世界的なEVシフトの中に潜むもっとも危険なこと【後編】
掲載 更新 carview! 文:岡崎 五朗
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そんなのは答えになっていないとお叱りを受けるかもしれない。しかし、航続距離や充電時間や充電インフラや電力確保やコストなどの問題がクリアになっていない以上、エンジンを全面禁止し、EVにシフトさせるなどというあまりに性急な政策こそ非難されるべきだろう。エンジン禁止などと言ったら、エンジンの改良が進まなくなるとは考えなかったのだろうか?
英仏の政策を賛美する一部のマスコミにはこの観点が決定的に欠けている。もちろん、化石燃料が限りある資源である以上、いつかは二次エネルギーへと移行する必要があるし、EVには未来の主要モビリティとなるポテンシャルが十分にある。が、移行は徐々に行われるべきであり、それまでの間、限りある石油資源をいかに有効に利用していくかが直近の最重要課題になるということを忘れてはいけない。
おそらく今後10年間ぐらいは、技術の進化を横目に見つつ、人間と地球、人間と環境といった問題を、学問的レベルではなく、人々の意識レベルで整理整頓していく期間になる。それはまさに、1992年のリオ環境サミットで採択された「持続可能な開発(サステイナブル・ディベロップメント)」の具現化作業であり、豊かさや幸福感の絶対量をキープしつつ、その中身を変えていこうという知恵の勝負のスタートにほかならない。
その点、東日本大震災という筆舌に尽くしがたい辛く悲しい出来事は、われわれ日本人の意識を否応なく変えた。豊かさとは何か、幸せとは何か、安全なエネルギーとは、省エネとは……日本人の皆が考えた。そしてそこから生まれる選択には、世界の範たる思想へと昇華していくポテンシャルが秘められているはずだ。
事実、震災前の2010年をピークに、日本は電力需要を減らすことに成功した。ハイブリッド車が世界でもっとも普及した国にもなった。軽自動車を筆頭とするコンパクトカーの比率もグンと増えた。豊かさの対価として湯水の如くエネルギーを使うのではなく、省エネを新エネルギーのひとつに位置づけ、よりよい未来を模索していく。そんな新しい思想によって生みだされるクルマを使った、もっと効率的で、もっと安全で、もっと楽しいモビリティを世界中の人々に提供していくこと。それこそが、日本の自動車産業が今後の世界をリードしていく礎になるのではないだろうか。そのためにも、EVが善で内燃機関が悪といった単純な二元論に流されるのは避けるべきだと心から思う。
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