CX-60の乗り心地が大改善!? 巷で噂の「硬さ」が解消された“乗り味の異なるモデル”に試乗
掲載 carview! 文:西村直人(NAC)/写真:西村直人(NAC)、マツダ 177
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直列6気筒3.3Lディーゼルターボエンジン、後輪駆動ベースのプラットフォーム(4輪駆動もあり)、湿式多板クラッチをベースにした1モーター2クラッチ式の8速トランスミッション(1クラッチ式もあり)など、新たに開発した技術を数多く搭載した「CX-60」。
世界的に激しい販売合戦が続くSUV市場のなかで、こうした新技術のほか、抑揚ある上質な内外装デザインや、企業努力により達成した299万2000円(執筆時)からの車両本体価格はずいぶん高く評価された。
しかし、そのCX-60がユーザーの手に渡り始めた当初から、「満足度は高いけど、乗り心地が硬め……」との声が出始める。評価を受けたのはシリーズの上位にしてマイルドハイブリッドシステムを搭載した4輪駆動モデル(以下MHVモデル)だ。
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筆者は症状を把握するため4輪駆動の「XD-HYBRID Premium Modern」(547万2500円)に一般道路と高速道路を約600km、1名~4名で試乗してみたが、確かに路面状況が悪化すると「硬さ」を意識した。
硬さにもいろいろあるが、MHVモデルの場合、とくに後席では路面の大きな凹凸を通過すると身体がフワッと一瞬だけ浮き上がる。さらに、荒れた路面で一定の凹凸が続くなど特定の条件が重なると、ものの数秒ながら車体がフワフワと浮遊する。これが高速道路で多用する80~100km/hあたりの速度域で発生するから気になった。
前後ピッチングを抑えたスッキリとした乗り味達成のトレードオフとして、当初から特定条件下でその症状が発生する。このことはCX-60開発陣も認識していたようだ。さらに取材を続けていくと、この硬さは開発当初から存在していた「乗り味の異なるモデル」では抑えられているという。
その異なるモデルでは以下の3点を変更した。
(1)リヤサスペンション・アーム締結の一部に用いたピロボール(硬質樹脂による高い圧着≒高剛性)方式を、一般的なラバー系素材によるブッシュ方式(≒柔軟性)に変更。
(2)ブッシュ方式に合わせてロール(車体の横方向への傾き)を抑える働きをもつスタビライザーを後輪側のみ取り外し。
(3)MHVと2.5LガソリンPHEVが履くアルミホイール(20インチ)の剛性を、超高剛性タイプから、広くマツダ各車が採用している標準剛性タイプへ変更。
3点を変更した狙いは、(1)で柔軟性を向上させ、(2)で路面からの入力をロール方向にも分散することで身体がフワッと鉛直方向に浮き上がる動きを抑制し、(3)で地面に近いホイール自体にいなしを与えてアタリを柔らかくすること。
果たして違いは体感できるのか?
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(1)~(3)の設定違いを施したマイルドハイブリッドシステムを持たない、「素のディーゼルエンジンで後輪駆動」の「XD L Package」(400万4000円)に500kmほど試乗して確認してみた。
ちなみに、乗り味の異なるモデルは現時点、後輪駆動かつ素のディーゼルモデルに加え、4輪駆動かつ素のディーゼルモデルの「XD S Package」(シリーズ唯一のオールシーズンタイヤを装着し380万6000円)が該当する。
最初に結論を述べると、乗り味は大きく変化した!
前述したMHVモデルで身体がフワッと浮遊した同じ道路を同じ速度で走らせると、見事にそれが消え去っていた。
加えて、路面から受けた強い入力も、筆者の体感値ながらタイヤをインチダウンさせたかのようにじんわり減衰する。実際には試乗した素のディーゼルモデルのタイヤ(235/50R20)はインチダウンされておらず、銘柄/指定空気圧もMHVモデルと同じだ。
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さらに新たな発見もあった。まず良いところとして、発進時のギクシャク感が大幅に減った。MHVモデルの駆動モーターを挟んだ1モーター2クラッチ方式から、素のディーゼルモデルはシンプルな1クラッチ方式になったからだ。
車両前方から、エンジン/クラッチ1/モーター/クラッチ2/トランスミッションの順番で並ぶMHVモデルの駆動システムは、発進時にエンジンとモーターの駆動力を2つのクラッチで独立制御し、それらを上手くミックスして駆動力を生み出している。
内燃機関と電気モーター、特性の異なるトルクを同軸上で合算する2つのクラッチ制御は相当難しい。過去に日産もフーガやスカイラインなどに1モーター2クラッチ方式のハイブリッドシステムを搭載した(クラッチ2の位置がマツダと異なる)が、こちらは最後までギクシャク感が残った。
以前のMHVモデルと今回の素のディーゼルモデルの試乗では、平均車速10km/h程度の渋滞路に数回遭遇している。そこでは頻繁なストップ&ゴーが続いたが、MHVモデルの場合、自車周囲の交通環境から意図しないアクセル操作を余儀なくされた際にグワッと発進したり、急減速時にちょっとした引っかかりを感じたり、という状況が確認できた。
一方、素のディーゼルモデルではそれがない。エンジン/クラッチ/トランスミッションとシンプルな構造なので、MHVモデルでギクシャク感が出た意図しない走行状況でも、ほぼそれを感じない。
もっとも体感センサーを敏感にすれば多少のギクシャクを感じるが、そもそもダイレクトな走行性能を得るためにトルクコンバーター(流体)の代わりとして湿式多板クラッチ(物体)としたわけだから、そこは納得すべき部分だ。
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続いて、新たな不満点。それはなんと乗り味だった。
MHVモデルの硬さは見事に消え去ったが、前述した3つの手段によってMHVモデルの美点であり、開発の優先目標でもあった「前後ピッチングを抑えたビシッとした車体安定性」が損なわれてしまった、と筆者には感じられた。
もっともこちらも理にかなっていて、MHVモデルで抑えていた動きを解放したわけだから、結果、その入力がボディ各方面へと伝播し、いわゆる“緩さ”として体感するのは当然のことだ。
乗り比べ当初、筆者の好みは柔軟な素のディーゼルモデルの乗り味だったが、両モデルを同じ条件で乗り比べてみるとMHVモデルが実現したすっきりとした乗り味が良いと思えてきた。なにより振動特性が上下(鉛直)方向に集約されているので、身体的疲労度にしてもMHVモデルのほうが、より少ない。
素のディーゼルモデルでは振動も意識した。8速/80km/h/1200rpmからジワッとアクセルペダルを踏み込み加速させていくと、ステアリングに伝わるビリビリっとした高周波振動を一定周期で確認できた。これは超高剛性化されたホイールを履くMHVモデルにはなかった症状で、ホイールの剛性化や、エンジン、サスペンション、タイヤなど複数の振動源が絡み発生要因となったと推察した。
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MHVモデルから素のディーゼルモデルが継承した美点は優秀な燃費数値だ。走破した約500kmのうち55%程度が高速道路で、そこではACC機能(アダプティブ・クルーズ・コントロール)と車線中央維持機能(マツダではCTSと呼ぶ)の運転支援技術(SAEレベル2相当)を使い、規制速度で淡々と走らせた(制限速度抑制機能の速度提案はすべて受け入れた)。
結果、素のディーゼルモデルでは25.82km/Lを記録。軽油のCO2排出係数を踏まえたkmあたりのCO2排出量は99.9gと優秀な値だ。ちなみに同条件でのMHVモデルは26~27km/L台だった。
搭載エンジンはどちらも同じ、直列6気筒3.3Lディーゼルターボだが特性が異なる。MHVモデルの254PS/3750rpm、56.1kgf・m/1500~2400rpmに対して、素のディーゼルモデルは231PS/4000~4200rpm、51.0kgf・m/1500~3400rpmと出力/トルクともに値は低いが、発生回転領域が幅広い。
高速道路での本線合流では、可変シフトスケジュール機構の「マツダ インテリジェント ドライブセレクト」をスポーツモードにするだけで、Dレンジのまま4500rpmまでキッチリ回る。爽快感は素のディーゼルモデルのほうが良いようだ。
>>人気はディーゼル&4WD!CX-60の所有者はこんな人たち
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今回の試乗はMHVモデルで指摘されていた硬さと、サスペンション設定の異なる素のディーゼルモデルの比較試乗に徹したが、自身初となる後輪駆動グレードの試乗でもあり、CX-60が目指した素直な走行性能への理解も一層深まった。
とりわけ車両重量1810kgと4輪駆動のMHVモデルから130kg軽いこと(筆者による試乗モデルでの比較)が効いていて、市街地から山道までスッと鼻先が入る軽快感が良かった。
そのカーブでは全車標準装備のKPC(キネマティック・ポスチャー・コントロール/運動学に基づいた車両姿勢の制御技術)との相乗効果で、車体サイズを感じさせない一体感は駆動方式を問わないから安心して走らせることができた。細かな要望はたくさんあるが、個人的には新生CX-60の熟成を応援していきたい。
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