいだけでは生きていけない」。要するにミニバンだけでは真の男になれないのだ。
肝心のM3だが、スタイルとしてやや古典的過ぎる嫌いはあるし、使い方を間違えると大変な事になるが、分かりやすい“強さ”と“優しさ”を持っている。
強さとは言わずと知れた速さだ。エンジンは4リッターのV8・DOHCで最高出力は420ps! レブリミットは8300rpm前後!! 前後と書いたのはその時々の水温や油温で微妙に上下するからでいかにもレーシング技術が投入された剛胆かつ繊細なユニットらしい。しかもそのハイパワーをフルタイム4WDではなく、高度な制御を介するとはいえ、古典的なFR方式で路面に伝える。
一方、優しさとは一見普通(!?)に見える乗用車ライクな4ドアセダンボディのこと。車高が極端に低かったり、シートが乗りにくいフルバケットタイプになってたりすることはなく、M3クーペとは違い、これ見よがしな軽量プラスティックルーフも採用されておらず、大人5人が普通に乗れる。この古典的な組み合わせにこそM3特有のカタルシスが存在するわけで、ジェームス・ボンド的なまでの男臭い魅力を放つ。まさしく古典的な“羊の皮を被ったオオカミ”なのだ。
そして今回改めて乗ったのが、その宝石とも言うべき4リッターV8を生かしきる最新型ミッションを載せたM3の09年モデル。ボディデザインは他の3シリーズ同様、フロントとリアが若干変わっているが、独特にマッチョなデザインがゆえ08年モデルとの違いは分かりにくい。なにより今のハイエンドスポーツカーの常識とも言えるツインクラッチ式の「M DCTドライブロジック」が搭載されている。コイツがまさにM3らしい“強さ”と“優しさ”の両立に輪をかけたようなクルマで、いまどき非常に男心をそそられるものなのであった。
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