歴史に残るかもしれない設計上の「失敗例」
クルマの設計というのは、非常に複雑な仕事であり、失敗も多い。数万点の部品を抱えながら、安全性、快適性、実用性、室内空間、求められる性能などを、すべて予算の範囲内で整えなければならないのだ。
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日々、自動車メーカーが非常に多くのクルマを正しく走らせていることに、もっと感謝すべきなのかもしれない。しかし、時には間違うこともある。そもそものアイディアが悪かったり、良いアイディアがうまくいかなかったり、短い流行に乗ったりしたためだろう。
ここでは、設計上で起きた「失敗例」を、クルマのアルファベット順に紹介する。メーカーの揚げ足を取りたいわけでは決してない。現在の自動車業界は、さまざまな失敗の上に成り立っている。記事の最後に、番外編として、いつの間にか業界全体に広まってしまった「欠陥」も紹介したい。
アルファ・ロメオ・ミト:パーキングライトの操作性
ライトの点灯は、通常、ワンアクションで済む。ボタンを押すか、トグルスイッチを回せばいい。しかし、アルファ・ロメオ・ミトの場合、パーキングライトを点けるにはトリップコンピューターを操作して7つ以上のボタンを押す必要があった。しかも停車中でなければできない。また、スイッチを切るのも、同じ作業の繰り返しである。
公正を期すために言っておくと、アルファ・ロメオと同じように、フィアットにも同じような奇妙なことが起こっていた。フィアットは数年後にこのシステムを放棄する良識があった。
アウディTT:高速安定性
1998年に発表された初代アウディTTは、そのデザインに誰もが驚かされた。しかし、高速走行中の事故が多発してしまい、その対応に追われることになる。
アウディはリコールに踏み切り、サスペンションの改良、リアスポイラーの装着、ハンドリングの改善を行い、高速走行時の操縦安定性を向上させた。
シボレー・コバルト:イグニッションスイッチ
初代コバルトのイグニッションスイッチは、なんと、人の手で回さなくても簡単に回転してしまう構造になっていた。その結果、エンジンが停止し、パワーステアリング、ブレーキアシスト、エアバッグが作動しなくなるなど、その問題性は語るべくもないだろう。
ゼネラルモーターズはこの問題への対応が遅れ、巨額の罰金、議会での公聴会、多くの裁判に発展した。この問題は、コバルトが特に売れたので「コバルト問題」として知られているが、関連性の深いシボレーHHR、ポンティアック・ソルスティス、サターン・アイオン、サターン・スカイでも同じことが起きていた。対象となるモデルは、全世界で約500万台が販売された。
クライスラーPTカブリオ:後席の乗降性
PTクルーザーのコンバーチブル仕様であるカブリオ。個性的なデザインが目を引くクルマだが、前席のシートベルトの位置が、後席へのアクセスを妨げている。
後席に乗り込もうとすると、ベルトを押し下げて乗り越えるか、ベルトを引き上げて下にもぐりこむしかない。また、ルーフをたたんだ状態でなければ、ボディサイドに片手をかけて乗り込むことはできない。
シトロエンC3プルリエル:ルーフレール
プルリエルとは、フランス語で「複数」を意味する言葉だ。シトロエンは、このC3の派生モデルがさまざまなボディスタイルを持っていることを強調するために、この言葉を使った。そのボディスタイルの1つがコンバーチブルである。フロントガラス上部からトランクリッドの上まで伸びているルーフレールを取り外すことで実現できる。
しかし、ルーフレールを車内に持ち込むスペースはなく、家に置いておくしか方法がない。その日一日、天気が良ければいいのだが、そうでなければ、車内がびしょびしょになってしまう。しかも、このクルマが発売された2003年は、天気予報の信頼性が今よりずっと低かったし、スマートフォンもない時代だった。
シトロエンXM:パーキングブレーキ
当時シトロエンで最大のモデルだったXMは、足踏み式パーキングブレーキを採用している。ブレーキ自体はよく効いたが、マニュアル・トランスミッションの場合、坂道発進の際に問題となった。左足でパーキングブレーキとクラッチペダルの両方を操作しなければならないのだが、当然ながらそんなことできるわけがない。
後続車にぶつからないようにするためには、左足でクラッチを操作し、右足でアクセルとブレーキを同時に踏まなければならない。はっきり言って、これは簡単なことではない。
フィアット500ツインエア:エンジン振動
フィアットの小さな875cc 2気筒エンジン「ツインエア」は、ただでさえラブリーな500に、さらにラブリーを加えている。しかし、気筒数の多いエンジンに比べてストロークの間隔が広く、振動が大きいという欠点があった。
発売から数年後、フィアットはデュアルマスフライホイールを装着し、振動をほとんど吸収することでこの問題を大幅に改善した。500だけでなく、ツインエアを搭載した他のモデル(アルファ・ロメオを含む)でも同様の対応が行われている。
フィアット・ムルティプラ:クランプルゾーンの欠如
ここでいうムルティプラとは、1955年から1969年にかけて生産された600をベースとする初代ムルティプラのことである。600は小さなクルマだったが、これを6人乗りとするために、シートを1列追加した。
パッケージングとしては非常に素晴らしい設計だ。しかし、ドライバーと助手席の前方には、正面衝突の際に守ってくれるものはほとんど何もない。通常、ボディ前部には衝撃を吸収するクランプルゾーンが設けられているものだ。もし自動車安全テストのユーロNCAPが当時あったなら、この点について厳しい指摘を受けたことだろう。
フィアット・パンダ100HP:バンピーな乗り心地
パンダ100HPのファンは、このクルマを素晴らしい小型ホットハッチとみなしている。確かに否定はできないのだが、ファンでない人たちは、ちょっとの段差でぴょんぴょん跳ねる乗り心地にすぐに気分を悪くしてしまうだろう。
サスペンションは標準仕様のパンダからアップグレードしているが、フィアットはよほど滑らかな道でしかテストしていないようだ。騒音が大きいことや、腕が長く脚が短いドライバーに最適なドライビングポジションなど、このクルマを批判するのは簡単なことだった。
フォード・モデルY:ワイパー
欧州市場向けに開発された最初のフォード車であるモデルY(エイト)のワイパーは、複雑な事情でエンジン内部の状態と密接に関係している。エンジンを回せば回すほど、ワイパーの動きは遅くなる。雨の日の登り坂などでは役に立たなかった。
公平を期して言うと、モデルYは1935年10月にわずか100ポンドで販売されたが、これは定速電動ワイパーを装着していれば不可能な価格であろう。英国の大衆車を底辺から支えたクルマと言える。しかし、当時のある評論家は、「大雨のとき、これが101ポンドだったらと思ったことが何度もある」と書いている。
リンカーンMKC:スタート/ストップボタンの位置
リンカーンのクロスオーバー車、MKCには、エンジンのオン・オフを切り替えるボタンと、スポーツモードを作動させるボタンが1つずつあった。ここまでは何も問題はない。お察しの通り、2つのボタンは非常に近い場所に配置されていたのだ。スポーツモードを選択しようとすると、走行中に誤ってエンジンを切ってしまう可能性があった。言うまでもなく大問題である。
フォード(リンカーンは高級車ブランド)はリコールを発令し、スタート/ストップボタンの位置を変更した。幸いなことに、シボレー・コバルトのイグニッションスイッチ騒動のような結果を招くことはなかった。
マトラ・ランチョ:サイドウインドウ
ランチョのごく初期のモデルは、スライド式のサイドウインドウにキャッチが付いていなかったため、セキュリティ上の重大なリスクがあった。ある評論家は、「両手にタフィーアップルを持った4歳の子供でも、5秒以内に車内に侵入できるだろう」と評している。
その後、ウィンドウキャッチが仕様に追加された。
マツダRX-8:リアドア
RX-8は、その優れたハンドリングが評価される一方で、経済性の低さや低・中速域のトルク不足など、コンパクト(1.3L)ながら大食いのロータリーエンジンの評判はまちまちだ。しかし、車体設計における不都合を指摘する人はほとんどいない。
RX-8のドアは4枚で、リアドアは後ろ向きに開く。いわゆる「観音開き」である。後席への乗降性とクーペのフォルムを両立するアイデアで、エンジンと並ぶRX-8の特徴となっている。しかし、前が開いていないと後ろが開かないので、後席から降りるときは前席の乗員にドアを開けてもらう必要がある。
また、閉めるときに順番を間違えると、リアドアでボディを傷つけてしまう恐れがある。これは新型のMX-30でも同様である。
メルセデス・ベンツAクラス:魔のエルクテスト
1997年に発売されて間もない初代Aクラスは、スウェーデンの自動車雑誌『Teknikens Varld』誌が実施する安全性テストの結果、劣悪なイメージを与えられてしまう。このテストは、走行中、道路に飛び出してきたヘラジカなどの大型動物を避けるというシチュエーションで、「エルクテスト」と呼ばれるもの。繰り返しハンドルを大きく切ったAクラスは、泥酔した同僚のように片輪を浮かせ、大きく下腹を見せるという失態を演じた。
その結果、メルセデスが受けた評判は最悪のものとなった。同社は、重心の高いクルマには不向きだったサスペンションを調整し、エレクトロニック・スタビリティ・コントロール(ESC)を追加することで対応。こうした改良は後期モデルだけでなく、販売済みの1万7000台にもリコールで適用された。
ミニ・クラブマン:リアドアの位置
クラブマンは、BMW時代に突入したミニのハッチバックをより大きく、より広くしたモデルとして考案された。現行モデルはドアが4枚だが、初代(R55)は3枚だった。欧米仕様で助手席側にあたる車体右側に、「クラブドア」と呼ばれる小さなリアドアがついている。
先述のRX-8のように観音開きスタイルを採用(片側にだけ)したわけで、ドイツや米国などの左ハンドル市場においては、歩道側にドアが開くため比較的乗り降りがしやすい。しかし、生まれ故郷である英国は、日本と同様に右ハンドル市場である。
ハンドルの位置に合わせ、クラブドアを左側に配置するということも技術的に可能ではあったが、燃料タンクの位置を変更する必要があるため、ミニは嫌がった。
日産アルメーラ2.2D:騒音
日産が海外で販売する2代目アルメーラには、モデルによって2.2Lターボディーゼルが搭載されていた。そこそこのパフォーマンスを発揮するエンジンだが、乗員や周囲の歩行者にとっては信じられないほどうるさかった。
高速道路では、風切り音や路面からの騒音で目立たなくなるため、それほどひどくはない。しかし、一般道では、2000年に発売されたクルマとはいえ、到底受け入れられるものではなかった。
日産ジューク:ロールセンター
初代ジュークに関するプレス発表の中で、日産はロールセンターの高さを「コーナリング時のボディロールを減らすために可能な限り低くした」と述べている。しかし、一部のジャーナリストが指摘したように、実際にはロールセンターが低くなるにつれてボディのロールは大きくなるのだ。
ロールセンターの詳細を語り始めると紙面が足りなくなってしまうので割愛するが、「メトロノームの振り子の支点」をイメージするとわかりやすいだろう。これは、重りの位置(重心)とは異なる。ボディがロールする際に中心点となるものだ。
これはプレス側の誤解という解釈もできるが、ジュークは確かにボディロールが目立つ。特に190psを発揮する1.6Lターボエンジンを搭載した16GT FOURの場合だと、ロールを体感するには十分すぎるほど速い。
NSU Ro80:信頼性の低さ
Ro80は魅力的かつ革新的なクルマであったが、2つの大きな問題があった。いずれも発展途上のロータリーエンジンに起因するものである。第一に、とてつもなく燃費が悪く、1973年の燃料価格高騰の際にはイメージが急落してしまった。第二に、ローターが破損し、エンジン停止に至るというものがあった。
信頼性の問題は後に解決されたが、Ro80の評判が回復することはなかった。NSUの評判も同じ。Ro80は欧州カー・オブ・ザ・イヤーを受賞(1968年)するなど、発売時には大いに注目を集めたが、やがて多額の保証請求によって経営危機に陥り、NSUはフォルクスワーゲンの傘下に入ることになった。NSUの名は1977年に途絶えている。
ポルシェ911:エンジンの位置
リアアクスルの後ろにエンジンを搭載すると、安定性に疑問符が付いてくる。初期のポルシェ(1964年に登場した初代911まで)では、リアエンジン・後輪駆動方式は低出力の小型車において十分な働きを見せてくれる。
しかし、出力が上がるにつれ(特にターボチャージャーが追加されると)、エンジンの搭載位置が悪いのではないかという評判を得るようになった。ポルシェは近年、911をミドシップ化することなく、この問題を最小限に抑えることに成功。伝統的なエンスージアストを心から喜ばせている。
プロトン・サヴィ:うるさい警告音
パーキングセンサーを搭載しているクルマは、障害物に近づくと警告音が鳴る。音の鳴らし方や音色は、ブランドやモデルによって異なるが、プロトン・サヴィほどうるさいクルマも珍しいかもしれない。
サヴィは、三菱とも関係が深いマレーシアの自動車メーカー、プロトンが製造していたBセグメントのハッチバック車。搭載されたリアパーキングセンサーは、障害物の接近を検知すると、「ギャーギャー」と耳障りな音を立てて警告する。
これは、設計上の欠陥というほどのものではないし、気にしないという人も多いかもしれない。だが、過剰な警告音は人間を不快にさせる。他メーカーの電動テールゲートやスライドドア装備車でも、開閉時に甲高い音が鳴り続けるものがある。決して深刻なものではないが、メーカーにとって簡単に修正できるシステムであることは間違いないだろう。
ルノー・アヴァンタイム:凝ってるけど不器用なドア
アヴァンタイムは、クーペというかSUVというか、分類の難しいクルマだが、とにかくドアが巨大で重い。もし通常のヒンジ式だったら、駐車場で隣のクルマにぶつけないように開けるのはほとんど不可能だろう。幸い、ルノーはダブルヒンジという珍しい機構を採用してくれた。
なかなか凝った仕組みで面白いのだが、乗り降りしやすいかと言うと、そうでもない。長さ1.4mもあるドアはちょっとしか開かないので、前席に座るときはクルマの後ろの方から乗り込まなければいけない。もっといい解決策があったはずだ。
ルノー・クリオV6:重量配分
ラグナに搭載されていた3.0L V6エンジンを、ハッチバックのボディにミドマウントしたクリオV6。十分に速く、とてもエキサイティングな走りを見せる名車だ。しかし、少しばかり刺激的すぎる。ただでさえショートホイールベースなのに、後輪の前に背が高くて重い6気筒エンジンを搭載することは、安定性を確保する最善の方法とは言えない。
初期のクリオV6では、運転に熱中して景色が一回転してしまうという話もよく聞かれた。2代目も、目立った改善は見られなかった。英国でのプレス発表会に出席したジャーナリストたちは、テストコースの直線では好きなだけ速く走れたが、コーナーを速く回ることはルノーに禁じられた。
フォルクスワーゲン・ゴルフR32:重量配分
R32は、重い3.2L V6エンジンをフロントアクスルのほぼ前方に搭載している。直線では速いが、コーナーや段差を乗り越える際には不利だった。
少なくとも平坦な道では、後継モデルの方がはるかに優れている。しかし、狭い間隔でカーブが続く山道のようなコースでは、まだまだ不器用だ。フォルクスワーゲンは結局、R32そのものを、より軽量な2.0Lターボエンジンを搭載したゴルフRに置き換えることで、設計上の欠陥を取り除いたのである。R32の素晴らしいサウンドは過去のものとなったが、走りは比べものにならないほど良くなった。
さて、ここからは特定のクルマではなく、最近業界で広がっている「欠陥」を取り上げたい。
無理のある7人乗り仕様
5人乗りのクルマに、子供用の座席を追加して7人乗りにする例が多い。3列シート車をメインに開発されたクルマならまだしも、前者の場合、最後席はテールゲートに近い位置に設置されることが一般的だ。もし後方から追突された場合、乗員の安全性は万全とは言い難い。
このような事故に対する安全機能は、おおむね予防技術とむち打ち保護に限定されている。もしユーロNCAPや米国道路安全保険協会(IIHS)が後面衝突保護性能のテストを導入したら、欧米をはじめとする自動車メーカーはどのような反応を示すだろうか?
タッチスクリーン
タブレット端末やスマートフォンの普及に伴い、クルマにもタッチスクリーンの搭載を望む声が高まっているようだ。これは、マーケッターが間違った質問をしているためかもしれない。タッチスクリーンの欠点はよく知られている。
走行中の車内では操作しづらく、ボタンやスイッチよりも注意が必要となる。さらに、最近ではそのグラフィックが非常に魅力的で、前方の道路に集中すべき時に、グラフィックに気を取られてしまいがちだ。
将来、もしかしたらこの流れは逆転し、タッチスクリーンは21世紀初頭の「危険な失敗例」とみなされるかもしれない。マツダは現在、タッチスクリーンの流行に抵抗している主要メーカーの1つだ。フランスのDSでも、デザイナーが将来的に大型のタッチスクリーンを廃止しようとしている。
後方視認性
自動車デザイナーは芸術家だ。当然、自分の作品をできるだけ魅力的に見せたいと思うもの。しかし、リアやサイドの窓を小さくしすぎて、運転席から見えなくなるのはいただけない。
後方の視認性が悪くなることについて、あるデザイナーは、「そのためにパーキングセンサーがあるのです」と答えた。でも、ガラスは何のためにあるのだろう?
ガルウィング/シザーズドア
ルーフから立ち上がるように開くドアは面白い。夢のような、ワクワクするデザインだ。しかし、このデザインには明らかな問題がある。もし、事故でクルマが逆さまにひっくり返ってしまったら、どうやって外に出ればいいのか。さらに言えば、川に落ちたり、火事になったりしたらどうするのだろう。
シザードアを多用するあるメーカーにこの点を尋ねたことがあるが、「そんなケースは聞いたことがない」との答えが返ってきた。そんなケースが起こらないことを祈るばかりである。
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みんなのコメント
早くそうなって欲しいものです。切に物理ボタンの復活を願います。