2020年6月に、レクサスISの新型が世界初公開されたが、フルモデルチェンジではなくマイナーチェンジだった。
現行レクサスISの登場は2013年5月だから、約7年を経過しながらマイナーチェンジを行っている。
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改良の内容は、走行安定性と乗り心地の向上から安全装備の充実まで多岐にわたる。これほどの改良を施せば、今後も2~3年間は、現行型を造り続ける。
つまり約10年間はフルモデルチェンジしないわけだ。
近年、モデルチェンジではなく大規模マイナーチェンジで対応するクルマが大幅に増加している。なぜか? その裏には複数の“事情”がある。
文:渡辺陽一郎、写真:トヨタ、マツダ、三菱、レクサス、スズキ、ホンダ、中里慎一郎
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マツダ6とデリカD:5からみるマイナーチェンジの状況
1980年代までのフルモデルチェンジは、ほぼ4年に1度の周期で行うのが一般的だった。それが今は短くて6年、長ければ10年に達する。
マツダ6も現行型をアテンザの名称で発売したのは2012年だった。
2012年発売した3代目アテンザ(現マツダ6)
2016年には同じプラットフォームを使うCX-5が2代目の現行型にフルモデルチェンジしたが、アテンザはエンジンなどの改良にとどめた。
現行型マツダ6
そして2018年に、改めてマイナーチェンジを実施している。この内容はフルモデルチェンジ並みで、サスペンションの設定変更と併せてタイヤも新開発した。マイナーチェンジでタイヤを刷新するのは珍しい。
インパネの形状も変えるなど、見違えるほど新しくなった。従ってマツダ6も10年前後は造り続ける。
2019年のマイナーチェンジ前のデリカD:5
三菱デリカD:5は2007年に発売され、12年後の2019年に、2.2Lクリーンディーゼルターボ搭載車にフルモデルチェンジ並みのマイナーチェンジを実施した。
フロントマスクはLEDヘッドランプを縦方向に並べるダイナミックシールドに変更されている。インパネの形状も刷新した。
現行型デリカD:5
ディーゼルエンジンは構成部品の50%が新しくなり、動力性能と環境性能を高めた。
ボディやサスペンションも改善され、走行安定性、操舵感、乗り心地などを進化させている。安全装備も向上して運転支援機能を採用した。
なぜ最近は、設計の古いクルマに規模の大きなマイナーチェンジを実施するのか。
なぜマイナーチェンジを実行するのか
主な目的はコスト低減だ。ボディパネルまで刷新するフルモデルチェンジには、高額な費用を要するため、マイナーチェンジに抑える。
開発関連の費用を低減する背景には、複数の事情がある。
まず先行開発に伴う投資が増えたことだ。電動化技術を含めた環境性能の向上、安全装備や自動運転技術の開発には多額のコストが必要で、車両の開発費用は削らねばならない。
また、以前に比べると、日本車を販売する国と地域が増えて、車種数も増加した。
これらの理由から、4~6年周期のフルモデルチェンジは困難になり、発売から7年を経過した車種にマイナーチェンジを実施することも増えた。
その一方で、以前に比べるとフルモデルチェンジの必要性が薄れ、マイナーチェンジで済むようになった事情もある。
最も分かりやすいのは、最近はデザインの進化が穏やかになったことだ。
1980年代までは、デザインが急速に進化する過程にあったので、フルモデルチェンジを行うと外観も格段にカッコ良くなった。
ところが今は違う。デザインが安定成長期に入り、フォレスター、インプレッサ、CX-5、N-BOX、ハスラーなど、先代型と現行型を見比べても大きな違いはない。
初代ハスラー
2019年フルモデルチェンジした現行型ハスラー。初代と見比べても大きなデザイン変更はない。
軽自動車やミニバンは、日本向けのカテゴリーでもあるからフルモデルチェンジを行ってもボディを拡大できない。
車内の広さが重視されるため、ピラー(柱)とウインドウは寝かせられない。ウインドウの位置や形状も、視界に支障が生じないようにデザインすると、ほとんど変えられない。
そうなるとボディサイズや基本的なデザインは自ずから決まり、変更の自由度がある程度認められるのはフロントマスクだ。
そのためにアルファード&ヴェルファイアなどは、フルモデルチェンジしてもボディの基本デザインはあまり変わらないが、フロントマスクだけはマイナーチェンジを含めて頻繁に変えている。
特に現行アルファードでは、2018年1月のマイナーチェンジで実施したフロントマスクの変更がユーザーから歓迎された。
発売して3年後のマイナーチェンジでありながら、2018年の登録台数は前年の139%に達している。
現行型アルファード(2018年マイナーチェンジ)
そのために2017年までは、姉妹車のヴェルファイアがアルファードよりも多く売れたが、2018年以降は逆転した。この販売上乗せの効果も、フルモデルチェンジに匹敵する。
外観デザインと同様、車内の広さ、動力性能、走行安定性、乗り心地といった各種性能の進化が安定期に入ったことも、マイナーチェンジが増えた理由だ。
加速力などの動力性能は、最高出力や最大トルクを含めて、もはや必要とされる上限に達した。そのために進化の焦点が、燃費や排出ガスのクリーン性能に移っている。
走行安定性と乗り心地は今でも進化しているが、1980年代から2000年頃のように、フルモデルチェンジで格段に向上することはない。
当たり前の話だが、車内の広さ、走行性能、燃費などは無限に向上を続けることはできず、やがて安定期に入る。
以前よりもプラットフォームの解析能力が高まった
プラットフォームなどの解析能力が高まったことも、フルモデルチェンジの周期が伸びた理由だ。
以前に比べると、プラットフォームを刷新しなくても、効果的な補強や先進の溶接/接着技術によってボディ剛性やサスペンションの取り付け剛性を向上できるようになった。
2020年6月に発表された新型レクサスISのプラットフォームは変更なかった
開発者の多くは「使い慣れたプラットフォームでは、何をやると、どのような効果が得られるのか、ほとんどすべてを把握できている」と述べる。
逆に「新開発されたプラットフォームで造られた最初の車種では、使い切れていない面が残ることもある。そこをマイナーチェンジなどで改善していく」というコメントも聞かれる。
開発者の話を総合すると、プラットフォームは畑のようなものらしい。開墾した直後はねらった通りの成果が得られないが、いろいろな作物(車種)を育てる過程で改良を加えていくと、優れた商品が育つ土壌に熟成される。
そして何をやると、どのような効果が得られるのか、すべて把握できた状態に至るわけだ。そして今では、マイナーチェンジでも熟成を進めることが可能になった。
このほかフルモデルチェンジが売れ行きに与える影響が変化した事情もある。
昔はフルモデルチェンジすると売れ行きが増えて、その後は下がるが、マイナーチェンジで再び少し盛り返し、下がったところで改めてフルモデルチェンジを行った。
しかし今は違う。販売ランキングの上位車種は、いつも顔ぶれが同じだ。軽自動車のN-BOX、タント、スペーシア。
小型車のアクア、ノート、フィット、シエンタなどは、発売から次期型にフルモデルチェンジされるまで、何年間も高い人気を安定して保つ。逆に不人気車は、発売直後から伸び悩む。
シエンタ
各メーカーのモデルチェンジの周期の見極め方はいかに?
フルモデルチェンジやプラットフォームを刷新する周期の見極め方は、メーカーによっても異なる。
ヴォクシー3姉妹のプラットフォーム周期は長い
例えばホンダステップワゴンは比較的短い期間でプラットフォームを改め、トヨタヴォクシー系3姉妹車は周期が長い。
ホンダの開発者は「ヴォクシー系3姉妹車のように好調に売れれば、ウチならフルモデルチェンジの度にプラットフォームを新開発できる。
しかしトヨタはそれを行わず、従来のプラットフォームを補強したり流用する」と述べた。
プラットフォーム開発も含めて、コストに対する見方はメーカーによって違う。ホンダは刷新しやすく、トヨタはハードルが高いようだ。
そして近年では、マイナーチェンジで可能なことが増えたものの、フルモデルチェンジしないとできないことも依然として残る。
フルモデルチェンジしないとホンダセンシングを装着できないという。(ホンダセンシングイメージ画像)
ホンダの開発者は「軽自動車の場合、ホンダセンシング(安全装備+運転支援機能)は、フルモデルチェンジを行わないと装着できない。
N-WGNもマイナーチェンジでは対応できず、現行型の登場まで待つ必要があった」と述べた。
フルモデルチェンジとマイナーチェンジを上手に使い分けることが、今後のクルマの健全な進化に繋がる。
特に昨今のようにフルモデルチェンジが難しくなると、マイナーチェンジを確実に行うことが大切だ。
他車のフルモデルチェンジで採用した先進装備を、時間を置かずに他車にもマイナーチェンジで採用することが求められる。このマイナーチェンジの活用は、マツダが上手に行っている。
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みんなのコメント
欧州車はモデルライフが長い代わりに年々熟成されるとか言って讃えていたマスコミや評論家が多かったような・・・。
指名買いの唯一無二は別に変えなくていい部分も多いからね。