マスコミの論調に惑わされるな。独カルテル問題を冷静に読め
掲載 更新 carview! 文:清水 和夫
掲載 更新 carview! 文:清水 和夫
ドイツで再燃しているディーゼル問題。断片的な報道を寄せ集めても全貌が見えてこない。今までの知見と最新の取材を元に今回の問題を整理してみよう。ことの発端はドイツのシュピーゲル誌が報じたカルテル違反の疑惑で、90年代からドイツメーカーがディーゼルの排ガス装置など様々な部品の価格を調整したり、ディーゼル車にとって厳しくなる排ガス規制への対応技術を水面下で調整し、それがVWのディーゼル問題へと発展したのではないかというものだ。
しかし、ドイツの連邦カルテル庁(公正取引委員会)は業界の談合を厳しく禁じている。ドイツメーカーに聞くと、メーカー同士が集まる会議では必ず弁護士が同席し、議論が一線を超えないように睨みを利かせているから、価格を調整するカルテルは考えにくいという。尿素SCRのタンクを小さくしたところでコストが下がるわけでもない。こうした理由から私は、シュピーゲル誌が報じたカルテル違反の記事にはあまり根拠がないと感じている。しかし、ドイツメーカーのカルテル疑惑とディーゼル不正問題が結びつき、火種は見事に再燃してしまったのだ。
今回の疑惑に敏感に反応したのはダイムラーAGだ。チェッツェ会長はすぐに300万台のディーゼル車の自主的な回収を発表した。対象はユーロ5で市販されてきたディーゼル車300万台。ECUのアップデートでクリーン化を実践する。
ここで抑えておくべきファクトは“あくまでのメルセデスのサービスキャンペーン(自主的な回収)であって、違反や不正を受けたリコールではない”こと。日欧は政府が許認可権を持っているので、「サービスキャンペーン」「自主回収」「リコール」の3段階に区別され(後者ほど重い)、メーカーと政府が協議した上で発令される。したがって、リコールとなったVWの不正ディーゼルとは中身が異なっているのだ。
日本で市販されてきたディーゼル車については当初は対象外としていたが、その後、日韓で市販したディーゼル車も対象となった。だが、日本は「ユーロ5」よりも厳しい「ポスト新長期規制」が(輸入車では2009年より)適用されていたから、自主回収についてはメルセデス・ベンツの日本法人が日本政府と協議して決めるべき問題だった。メルセデス・ベンツ日本の対応は、その点では後手に回ってしまった。
また、ドイツの自動車産業全体に及ぶ危機感からアレクサンダー・ドブリント連邦交通デジタルインフラ大臣は、各メーカーの首脳陣を集めて協議した結果、約500万台の自主回収を行い既存のディーゼル車の排ガスをさらにクリーン化することを決定した。ドブリント大臣は欧州各都市や各国で起きているディーゼル車の排除を緩和するために、あらゆる努力を怠らないと述べている。
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