コブラ待望のAT仕様に乗った。身体中が熱く…
掲載 更新 carview! 文:まるも 亜希子 /写真:篠原 晃一
掲載 更新 carview! 文:まるも 亜希子 /写真:篠原 晃一
ドアを開けた瞬間、スカートを履いていなくて良かったと思った。走行後は熱くなるだろうサイドマフラーをまたぎ、低い着座位置のシートに収まる。右腕の位置にニョキッと突き出ている6速ATは、45年の歴史を持つアメリカのTCI社製だ。独特の操作方法だが、慣れれば簡単で、任意にシフトチェンジも可能なボタンがついている。心の中で気合いを入れていざ、イグニッションを回すと、5.0リッターV8のフォード・マスタング用COYOTEユニットが目を醒まし、ブオオンッと大きく吠えた。
ブレーキペダルから足を離し、控えめにアクセルペダルを踏んだつもりが、ビュンッと鋭く加速する。ボディは日本が誇るライトウェイトスポーツのマツダ・ロードスターよりわずかに全長が短く、車高が低くて車重も30kgほど軽い。それを、412ps/53.9kg-mもの大パワーが引っ張るのだから、数秒後には身の毛がよだち、息も出来ないほどの強烈な加速Gに襲われていた。
路面から容赦なく響いてくる轟音と、髪の毛をグシャグシャにしていく風。時おりシートの下あたりでパラパラコツンと小石が跳ね、段差やうねりを拾ってボディが傾く。私の腕力がステアリングを抑えきれず、速度を緩めて立て直す場面も何度かあった。それでも4つのタイヤはしっかりと地面を蹴って、コーナーを抜けるたびに、ミラーに映る後ろのスタッフ車両が小さくなっていく。道とコブラと私の三者が差しつ差されつ、ドライブというゲームを創っていくような、エモーショナルな時間。走り終えた時には身体中が熱く、鼓動が速くなっていた。
その後、5速MT仕様にも試乗したが、思いのほか運転は気難しくなく、やはり手足をフルに使って操る爽快感はこちらの方が強い。ただ、渋滞にハマったり長距離を走ることを考えると、ゲンナリするのが正直なところ。その点、ATならそれもなんとかこなせそうだと感じる。オプション(※65万円)でハードトップも用意されているので、天候、防犯、快適性と様々な面で現実的なのが「A-Line」だ。
高齢になってもなお、気さくでユーモアがあり、エネルギッシュだったというキャロル・シェルビー。今回の試乗で、夢のまた夢と思っていた伝説のコブラの世界が、ほんの少しだけ覗けたようで嬉しくなった。少しでもコブラに憧れがある人なら、今こそ一歩を踏み出してみる時ではないだろうか。
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