VIPの御用達 どんなクルマが選ばれる?
英国のエリザベス女王の即位70周年を祝う式典「プラチナ・ジュビリー」が、6月2日に開催された。その後4日間にわたって祝日となり、バッキンガム宮殿の前には数千人が集まるなど祝賀ムードが広がった。
【画像】世界の要人が愛用するVIPカー【ロシア製リムジンやシトロエンDSなどを写真で見る】 全100枚
エリザベス女王は、亡き夫フィリップ殿下(写真)とともに、この数十年の間にさまざまな高級車を所有し、旅をしてきた。世界には、そのようなVIPが大勢いる。
ここでは、世界各地の「リーダー」が使用するクルマを年代順に紹介したい。巨大なもの、風格あるもの、力強いもの、そして悪名高いものなど16台を取り上げる。
シトロエンDS(1955年)
シトロエンDSほど、シャルル・ドゴール将軍に似合うクルマはないだろう。その特異なスタイルはドゴールと相性がよく、彼は指導者時代にこのフランス製サルーンを何台も使用した。
特に、1962年にテロの標的となり、パリ郊外で車列が襲撃された際には、DSのハイドロニューマチック・サスペンションを高く評価している。リアタイヤに銃弾を受け、パンクをしながらも無事に走り去り、大統領を守りきったのだ。
ドゴール以降、フランスの指導者たちはプジョーやルノーを愛用してきた。しかし、現大統領は「プレジデンシャルDS7クロスバック」という豪勢な名前のクルマを使用している。DSは大統領専用車の座に返り咲いたのだ。
ロールス・ロイス・ファントムV(1959年)
ロールス・ロイスが無限に近いオプションリストを用意しているおかげで、ファントムVは世界中の大富豪にとって「白紙のキャンバス」のような状態となっている。
英国王室が比較的控えめなファントムを所有する一方で、ルーマニアのニコラエ・チャウシェスク元大統領のように、ファントムにすべてを注ぎ込むオーナーもいた。共産主義時代のルーマニアを24年にわたって支配してきたチャウシェスクは、モスクワの指導部からこのような派手なリムジンを返却するように言われ、泣く泣く手放すことに。彼のファントムは個人に売却された。
最も有名なファントムVのオーナーは、国家元首ではなく、音楽界のリーダーであるビートルズのジョン・レノンだろう。彼のファントムV(写真)は、サイケデリックなペイントが特徴的だった。
516台しか製造されていないファントムVに乗ることができた幸運な人々は、3650mmの長大なホイールベースに助けられ、比類ない乗り心地と快適性を楽しんだことだろう。
新開発の6.2L V8エンジンで動力をまかない、4速ATが標準装備され、最高速度は162km/hに達する。オプションの追加重量にもよるが、0-97km/h加速を13.8秒で走破することができた。
リンカーン・コンチネンタル(1961年)
リンカーン・コンチネンタルは、1963年11月、ジョン・F・ケネディ大統領が乗っていたところを暗殺されたことで、悪い意味で有名になってしまった。この事件をきっかけに、以降の大統領専用車はオープンカーではなくなり、また防弾対策が施されるようになった。
ケネディ大統領が乗っていたオープントップのコンチネンタルも、事件後すぐに固定ルーフに改造された。現在、ミシガン州ディアボーンのヘンリー・フォード博物館(写真)に保管されている。
リンカーンとホワイトハウスのつながりは、1939年、フランクリン・D・ルーズベルトが発注した「サンシャイン・スペシャル」までさかのぼる。1961年には、大統領向けに2台のコンチネンタルが納車され、1台はヘス・アンド・アイゼンハート社によってオープントップに改造された。ルーフの形状は数種類あり、風雨を避けつつも、外から乗員の顔がよく見えるようになっている。
メルセデス・ベンツ600プルマン(1964年)
メルセデスは600を誰にでも喜んで販売したが、600プルマンは単なる富裕層ではなく、政府予算でお腹を満たす人々をターゲットにしたものだ。ロングホイールベースで全長6240mmのプルマンは、4人乗りから9人乗りまで、随行者の人数に合わせてカスタムすることが可能だった。
元オーナーにはローマ法王、ケニア国王、サダム・フセイン、イディ・アミン、ロバート・ムガベなど、あまり好ましくない人物もいる。
600プルマンは複雑なエアサスペンションを装備しながら、最高出力250psの6.3L V8エンジンを搭載し、最高速度204km/hに達する。多くの政府要人に好まれ、1964年から1981年までに2677台が製造された。
ローバーP5B(1967年)
ローバーP5Bは、その控えめなルックスから、英国政府の高官にとって理想的な移動手段である。彼らを甘やかすには十分豪華で、追っ手の報道陣を出し抜く速さを持ちながら、支出面でも有権者を怒らせない目立たないクルマだった。それでも、後のP5Bは防弾ガラスやその他のセキュリティキットで高価にアップデートされた。
3.5L V8エンジンを搭載したP5Bは、ハロルド・ウィルソンをはじめとする首相たちの間で根強い人気を誇っていた。1973年に生産が終了すると、予備のために数台が購入されている。マーガレット・サッチャーは1979年の選挙で勝利した後、このP5Bに乗って首相官邸に入った。ジャガーXJシリーズ2の後席が狭かったため、彼女は1980年代までP5Bを愛用し続けた。
デイムラーDS420(1968年)
DS420は、他のどのクルマよりも多くの国家元首に納車されている。当初から量産型リムジンとして製造されたこのDS420は、ジャガー420Gをベースに、セダン、ランドーレット(後部座席のみがオープントップになっているもの)、または独自のボディを搭載できるシャシーとして販売された。
1968年にデンマーク国王がプリプロダクションモデルを試乗し、王室の移動手段として適していると判断された。DS420は24年間にわたって生産が続けられ、エリザベス女王も数台を購入し、しばしば外国訪問の際に空輸している。
シトロエンCX(1974年)
英国のローバーP5Bと同様、シトロエンCXはフランスの国家元首のお気に入りであった。1976年に発売されたプレステージモデルでは、後席のレッグルームが狭いという苦情に対応するため、ホイールベースを25cm延長している。また、ジスカール・デスタン大統領から指摘を受けたヘッドクリアランスも改善された。
ジャック・シラク大統領はCXの大ファンで、後継のXMが登場してからもずっと使い続けていた。その滑らかな乗り心地に惚れ込み、1995年の大統領就任後もCXを愛用している。このほか、スペイン国王フアン・カルロス1世やモナコ公国レーニエ3世なども所有した。
マセラティ・クアトロポルテ(1979年)
イタリアの大統領は、ゴージャスなマセラティ・クアトロポルテを公式に乗り回すことができる。1979年にサンドロ・ペルティーニ大統領に献上され、1982年に大統領用のパイプホルダーを備えた装甲仕様にアップグレードされるまで、広く使用された。
1986年には、キャビンをさらに豪華にし、電話や折りたたみテーブルをリアドアに組み込んだ「ロイヤル」が登場。わずか51台しか製造されていない。
ペルティーニ大統領は、フェラーリの工場を公式訪問した際、エンツォ・フェラーリが出迎えてくれると思っていたが、それは叶わなかった。フェラーリがライバルであるマセラティの存在を認めることができなかったからだ。エンツォ・フェラーリは1988年に死去。1993年、マセラティはフェラーリとともにフィアット傘下に入る。
写真は、大統領府で使用される最新モデルである。
クイーンズ・ステート・ベントレー(2002年)
自分のためにわざわざハンドメイドされたクルマがあれば、自分が世界のエリートであると認識できるだろう。2002年、エリザベス女王は、ゴールデン・ジュビリー(即位50周年)を記念してベントレーの大型リムジンを贈られた。ベントレー・アルナージをベースに、コーチビルド部門であるマリナーによって製作されたオーダーメイドである。
ボディは標準のアルナージより830mm延長され、セキュリティキットによる重量増加を克服するために最高出力400psの6.75L V8エンジンが搭載されている。ベントレーは、実物大のモデルを使用して女王のために完璧なシートポジションを作り上げたほか、90度まで開くリアドアにより簡単に乗り降りできるようにした。
また、パノラミックガラスルーフは、プライバシーを確保するために不透明なパネルに交換することができる。予備と合わせて2台作られた。
マイバッハ62(2002年)
メルセデスがマイバッハブランドを復活させるという試みは、思い通りにいかなかったかもしれないが、それでも複数の国家指導者がマイバッハ62を専用車として選んだ。ヨルダン国王やタイ国王といった著名人は、今でも移動手段として使用している。
しかし、欧州の国家元首や世界中の王族を顧客としていたが、販売目標台数を達成することはなかった。62は2012年に生産終了したが、現在、メルセデスはSクラスとGLSのマイバッハモデルを販売している。
トヨタ・センチュリーロイヤル(2006年)
マイバッハ62とほぼ同じ大きさで、ロールス・ロイス・ファントムより重い。わずか4台しか製造されず、5台目はコストの関係でキャンセルされたことから、その希少性は明白であろう。
最初の1台は5250万円だったが、後の2台は防弾仕様のため9450万円となっている。1から5までのナンバーが付けられている(皇1~皇5)が、縁起が悪いとされる4の数字はない。
御料車、つまり皇室のクルマとして、御影石のサイドステップ、布張りのシート、和紙のヘッドライナーなど、驚くべき水準で仕上げられている。ボンネットの下には、最高出力280psの5.0L V12エンジンが搭載されている。
ジャガーXJ(2010年)
ジャガーのXJは、1980年代初頭から英国首相の移動手段として活躍してきた歴史があるが、最も人気があるのは2010年に登場したX351世代だ。1台30万ポンド(約4850万円)前後で、いずれもスーパーチャージャー付き5.0L V8エンジン搭載のセンチネルモデルがベースになっている。
その特徴は、防弾ガラス、防爆シールド、車内酸素供給システム、そして回避技術の訓練を受けたドライバーなど、安全性を高めるためのアップグレードがふんだんに施されていることだ。
X351を最初に堪能したのはデビッド・キャメロン首相で、歴代の英国首相はすべてジャガーXJに乗り込んできた。しかし、ある1台はマンチェスターでの公務中に縁石に乗り上げ、破損している。
XJは2019年に生産を終了し、後継車種の開発も中止されてしまったため、今後はレンジローバーがこの役割を引き継ぐのではないかと思われる。
ベントレー・ミュルザンヌ(2010年)
巨大なリムジンと比べると、ベントレー・ミュルザンヌも目立たない存在になる。それもあって、英国をはじめ多くの国々の王族がミュルザンヌを好む。エリザベス女王はミュルザンヌを早くから愛用し、バルモラル・グリーンのカラーリングを施した1台を所有していた。チャールズ皇太子も愛用したほか、妹のアン王女もチャリティ活動のための移動オフィスとして使用している。
ミュルザンヌは、広い後部座席、静かな車内、しなやかな乗り心地を誇る、ロイヤルリムジンとして理想的なクルマだ。また、最高出力512psの6.75L V8ツインターボのおかげで、トラブルから脱出するのに十分な速さを備えている。0-97km/h加速5.7秒と、ホイールベースを延長した2740kgのクルマとしては驚異的な速さである。
ホンチーL5(2013年)
ホンチーL5に乗っている人は、中国共産党の上級幹部である可能性が高い。58万ポンド(約9300万円)と中国で最も高価なクルマであり、それだけ支払う余裕があったとしても、手に入れるのは簡単なことではない。
中国共産党総書記である習近平は、ホンチーL5の後部座席に座って各地を回る。6.0L V12エンジンから408psを発生し、3150kgの車重の割にはまずまずのパフォーマンスを発揮する。
プレジデント・ステート・カー(2018年)
1939年にフランクリン・D・ルーズベルトがオーダーメイドのクルマを発注して以来、合衆国大統領は「プレジデント・ステート・カー(Presidential State Car)」に乗り続けてきた。その最新作が、2018年にホワイトハウスに納入されたキャデラックの「ビースト」で、その費用は約150万ドル(2億円)とされている。
ベースとなっているのはキャデラックの既存モデルではなく、独自のフレームを使用していると考えられているが、その詳細は非公表である。
ビーストについてわかっているのは、非常に重装甲で、9.1トンもの重量があるということだ。外部にキーロックはなく、銃弾、爆弾、化学ガスによる攻撃にも耐えられる。その他、実に多くの秘密が隠されており、先代モデルはその設計や技術が一切漏れないようにシークレットサービスによって破壊された。
アウルス・セナートL700(2018年)
アウルス・セナートを作らせたのは、他でもないロシア大統領ウラジーミル・プーチンである。彼は他社を圧倒する高級リムジンを作ることをアウルスに課し、L700が誕生した。市販モデルとしては、最高出力860psの6.6L V12エンジン、最高出力598psの4.4L V8エンジン、そしてハイブリッドを搭載した仕様が用意されている。
アウルスによる新しい国産リムジンであると同時に、プーチン大統領の発案によるものでもある。運営は、「NAMI」というキャッチーな名前の中央自動車エンジン科学研究所が行っており、ポルシェの意見も取り入れている。
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