63年モノの伝説の名車300SLでミッレミリアに出場した・後編
掲載 更新 carview! 文:木村 好宏/写真:Kimura Office
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ところで、ナビゲーターのもっとも大事な仕事はロードブックに示されたコマ図に従ってドライバーに指示を出すことで、つねに大声で「3km先の十字路を右!」とか「500m先のラウンドアバウトで3番目の出口!」と叫ぶ。ラウンドアバウトの数は非常に多くて、その多くが単なる直進なのだが、その度に「直進!」と言い続けなければならない。
何度も「ラウンドアバウト直進」「ラウンドアバウト直進」また「直進」と繰り返しているうちに、つい眠気と疲れで口癖のようにおうむ返しで「T字路直進!」とやってしまった。ドライバーのエレンは「なんですって!」と当然大声で聞き返して来る。「ごめん!」と言うと、「お陰で眠気がすっ飛んだわ!」と笑い飛ばしてくれた。さすがはプロドライバーである。エレンの走りはスムースそのもの、特に峠道でライバルをパスするときは、僅かなスペースと距離を見つけると、スパッと、まるで魔法のようにいつの間にか前へ出ている。
おかげでタイムには余裕が出て、毎日のフィニッシュ後に行う給油も落ち着いてできるようになった。また道中で何人かの日本人チームにも遭遇した。なかでもタレントの堺正章氏はベテランで「線踏みは任せて下さい!」と自信満々であった。
スペシャル・ステージは前回に説明したように、数百メートルぐらいの短い区間を秒刻みで時間通りに通過(これが堺氏の言う線踏み)するものと、その区間全域を出来るだけ正確に平均速度を保って走り、その間のブラインドで計測されるものと2種類ある。前者はエレンがステアリングを握り、後者は私の担当であった。搭載してあったGPS利用の距離計だが、最初の日は非常に巧く働いていたが、2日目からおかしくなった。スピードメーターの指示で走ると、遅過ぎると表示されるのだ。仕方なしに速度を上げると、1分前にスタートした先行車が見えてくるほど速い。「変だよ!」とエレンに告げると「メーターを信じよう!」という。
結局、先行車を追い越してしまった。続くステージでは今度はどう考えても遅すぎる。納得が行かないままに機械を信じてステージを終えたが、その日、フィニッシュした後にメカニックに調べさせたところ電池が消耗していて電圧が一定していない事が判り、新品の電池と交換することにする。翌日からは納得の行く表示に変わったが後の祭りである。
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