トヨタの自動運転実験車に同乗。実用化を前にして考えたこと
掲載 更新 carview! 文:塩見 智/写真:篠原 晃一
掲載 更新 carview! 文:塩見 智/写真:篠原 晃一
ところで、将来、自動運転が普及し、それによって年間の交通事故死者が数百人減らせるようになったと仮定する。半面、自動運転機能の想定外の不具合や誤作動、あるいは現時点ではまだ想像できない不可抗力によって、自動運転が原因の事故が発生し、数人の死者が出るとしたら、我々は数百人の減少というメリットを享受するために数人の死者というデメリットを受け入れることができるだろうか。
実際には、最初に自動運転機能が原因となった可能性がある死亡事故が発生した時に「やはりこんなの危険だ」「時期尚早だ」というヒステリックな意見が出ることが予想される。僕もそう考えるかもしれない。現状、人間が原因で起こる事故で年間4000人以上が死亡しているにもかかわらず、だ。
この点、トヨタの葛巻清吾CSTO(チーフ・セーフティ・テクノロジー・オフィサー)補佐は「大きなテーマです。自動車メーカー全体が、自動運転のメリットとデメリットを世の中にきちんと提示し、リスクを受け入れて便益を享受するかしないかを国民の皆さんに見定めていただく必要があります」と話す。
新しい技術は途中まで水面下で進歩して、ある段階で急に世に出てくる(ように多くの人には感じられる)もの。自動運転も急に騒がしくなってきた。そのメリットを享受するまでには法整備を中心にまだハードルはいくつも存在するが、実用化の時期を明言するようになったということは、クリアするめどがたったということだろう。
同乗体験の最後、9号線から湾岸線へ合流する際、合流先の本線が渋滞していた。徐々にスピードを落とし、右ウインカーを出し、ほぼ徐行になって、我々が普段そうするのと同じように入る隙間ができるのを待っている。頑張れと心のなかで応援している自分に驚いた。はっきり愛着を抱いたと認めざるを得ない。いったん停止するのかと思わせたところで、隙間を見つけてサッと合流。よしっ! 同乗体験を終え、降りる際にサイドシルに足が引っかかって転びそうになった。この特別な感情は一方通行だったようだ。でもこういうふうに自動運転車に恋する人たちが絶対出てくるはずだ。機嫌が悪くて荒い挙動にならないし、後ろがどんなに怖そうなクルマだって躊躇なく合流するだろうから。
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