■いすゞ mu
元号が昭和から平成に変わったバブル景気真っ只中の1989年、いすゞから突如現れたのが「mu(ミュー)」だ。
酒を飲んだ婚約者を迎えに行って「無免許&違反、他人になりすまし」…その裏にあった苛烈なDV
ビッグホーンのメカコンポーネンツを使って開発されたスペシャルティSUV。2シーターのピックアップ的な「ハードカバー」(3ナンバー乗用)、同じく荷室を幌掛けにしたソフトトップ(1ナンバー商用)の2タイプでデビューした。
車名は「ミステリアス・ユーティリティ」の頭文字。「謎に包まれた不思議な機能を持ったクルマ」という意味で命名されたが、その使い勝手はまさにナゾだった。
ちなみに、主力市場の北米名は「アミーゴ」で、親しみやすさはこちらのほうが上だった(スペイン語で友だちの意)。翌1990年に4シーターの「メタルトップ」、1991年に4速ATをそれぞれ追加。1995年には5ドアロングの「ミュー・ウィザード」が登場し、ナゾは少しずつ解消された。1998年、2代目にフルモデルチェンジ。
全長4135mm×全幅1780mmのショート&ワイドなプロポーションは、前後のブリスターフェンダーが特徴的。ガソリンの2.6L直4OHCでデビュー、1990年に2.8L直噴ディーゼルターボが追加搭載された。
■フォード Ka
1996年のパリサロン(後のパリモーターショー)でベールを脱ぐや、フォード「Ka」は欧州で一大センセーションを巻き起こした。最大の理由はAセグメントに新風を吹き込んだ革新的スタイリングで、欧州フォードが提唱した「ニューエッジデザイン」の先駆けとなった。
話題を集めたもう一つの理由は、奇想天外な車名だ。「Ka」は古代エジプトで、生者と死者を分ける生命力や精気という概念。それに「car」をかけたネーミングになっている。「Das Auto.」(英語だとThe Car)を企業スローガンに掲げたのはフォルクスワーゲンだが、欧州フォードも「これぞ真のクルマ!」という意味を込めたのかもしれない。ただ、読み方は「カー」と決まっていたわけではなく、「カ」、あるいは「ケイエイ」と、人によってさまざまだった。
日本上陸は1999年1月。高温多湿の気候に合わせてラジエターを大型化、充実装備で価格を150万円に抑えるなど、導入には当時のフォードセールスジャパンもかなり力を入れていた。しかし、オートマがない5速MTのみの設定が災いして、鳴かず飛ばず。わずか2年ほどで販売を終えている。
全長3660mm×全幅1640mmのボディは、現行型のトヨタ パッソ/ダイハツ ブーンよりわずかにコンパクト。ラジエターに合わせてフロントバンパーも大型化された。ベースはフィエスタで、エンジンは伝統の1.3L直4OHVでスタート。海外ではその後も幅広い支持を集めた。2016年にはひと回り大きい3代目が登場し、欧州では「Ka+(プラス)」を名乗った。
■トヨタ bB
「bB」は「ブラックボックス」の頭文字。航空機のフライトレコーダーなどを収めた箱もブラックボックスと呼ばれるが、この場合は一般的な“内部構造が見えない機械装置”を指す。転じて、「未知の可能性を秘めた箱」という意味が込められている。
車名のロゴは元々、デザインチームが開発初期に士気を高めるために作ったもの。このバッジをチーム全員が身につけて開発に臨んだ。それがそのまま車名にも採用されたというワケだ。
初代のデビューは2000年2月。当時、トヨタは若いユーザーの獲得に腐心しており、bBは20代独身男性にターゲットを絞って開発された。チョイ悪でクラスレスな存在感、コンパクトでも広々したパッケージなどコンセプトはズバリ的中し、年齢や性別を超えて幅広い人気を獲得した。車名の最初が小文字のbなのは、黒のほかにもボディ色の設定があり、ブラックの意味を強調しないためだ。
初代ヴィッツ3兄弟のファンカーゴをベースに開発され、エンジンは1.5Lと1.3Lをラインアップ。いずれも4速ATで、1.5Lにはスタンバイ4WDも設定した。前席にはベンチタイプシートを採用。後席は150mmのスライドが可能で、実用的なシートアレンジも自慢だった。2005年の2代目はダイハツ生産になり、ベースはパッソ/ブーンにスイッチ。
■シボレーMW
スズキはGMグループの一員だった1998年、イコールパートナーとしての業務提携関係を世界的規模で一段と強化することで合意した。その一環で誕生したのがスズキのOEM車、シボレー「MW」だ。車名はミニワゴンの意。
初登場は2000年9月。ワゴンR+(プラス)の XT(1L直4ターボ搭載)をベースとした「Sエディション」が、全国のサターン販売店から限定発売された。プラスは11月にマイナーチェンジされ、ワゴンRソリオとして再出発。翌2001年にはソリオベースのMWがカタログモデルに昇格した。
2006年からはスズキのディーラーでも取り扱いを開始。本革巻きステアリング、木目超パネルなどの上級装備で地味に人気を獲得し、2010年まで販売が続けられた。
シボレーのシンボルマーク「ボウタイ」は、グッと精悍になったワゴンRソリオに不思議と似合った。エンジンは1Lターボを1.3L・NAに換装。2002年には1L・NAが廃止された。ソリオは2005年にワゴンRの名前が取れたが、この代まではワゴンRの拡幅版だった。
■トヨタ iQ
3mを切る全長で大人3名+子供1名の乗車を可能にした、マイクロカーの革命児。チーフエンジニアを務めた中嶋裕樹さんは、欧州でマイクロカー専用駐車場にスマート(全長2.5mで2名定員)が停まっているのを見て、パッケージを思いついたという。
車名の公式な由来は次のとおり。
『「i」は、「個性(individuality)」を表すと同時に、「革新(innovation)」と「知性(intelligence)」という意味を合わせ持つ。また、「Q」は、「品質(quality)」を表現するとともに「立体的な(cubic)」という言葉の音と、新しい価値観とライフスタイルへの「きっかけ(cue)」という言葉に由来。』(2008年10月15日のトヨタ・ニュースリリースより)
都市部のクルマにマイクロカーが増えれば、駐車場不足や渋滞の緩和、排出ガスの低減に貢献する。賢いクルマ、賢い人が乗るクルマということで、iQという車名には知能指数(Intelligence Quotient)という意味も込められたと言われる。
お膝元の日本ではインフラや税制のメリットがなく、“マニアなコンパクトカー”で終わったのが残念。魅力的な商品性は、アストンマーティンがシグネットのベース車にiQを選んだことにも表れている。
限定販売ながらEVの「eQ」も開発された。今後EVの時代になっても、クルマは小さいほうが省エネであることに変わりはない。
全長は軽自動車より40cm以上短い2985mmだが、全幅は5ナンバー枠いっぱいに迫る1680mm。ステアリングギヤボックスやミッションなどの専用配置によってエンジンルームを極限まで短縮する一方、エアコンユニットの小型化などで助手席を前方に大きくスライドできるようになったのも、大人の3名乗車を可能にした要因だ。国内は1L直3エンジンでデビュー、のちに1.3L直4を追加搭載。
■フェラーリ FF
デビューは2011年。車名を初めて見た瞬間、「フェラーリもついにFFか!!」と早合点したのは、筆者だけではないだろう。
フロントに搭載するのは、怒濤の660馬力を発揮する6.3L直噴V12エンジン。駆動方式はFF(フロントエンジン・フロントドライブ)ではないのだが、それでもその正体は昔ながらの“スポーツカー”ファンにとって衝撃的だったかもしれない。
FFは「Ferrari Four」の略称。フェラーリ初の4WD車、しかもシューティングブレークだ。4名乗車で快適なスノードライブも楽しめる、超富裕層のためのハイパー4WDワゴンなのである。
フェラーリ独自の4WDシステム「4RM」は、通常は後輪のみで駆動するオンデマンドタイプ。構造上、4WDになるのは1-4速のあいだで、後輪の空転具合に応じて前輪に駆動トルクが伝達される。センターデフを持たないため軽量設計を可能としたのも特徴。車両の重量配分は前47:後53と理想的だった。後輪のベクタリングを行う電子制御デフも搭載。
2016年、GTC4ルッソにモデルチェンジ。基本的にはFFのアップデート版だが、車名の変更はフェラーリが往年の車名を復活させていたためだ。確かにシックリきたが、インパクトは「FF」のほうが強烈だった!?
660馬力・69.6kgmのエンジンスペックは、デビュー当時フェラーリ史上最強。7速DCTを介して0→100km/h・3.7秒、0→200km/h・11秒フラット、最高速335km/h(いずれもメーカー値)の超高性能をマークした。電子制御サスペンションは車高調整システムも内蔵。これもフェラーリ初だ。全長5m・全幅2mに迫るボディサイズは、ポルシェ パナメーラと同等。
〈文=戸田治宏〉
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