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令和の小型車戦国時代に音沙汰なし… 超名門「マーチ」はどうすればよかったのか

掲載 更新 38
令和の小型車戦国時代に音沙汰なし… 超名門「マーチ」はどうすればよかったのか

 何度となく「そろそろ生産終了か?」という噂が出ながらも、販売し続ける日産マーチ(2020年春に「一時生産中止」という報道があり、「ついに絶版か」という噂が流れたが、同年7月に一部改良を実施して、現在も販売中)。

 販売は好調…とはいいがたく、2021年1月の月販台数は752台。同門のノートが7532台を売っていることを考えると、1/10という状況。かつて一世を風靡した超名門車が、(新型ノートだけでなく、トヨタからヤリス、ホンダからフィットと、それぞれ新型が登場している)令和のコンパクトカー戦国時代に、まったく音沙汰なしというのは寂しいかぎり。

スバル車は売る時お得? 買い取り額が高い理由とは

 マーチはなぜこんなに影が薄くなってしまったのか。何が悪かったのか。どうすればよかったのか。販売事情に詳しい渡辺陽一郎氏に伺った。

文/渡辺陽一郎 写真/NISSAN

【画像ギャラリー】月平均1万台以上を登録していたこともあるマーチの歴代写真はこちら

■コンパクトカーの売れ行き好調! だがマーチは..?

 最近は全長が4m前後に収まるコンパクトカーの売れ行きが好調で、乗用車市場全体の26%、小型/普通乗用車に限れば40%を占める。

 コンパクトカーは価格が割安で燃費もよく、運転しやすいことから、もともと人気が高かった。特に最近は、安全装備や運転支援機能の充実により、クルマの価格が2000年頃に比べて1.2~1.4倍に上昇している。その結果、ミドルサイズの車種からコンパクトカーに乗り替えるユーザーも増えた。

 2021年1~2月の小型/普通車登録台数ランキングを見ても、ヤリス、ルーミー、ノート、フィット、ソリオという具合に、5ナンバーサイズに収まるコンパクトカーが上位に入っている。

ノート、ヤリス、フィット、スイフトなどのコンパクトカーが上位を占める

 ただしコンパクトカーのすべてが好調に売れているわけではない。日産マーチは知名度の高い車種なのに、売れ行きが伸び悩む。

 2020年におけるマーチの登録台数は、1か月平均で481台であった。同じ日産のコンパクトカーでも、ノートはほとんどモデル末期の状態ながら、1か月平均が6017台だ。マーチの売れ行きはノートの8%と少ない。2021年も変わらず、マーチの1か月の登録台数は1000台を下まわる。

 今の売れ行きは、マーチにとって不本意だろう。以前のマーチは人気車だったからだ。

■2010年の4代目以降より売れ行きが低迷

 1992年に登場した2代目マーチは、1993年に1か月平均で1万台以上を登録した。今のヤリス(ヤリスクロスを除く)と同等かそれ以上だ。2002年に発売された3代目の先代型も、2003年には1か月平均の登録台数が1万台を超えた。

 それなのに2010年に登場した4代目の現行型は、2012年(2011年は東日本大震災の影響が大きいから除いて考える)における1か月平均が3308台だった。2/3代目は発売の翌年に1万台以上を登録したのに、現行型の2012年は3分の1に留まる。発売時点から売れ行きが低迷した。

 現行マーチは、発売時点で1か月の販売目標を4000台に設定していた。この数値は現行型が生産を終えるまでの平均値を意味するから、発売直後は目標台数を上まわる必要がある。しかし2012年の時点で、早々に下まわった。

2010年登場 現行型(4代目)マーチ 2012年の時点で目標を早々に下回った

現行型(4代目)マーチ リア

 しかも今では現行マーチの発売から10年以上を経過したので、1か月の平均登録台数は、前述の500台以下まで低下した。フルモデルチェンジの周期が長引いたことも、販売不振の原因だ。

■現行マーチの売れない理由とは

 さて現行マーチが売れない理由として、商品自体では質の低さが指摘される。

 例えばインパネ周辺の素材や形状は、コンパクトカーの中でも低い部類に入る。リヤゲートを開いて後席を倒すと、広げた荷室の床面部分に隙間が生じた。運転感覚も同様で、乗り心地には粗さが感じられ、操舵感は曖昧だ。

現行マーチの内装

 コンパクトカーはレンタカー料金が安いので、仕事や旅行で遠方まで出かけた時に利用するユーザーも多い。借りるたびに、マーチ、スイフト、ヤリス、マツダ2などを運転すると、コンパクトカーの良し悪しも自然に分かる。このような事情で、マーチが売れ行きを下げた事情もあった。

 マーチがタイ製の輸入車であることも影響した。タイ工場の生産精度に問題はないが、輸入車だとグレードやメーカーオプションを豊富にそろえられない。現行マーチもエンジンは1種類で、4WDは用意されず、メーカーオプションの数も少ない。もちろんe-POWERを含めてハイブリッドはなく、ユーザーが自分に合った仕様を選びにくいことも、販売面でマイナスに作用した。

 そして輸入車だから、在庫車に好みのボディカラーがない時など、新たに発注すると発売当初は納期が数か月に伸びた。ほかの車種にも当てはまる話だが、海外で製造された車両を輸入すると、バリエーションと納期に不満が生じやすい。

■質・乗り心地・安全装備などに不満が散見

 輸入車という影響もあり、衝突被害軽減ブレーキの装着も遅れた。マーチに採用されたのは2020年7月になってからだ。軽自動車のムーヴなどは2012年に採用しており、コンパクトカーも、この時期から衝突被害軽減ブレーキの装着を積極的に進めた。日産もノートには、2013年に単眼カメラ方式を採用している。

 衝突被害軽減ブレーキはユーザーの関心が高い装備で、2015年頃には、非装着車は販売面の不利が目立っていた。それなのにマーチでは装着されない状態が長く続いたから、日産の売る気のなさが感じられた。

 そのためにマーチの登録台数は、2015年には1か月平均で1290台、2017年には1190台、2019年には779台と下がり、2020年には前述の500台を下まわった。現行マーチは、内外装の質、乗り心地、安全装備まで、多岐にわたる不満が散見されて売れ行きを下げてしまった。

■マーチ目当ての顧客がノートやデイズや軽自動車を契約していくことも..

 このあたりを販売店ではどのように見ているのか。

 日産ディーラーの営業マンに、マーチについて尋ねると以下のように返答された。

 「マーチは低価格で購入できる運転しやすいコンパクトカーだが、最近はノートに力を入れている。先代ノートにe-POWERが加わると、知名度も高まり、ノーマルエンジンの売れ行きまで伸びた。また軽自動車のルークス(先代型はデイズルークス)も人気車になり、小さなクルマはノートと軽自動車という選択になった」。

新型ノート 2016年にe-POWERが加わり、小型/普通車の登録台数の1位に

 先代ノートは、現行マーチの登場から2年を経過した2012年に発売された。

 マーチに比べると後席と荷室が広く、内装の造りも良いから相応の人気を得た。2016年にe-POWERを加えると、さらに売れ行きを伸ばして、小型/普通車の登録台数1位になっている。

 また2013年には、三菱と共同開発した軽自動車の先代デイズ、2014年にはデイズルークスも登場して、2015年には両車を合わせると1か月平均で1万2558台が届け出された。

現行型デイズ(2013年) 2014年にはデイズルークスも登場 両車とも魅力的な軽自動車だ

 この2車種の軽自動車も、インパネ中央のエアコンスイッチには、光沢のあるピアノブラックのタッチパネルを採用する。質感はマーチよりも高かった。また先代デイズでも、後席はマーチよりも広く、天井の高いデイズルークスになると後席を畳んで自転車なども積める。デイズとデイズルークスは魅力的な軽自動車で、2014年の末には、両車に衝突被害軽減ブレーキも追加装着された。

 以上のように2010年に発売された現行マーチは、2012年に登場した先代ノート、2013年のデイズ、2014年のデイズルークスに需要を奪われた。マーチを目当てに販売店を訪れた顧客が質感などに不満を感じた時、ノートや軽自動車を推奨して売れ行きに結び付けるのは、当然の成り行きであった。

■日産の貴重な財産「マーチ」の今後はどうなるのだろうか

 マーチにとって最大の敗因は、内外装や乗り心地の質が低かったことだが、発売後の改良を怠って衝突被害軽減ブレーキなどの採用が遅れたことも影響した。質の向上や安全装備の充実は、発売後にも入念に行うべきだった。輸入車だから改良しにくいのであれば、国内生産も検討すべきであった。

 そして現行マーチは発売から10年以上を経過したので、早急に次期型を発売したい。10年を経過すると、現行型のユーザーがフルモデルチェンジを待ち切れず、ほかの車種に乗り替えてしまうからだ。

 現行ノートはハイブリッド専用車になって価格は200万円を上まわり、マーチからの乗り替えに適さない。販売店では「マーチのお客様には、同程度の価格で買えるデイズを推奨している」というが、軽自動車を好まないユーザーは、他社のヤリスやパッソに乗り替える可能性もある。

 その意味で導入に期待したいのが、欧州で販売されるコンパクトカーのマイクラだ。全長は3999mmだから、マーチよりは長いが、ノートに比べると短い。ホイールベース(前輪と後輪の間隔)も2525mmで、ノートとマーチの中間に位置する。

現行型マイクラ 欧州で販売されるコンパクトカー(全長3999mm)

 マイクラは全幅が1743mmと少しワイドだから、3ナンバー車になるが、コンパクトカーの範囲に収まって外観はスポーティだ。日産の商品企画担当者は「マイクラのエンジンは直列3気筒1Lターボで国内市場に合わない」というが、設計が古く質感に不満を抱える現行マーチを売り続けるよりは、ユーザーのメリットに結び付く。

 あるいはルノーとの業務提携を生かして、トゥインゴをマーチとして導入する方法もある。トゥインゴの丸みのある外観は、マーチのイメージにも合うからだ。

 日本のコンパクトカー市場を支えてきたマーチの実績と知名度は、日産にとって貴重な財産だ。マーチの名称に相応しい、上質で買い得なコンパクトカーを投入したい。それが日産の復権にも繋がる。これ以上貴重な基幹車種を切り捨てると、日産はさらに危うい方向へ進んでしまう。

【画像ギャラリー】月平均1万台以上を登録していたこともあるマーチの歴代写真はこちら

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みんなのコメント

38件
  • デザイン、内容どれをとっても先代K12マーチの劣化版だから。
  • 儲かる車のことしか 考えてこなかったからです。顧客にとって良い車を考えるのでなく 会社のために都合の良い車しか 考えなかったから 見放されたのです。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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