世界的なEVシフトの中に潜むもっとも危険なこと【後編】
掲載 更新 carview! 文:岡崎 五朗
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英仏も中国も、都市部の大気汚染がEVシフトへの大きな動機になっている。しかしいま日本の空を見上げてみると、決して劣悪な環境ではないことがわかる。彼らは内燃エンジンを悪人扱いしているが、悪いのは実のところ有害ガスを垂れ流す古い内燃エンジン(とくにディーゼル)であり、クリーンな最新エンジンへの買い換え促進策を進めれば、都市部の大気汚染問題はかなり改善されるだろう。そういう意味で、クリーンと謳いつつ、実は大量の窒素酸化物をだしていたVWのディーゼル問題は罪が重かった。が、だからといって一足飛びにEVシフトを推し進めるのはちょっと違うのでは? まだまだやることはあるのでは? と思うのだ。
具体的には、内燃機関のさらなる効率向上とクリーン化にはまだ伸び代がある。ヨーロッパですっかり悪者のイメージが付いてしまったディーゼルだが、たとえばマツダのディーゼルは大がかりな排ガス浄化システムを使わずに優れたクリーン性能を実現している。クリーンであるなら、ディーゼル本来の熱効率の高さには捨てがたい魅力があるはずだ。EVと同時に注目を集めているPHVにしても、ヨーロッパ勢の多くはエンジンがかかると途端に燃費が悪化するが、プリウスPHVはたとえバッテリーを使い切りエンジンがかかっても、プリウスがもともともっているハイブリッド走行時の優れた燃費が活かされる。
劣勢が囁かれる水素燃料電池だが、長距離輸送用大型トラックや都市内集配用小型トラック用途であれば、課題とされるインフラも整備しやすいだろう。日本で研究が進む藻類を使ったバイオ燃料も楽しみな存在だ。このように、可能性のあるものはひとつ残らずやっておくことが必要であり、いちばん危険なのは、まだ正解が見つかっていない現段階で、世界の流れはEVだからと、可能性を切り捨てひとつに絞ってしまうことだ。
もちろん、各国が法規制としてEVシフトを推し進めている以上、この分野で後れをとることは許されないが、リーフは依然として世界でもっとも売れているEVだし、トヨタがリチウムイオンバッテリーを凌駕する全個体電池の実用化に目処を立てるなど、EV分野でも日本は決して遅れをとっていない。
しかし、いま求められているのは急激なEVシフトではなく、地域やユーザーごとの異なるニーズに合ったさまざまな選択肢を提供すること。安いクルマを求める人には小型でシンプルなガソリン車、高速道路を長距離走る機会の多い人にはディーゼル車といった選択肢を含め、ハイブリッドやPHV、そしてもちろんEVも、自由に選べるのが理想だ。僕はEVの走り味が好きだし、漠然と次の次ぐらいに買うクルマはEVになるかもなんて思っているが、だからといってEVがすべての問題をきれいさっぱり解決してくれる打ち出の小槌ではないとも思っている。そう、「答えはひとつじゃない」が、当面の答えである。
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