世界的なEVシフトの中に潜むもっとも危険なこと【後編】
掲載 更新 carview! 文:岡崎 五朗
掲載 更新 carview! 文:岡崎 五朗
前回は、なぜEVが注目されているのか、そしてEVがどれほどエコなのかについて書いた。少なくとも日本ではEVがCO2削減に一定の貢献をすることは間違いないし、新型リーフやモデル3など、今後EVの選択肢が増えていくことも確実だ。しかし、EVが急速に増えれば、充電器の充電待ちが増えることは避けられない。また、EVのバッテリーを満たすのに必要とされる電力をどう賄うかという問題もある。
リーフのバッテリーは24kwhと30kwhの2種類。次期モデルのバッテリーはさらに大型化する(40kwh?)見込みだ。1kwhとは1kw=1000ワットの電気製品を1時間使い続けたときの電力消費量のことで、一般的な家庭の消費電力量は1日あたり10kwh程度。つまり、リーフのバッテリーを空の状態から満充電するには、一般家庭が使う電力の2~4日分が必要になるということだ。
もっとも、いまの日本の電力需給をみると、次期型リーフがバカ売れしたところで心配はない。この先数十万台規模になっても大丈夫だろう。しかし、もしEVが数百万台に達するような事態になると、夏場や冬場の電力ピーク時の電力供給量が追いつかなくなる可能性が出てくる。EVを自宅で充電をするのは基本的に夜間だし、すべてのEVが同時に充電することはまずあり得ないが、それでも大量のEVが同時に充電をしたら大量の電力が必要になる。電力会社に、どんなことがあっても電力不足による大停電が起こらないよう求めるとするなら、発電所や送電設備の増設は不可欠だ。
もちろん、自宅への太陽光パネルの設置や、住宅とEV、あるいは住宅とバッテリーを組み合わせたスマートハウスを用いれば電力ピーク問題はある程度避けられる。その先には、地域全体の電力マネージメントを最適化するスマートグリッド構想も控えている。それが実現されれば電力供給問題は大幅に改善されるだろう。しかし、それらはあくまで未来に展開されるであろう理想論であって、すぐに普及するものではない。
現実的にはEVが増えた分だけ発電能力の強化が求められるし、ましてや供給が不安定な太陽光発電や風力発電のウェイトを高めようと思ったら、手厚いバックアップ体制を整えておくことが必要で、それには莫大なコストがかかる。事実、脱原発と再生可能エネルギーによる発電増加を掲げたドイツでは電気料金の高騰が大問題になっている。かといって、急場凌ぎで火力発電、とくに入手がもっとも簡単でコストも安い石炭発電を増やすようではCO2削減という本来の意味がなくなってしまう。この矛盾を解決するには、僕自身は否定派だが、原子力発電を増やす必要があるかもしれないし、水力発電を増やすべくダムを増やす必要があるかもしれない。いま我々が問われているのは、本当にそれでいいのですか? ということだ。
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