忘れてくれるな! 5ナンバークロスオーバーの先駆けスズキ「イグニス」はライバル不在のワン&オンリーだった
掲載 carview! 文:伊達軍曹/写真:スズキ 219
掲載 carview! 文:伊達軍曹/写真:スズキ 219
「大きな車はいらない。できるだけ小さめな車がいい。だからといって軽自動車は乗る気になれないし、荷物もそれなりの量を積みたいし」
そのように考える人がどれぐらいいるのか、筆者にはわかりません(たぶん多くはないでしょう)。でも、一部には確実にいらっしゃるはず。
そんな“一部の人”にピタッとはまりそうな一台が、スズキが販売しているSUVテイストのコンパクトカー「イグニス」です。
2016年に発売されたスズキ「イグニス」は、グローバル基準では「Aセグメント」という、乗用車としてはもっとも小さな車体のグループに入るコンパクトカー。全長は軽自動車より30cm長いだけの3700mmで、車幅も、いわゆる5ナンバー枠いっぱいまで4cmも余裕を残した1660mmです(※一部グレードの全幅は1690mm)。
しかしそれでいてイグニスの車内は決して狭くはなく、やり方次第で荷室も意外と広く使うことできます。そしてSUVテイストゆえに最低地上高が180mmと高いため、ちょっとした段差などの存在をさほど気にすることなく、気楽に運転できます。つまり「小さいけど、日常づかいの乗用車としてはけっこう優秀」ということです。
国産車だけでなく輸入車まで視野に入れても、類似するキャラを備えた車はほとんど存在しないレア物であるイグニスの魅力と選び方について、今回は考えてみることにしましょう。
イグニスが販売開始となったのは2016年2月のこと。エクステリアデザインには、ところどころに歴代スズキ車の特徴がマニアックにちりばめられていて、大きく張り出した前後のフェンダーもかなり特徴的というか、個性的です。
車台はスズキの人気コンパクトSUVであるクロスビーが使用しているのと同じ、「HEARTECT(ハーテクト)」というプラットフォームの小型乗用車用。高剛性でありながら軽量な、新世代のプラットフォームです。
そこに搭載されるエンジンは「KC12」という最高出力91psの1.2L直列4気筒自然吸気で、発進時などに3.1psのモーターがアシストしてくれるマイルドハイブリッドシステム付き。2WD車のWLTCモード燃費は19.8km/Lです。トランスミッションはCVTのみとなっています。
このエンジンは特にスポーティなわけでも力強いわけでもありませんが、車両重量わずか880kgと軽量なイグニスを動かすうえでは十分な働きをしてくれるもの。またモーターのアシストがある関係で、アイドリングストップ状態から発進する際のエンジン再始動も、非常になめらかなものに感じられます。
室内は、一部前述したとおり全長3700mm×全幅1660mm(一部のグレードは1690mm)×全高1605mmと小ぶりなボディであるため、当然ながら広大ではありません。しかしさまざまな工夫により意外と広く感じられる作りになっていて、実際の数値も、1クラス上の人気コンパクトSUVトヨタ「ライズ」より室内長は25mm長かったりします(さすがに室内幅はライズより55mm狭いですが。とはいえ室内高はライズもイグニスも同一です)。
そして前席にスライド機構が付いているのはどの車でも当たり前ですが、イグニスは後席にも165mmのスライドを左右独立して行える機構が備わっています。これを活用すれば、Aセグメント車ですのであまり機会はないかと思いますが、後席にも割と余裕をもって知人などを座らせることができます。
しかしそれ以上に「165mmの後席スライド機構」が活躍するのは、お買い物などの荷物をラゲッジスペースに積む際でしょう。
イグニスの荷室容量は、後席を後端までスライドさせていると133Lでしかないのですが、前端までスライドさせれば258Lに、つまりトヨタ「ヤリスの荷室とほぼ同じ容量※」になるのです(※トヨタ ヤリス 2WD アジャスタブルデッキボード装着車のアジャスタブルデッキボード下段時)。
Aセグメントの小さな車の後席にしょっちゅう人を乗せるとは思えませんから、後席は常に前端までスライドさせておけば、スズキ イグニスの荷室は、車両サイズの割にはまあまあ広く使うことができます。そしてどうせ後席にはあまり人を乗せないのですから、いっそのこと後席をたたんでしまえば、荷室容量は415Lまで拡大されます。これは、1クラス上の人気コンパクトSUVであるトヨタ ライズの「396L※」より多いということです(※デッキボード下段時)。
イグニスにはいわゆる先進安全装備も付いていて、衝突被害軽減ブレーキや車線逸脱警報機能、誤発進抑制機能などからなる「スズキ セーフティ サポート」は全車標準装備(HYBRID MGの「スズキ セーフティ サポート非装着車」を除く)。
とはいえここはイグニスの正直やや弱い部分で、後退時の誤発進抑制機能と後退時のブレーキサポートは、残念ながら含まれていません。またアダプティブクルーズコントロールも、イグニスは全グレードで非採用となっています。
現在販売されているイグニスのグレードと価格は以下のとおりです。
・HYBRID MF・・・186万7800円(2WD)/200万4200円(4WD)
・HYBRID MV・・・175万8900円(2WD)/189万5300円(4WD)
・HYBRID MG・・・161万1500円(2WD)/174万7900円(4WD)
「全方位モニター用カメラパッケージ装着車」は、上記価格の5万5000円プラスになります(※HYBRID MGの場合のみ6万8200円プラス)。
最上級グレードである「HYBRID MF」はSUV風味をいっそう強めたビジュアルで、フェンダーアーチモールやサイドアンダーモール、ルーフレールなどを標準装備。またフェンダーアーチモールが付く関係で、このグレードのみ全幅1690mmとなっています。またHYBRID MFにはそのほかにも本革巻ステアリングホイールやレザー調シート表皮など、なかなかゴージャスな装備が与えられています。
中間グレードの「HYBRID MV」は程よくおおむねの装備が標準装着されているといったイメージで、ベーシックグレードの「HYBRID MG」はヘッドランプがLEDではなくハロゲンとなり、パドルシフトも付かないのですが、それより何より「リアシートのスライド機構が付いていない」という特徴(?)があります。
それゆえイグニスのおすすめグレードはHYBRID MG以外の2グレード、すなわちHYBRID MFか、もしくはHYBRID MVか――ということになるでしょう。よりSUV風味が強くて装備がややゴージャス寄りなHYBRID MFにするか、シンプルだが必要十分なHYBRID MVを選ぶかは「好みとご予算次第」とするほかありません。
イグニスのライバルとなる車種は、基本的には「不在」でしょう。
強いて言うならトヨタ「ライズ」がやや近いかもしれませんが、やはりサイズ感がずいぶん異なります。また同門の軽クロスオーバーであるスズキ「ハスラー」もある程度競合はしそうですが、やはりライズの場合とは逆の意味でサイズ感がかなり異なります。
ということで、「かなり小ぶりだけで軽ほど小さくはなく、しかし荷物は普通に積めて、走りも普通に良好で、なおかつデザインがちょっと個性的な車」を求めている人が――もしもいるのだとしたら、スズキ イグニスはほぼワン・アンド・オンリーで素敵な選択肢です。
ご検討中の人がいらっしゃるなら、その方には「イグニス、いい車ですよ!」と声をかけたいと思います。
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