VR技術やAR技術がクルマの販売や開発を変えていく
掲載 更新 carview! 文:清水 和夫/写真:アウディAG
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こうしたデジタルエンジニアリングの取り組みは80年代にコンピュータ先進国のアメリカで生まれたものだ。冷戦下、原子力潜水艦や航空機、あるいは宇宙ロケットの開発といった軍事技術にコンピュータは欠かせないツールとなった。艦船や航空機の場合、試作をつくりながらの開発はあまり現実的ではない。モックアップが巨大になるうえ、テストの段階で問題が発生したら手遅れということにもなりかねない。そこで、アメリカ政府は官民一体となってコンピュータによるデジタル技術の活用を推し進めたのだ。
ベルリンの壁が崩壊した(冷戦が事実上終了した)1989年、アメリカ政府は軍事産業のノウハウを民間企業に移転し、デジタルエンジニアリングを自動車などの民生品に活用することを決めた。このとき製造業で強いアメリカを取り戻すという国家戦略が打ち立てられた。
具体的には「2000年までに米国産業を復活させる」というスローガンのもと、1993年にGM、フォード、クライスラーのビッグスリーと合衆国政府はコンカレント・エンジニアリング(開発を部門ごとに並行して進行することで、開発期間を短縮する手法)を立ち上げた。当時、アイアコッカが率いていたクライスラーが最も熱心にこのネタに飛びついた。98年にダイムラー・クライスラーが誕生すると、旧クライスラーのエンジニア部門からダイムラーにも、こうしたデジタルエンジニアリングの技術が伝授されたという。
一方、欧州で最も早い時期からデジタルエンジニアリングに取り組んだのは、意外にもBMWであった。1996年のデトロイトショーでは、開発部門の責任者だったW・ライツレ博士が「2002年までにプロトタイプなしの開発を実現する」と、ワシントンポスト紙に述べていた。それから20年、自動車の生産設計現場でデジタルエンジニアリングは日常的になった。もはや試作品という現物は少なくなり、部品メーカーと自動車メーカーはデジタルデータでやり取りをしている。
次の20年、コンピューターサイエンスはどんなイノベーションをもたらすのだろうか。AI(人工知能)が自動車を設計・テストする時代が訪れる日は近いのかもしれない。
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