市販車による世界初の“レベル3自動運転”を実現したホンダ レジェンドで首都高を走るとどうなる?
掲載 更新 carview! 文:塩見 智/写真:篠原 晃一 126
掲載 更新 carview! 文:塩見 智/写真:篠原 晃一 126
法律(自動運転車に関する安全基準)としては、レベル3の自動運転はセカンダリータスクを許容しており、よそ見やスマホの操作を禁じてはいない。ただしホンダは自主的にそれらを推奨せず、車載モニターに映し出されるコンテンツの視聴やセンターパネルのスイッチ操作に限ってOKとしている。そのため、自動運転機能作動中もドライバー監視カメラがドライバーをチェックし、視線が著しくよそを向いていたり、目を閉じていたりすると機能がキャンセルされる。試しに右のドアミラーの方へ首を向けていると「正しい姿勢でメーター周辺に注意を……」(最後聞き取れず)と注意された。逆にモニターや各種スイッチが並ぶセンターパネル付近にスマホをもっていって操作すればじっくり操作することができた。雑誌を読むこともできそうだが、やるべきではないというだけの話だ。
法律が定めているのは、自動運転の条件が外れる前に運転操作引き継ぎの警報を発し、ドライバーに引き継がれるまで安全運行を継続し、引き継がれない場合は安全に停止することだ。実際、レジェンドの自動運転状態は長くは続かない。まず50km/hを超えると、ハンズオフはできるがレベル2の運転支援状態に戻り、モニターは地図画面に切り替わる(ハンズオフの上限速度は125km/h)。ホンダはレベル3の状態を「TJP(トラフィックジャムパイロット)」、ハンズオフのできるレベル2の状態を「TJA(トラフィックジャムアシスト)」と呼んで分類する。
今回の試乗では、道路上を他の高速道路が立体交差する場面で、条件を外れた。GNSS(全球測位衛星システム。GPSはそのアメリカ版の呼称)が自車位置を正確にキャッチできなくなるからだ。TJAおよびTJPを可能とするため、レジェンドには高精度3次元マップが車載されていて(必要に応じてクラウドとも通信して情報を得る)、その地図情報にGNSSで得た正確な自車位置を照合し、どの道路のどの辺り、それこそ側壁から何cm離れているかまで把握しながら走行する。周囲の車両や障害物についてはセンサー類がフル稼働する。レジェンドにはカメラ、ミリ波レーダーはもちろんのこと、計5個のライダー(光線を当ててその反射によって対象物との距離、位置関係、形状を検知するシステム。めちゃくちゃ高額)が備わり、自車の周囲360度を常時センシングして衝突を避ける。
こうした高度なセンサー類が少しでも衝突の危険性を検知すると、TJAおよびTJPの機能をキャンセルし、ドライバーに操作を引き継ぐようになっている。高架下を通る際に加え、激しい荒天時、日射の角度の条件が著しく悪い時などもキャンセルされる、あるいは作動させられないようになっているという。また自動車専用道路上であっても都心環状線など複雑な路線では作動しないようになっている。試乗中も何度かTJPおよびTJAの機能がキャンセルされることがあったが、何が理由でキャンセルされたかがはっきりしないこともあった。言えるのは、レベル2のTJAはともかくレベル3のTJPが作動する条件は非常に厳しく、ありていに言ってしまえば、なかなか作動しないし、すぐに外れる。
もっと積極的にTJPを作動させるだけの性能をもってはいるのだろうが、慎重な設定にしているのはホンダの考えだ。ホンダの青木仁ラージプロジェクトリーダーや本田技術研究所の荒木光浩AD/ADAS研究開発室チーフエンジニアによれば、レベル3の自動運転が徐々に広まって社会的認知度が上がれば、もう少し積極的に作動する設定にすることもありうるという。
新型レジェンドの“売り”はTJPだけではない。レベル2のTJA作動中にウインカー操作をすると、システムが車線変更に伴う加減速やステアリング操作を支援してくれる……のみならず、ステアリングホイールにあるスイッチを押しておくと、設定速度よりも遅い先行車を検知した際に、ドライバーが指示しなくても自動的に車線変更し、先行車を追い越して元の車線に戻る。もちろん、変更先の車線の安全が確認できた場合に限って作動する。
ところで、レベル2(TJA)でもレベル3(TJP)でも手を離してリラックスしているというドライバーの状態はほぼ同じだが、何か起こったときに責任を負うのがドライバーかシステムかというのが大きな違いだ。青木LPLや荒木CEに、万一レベル3の自動運転中に事故が起こったら事故の賠償はだれ(どこ)がどのように行うのかを尋ねると、ケースバイケースという曖昧な答えが返ってくるのみだった。システムが責任を負うことは間違いないが、当然ながらまだ世界で一件も判例がないため、実際に裁判で判決でも出ない限り、具体的なことを答えようがないのだそうだ。実際に自分が買おうとしている立場なら、ここを明確に答えてもらえないと不安になるだろうし、商談の現場でも出る質問だと思うが、どう対応するのだろうか。あらためて取材したい。このやりとりの際に、我々は未体験ゾーンに突入しているのだと感じた。
レベル3の自動運転を可能としたレジェンドの価格は1100万円。従来のレジェンドの価格は724万9000円だから実に375万円余りの上乗せだ。加えて100台限定でのリース販売のみとするなど、広く普及を目指した価格や販売形式ではなく、実験的な販売であることがわかる。ともあれ世界で初めてレベル3を実用化するというホンダのチャレンジは達成された。他社に先に実用化させて様子を見るという経営手法もあるのだろうが、ホンダには似合わない。この先、採用車種を増やして価格を下げ、多くの人がレベル3の自動運転の恩恵を受けられる社会を目指すことは、(二者択一なら)F1をやめてでもやるべきチャレンジだと、体験してみて思った。
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