VWが未来の「ビートル」になると期待する低価格EV「ID.ライフ」の試作車をテストドライブした!
掲載 carview! 33
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数億円もの製作費をかけて完成されたコンセプトモデルをドライブすることは滅多にないもので、非常に貴重な経験だが、同時に非常に緊張することも確かである。なにせ世界に1台しか存在しないから間違いがあってはならない。特に今回の「VW ID.ライフ」はIAAミュンヘンモーターショーでVWのスタンドで華々しいワールドデビューを飾った注目のモデルなのだ。
この新しいEVクロスオーバーのコンセプトは、いまから80年前に手頃な価格で世界的な成功をおさめた「VW ビートル」と同じような役割を果たすのでは、と期待されている。これまでVWが発売してきたEVモデルは、もっとも安価な「ID.3」でも適度なオプションを装備すると4万ユーロ(約520万円)近くなってしまう。
このコンセプトID.ライフは、このままのカタチかどうかはまだ分からないが、2025年におよそ2万ユーロ(約260万円)~で発売されると予想されている。
当初、VWは比較的安価なエントリーEVの販売を2027年に予定していたが、EVの売り上げが好調なのを受けて2025年に前倒しされた。ただしVWが狙っているのは単に入手しやすい価格を付けたEVの市場だけではない。この日に取材した限りでは、このID.ライフが量産されたときに与えられるモデル名は「ID.2」で、ID.3の下に位置するモデルとなる。
コンセプトID.ライフのデザインについては、単なるSUVクロスオーバーではないものを模索した結果だと説明された。すなわちSUVブームが終わっても、その先の時代に通用するような普遍的なシリーズとなることが意図されている。
他のID.モデルとは違い直線の多い箱型デザインで、ボディサイズに対して最大のキャビン空間を確保している。量産化された場合も、このコンセプトモデルにかなり近いものが誕生する可能性が高い。
コンセプトモデルの見どころはフラッシュサーフェス、つまりボディの表面に平滑に埋め込まれたヘッドライト、テールライト、前後のVWロゴだ。全長4.1×全幅1.85×全高1.60mのボディは、ID.3より20cmも短い。
生産バージョンのEVプラットフォームはID.シリーズが使う「MEB(モジュラー・エレクトリック・ドライブ・マトリクス)」をモディファイしたものを使用しており、ホイールベースは2.65mとMEB比で10cm短く、社内では「MEBエコ」と呼ばれている。
ID.ライフがID.3と異なるポイントとして、電気モーターがリアではなくフロント車軸に置かれ、1速ギアで前輪を駆動する点も注目だ。駆動モーターの最高出力は172kW(234ps)、最大トルクは290Nmで、0-100km/hは6.9秒、最高速度は180km/hと発表されている。しかし、それはあくまでもショーカーとしての看板で、量産モデルはもっと大人しいはずだ。
電気モーターをフロントにレイアウトしたのは主にコストとパッケージングが目的で、大人4名のスペースとリアに400リッターと十分な広さのトランクを確保することができた。一方、フロントには充電ケーブルを収納するスペースが残されている。
ID・ライフの市販版は57kWhから様々な容量のバッテリーが用意され、すべて床下に配置、EVの利点であるフラットなフロアが用意される。リチウム電池のセルは現在VWが使用しているニッケル・マンガン・コバルト(NMC)に代わって、低コストのリン酸鉄リチウム(LFP)が採用されている。
LFPセルはニッケル、マンガン、そしてコバルトなどの高価なレアメタルを電極の素材に使用しないので、製造コストを抑えることができる。ID.ライフの量産モデルを廉価な価格で提供するにはこの新しい電池の搭載が不可欠なのだ。それでも、航続距離は400kmに達すると発表されている。
インテリアデザインは非常に質素で控えめに仕上がっている。航空機の操縦桿のようなステアリングの中央はデジタル画面で、ダッシュボードの上部パッド部分はリサイクルされたポリエステル製、その下には木製の棚が車幅一杯に広がっている。
専用のインフォテイメントディスプレイは用意されず、オーナーは自分のスマホをダッシュボードに磁石で固定して代用する。さらにフロントウインドウにはスクリーンも用意され、駐車中であればビデオを鑑賞することができる。その際にはリアのベンチシートが鑑賞席となる。
スターターボタンは木製棚に彫り込まれたスイッチだ。ドライブセレクターはステアリング内のタッチパッドで操作する。ドライビングポジションは高めで視界は良好、コーナーの先まで良く見える。
ID.ライフをドライブして得た好印象の原因は、これまでの内燃機関搭載のコンセプトカーのように仮ではなく、すでにプラットフォームは決まっていて、クルマとしての剛性が確保されているからであろう。
短縮されたMEBエコのプラットフォームは前がマクファーソンストラット、後はトーションビームが組み込まれ、ステアリングシステムはID.3から受け継いだEPS(電動パワステ)が装備されている。
装着されていたタイヤはコンチネンタル・エコ・コンタクトでサイズは235/45ZR20でロードホールディングは素晴らしい。ただし今回のテストは40~50km/hという低速でクローズドサーキットを数周するだけなので、VWが主張する性能を確認することはできなかった。
ステアフィールは軽くダイレクトだが、航空機の操縦桿 のようなステアリングはデザイン重視で決して使い易いものではない。けれどもストレートを走っている時のセルフセンターリングを含めた操舵力は適当で、切り込んだ時の操舵感も悪くなく、しいて言えば通常の丸いステアリングが欲しくなった。
数値は発表されていないが、運転した限りでは回転半径も小さく、市街地では乗り易そうだ。またリアビューミラーは存在せず、前方と後方の3台のカメラから送られた画像で確認する。将来的にはヘッドアップディスプレイの画面にも投影される。
最後になるが、コンセプトモデルの試乗車としての出来が良いこともあって、2025年に登場する市販バージョンに対する期待はかなり高まったと報告してこう。
レポート&写真:Greg Kable(クレッグ・ケーブル)/Kimura Office
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