メーカーの経営危機が時代に名を残すクルマを生み出させた
自動車メーカーは、栄枯盛衰を繰り返している。10年以上好調を持続する難しさがある。それは時代の進展によって価値観が変化するからだろう。
市場を切り開いた偉大なクルマが敗北! 「後出しじゃんけん」でバカ売れしたクルマ4選
1)ホンダ・オデッセイ
1990年のバブル経済期、ホンダは倒産の危機にあったといわれる。社員でさえ、当時は三菱自動車工業に合併されるかもしれないとの噂もあったと聞く。そこから一転ホンダが一躍表舞台に踊りだすきっかけとなったのは、オデッセイの誕生だ。それに続いて、クリエイティブムーバーと名付けられた、ステップワゴン、CR-V、S-MXが新しく登場した。国内にミニバンがはやり、それまでワンボックスカーを販売してきた各社からもミニバンが登場することになる。
ホンダが経営危機に陥った要因は、RV(レクリエーショナル・ヴィークル)やワンボックスカーを持たなかったためだ。理由は、それらが商用トラックや商用バンをもとにしていたのに対し、ホンダは乗用車しか持たなかったからである。そしてアコードやシビックといった乗用車をもとにしたクリエイティブムーバーを創出した。それらの車種は、今日もホンダを象徴する商品であり続け、S-MXはなくなったが、フリードがその代替といえなくもない。
2)スバル・レガシィ
スバルは、技術的に評判の高かったスバル1000が、トヨタ・カローラや日産サニーなどに比べ販売台数を十分に得られなかったことから、次のレオーネは従来の部品を活用する手法で生み出された。しかし、販売はやはり思わしくなかったのである。そして誕生するのが、1989年のレガシィだ。
レガシィも、特別な技術を搭載したわけではなかったが、安心して運転できる走行性能を磨くことに注力した。その基本となったのが、車体剛性である。そして、たとえサスペンションは従来からのストラット式を用いても、車体剛性が高ければ適切なロードホールディングが得られ、走行性能が格段に高まることをレガシィは示したのである。一方車体剛性について他社は、その時代はまだそれほど意識を高めていなかった。
その後のメーカーの方向性を決定したクルマも
3)マツダ・アテンザ
マツダも、ひところ精彩を欠いたことがあった。それまでのカペラやファミリアといった乗用車の売れ行きが停滞したからだ。そこに登場したのが、2002年のアテンザである。また、Zoom-Zoomという標語を通じ、マツダ車はどれも運転を楽しめる乗用車であることを明らかにした。これを後押ししたのは、1989年に誕生したロードスターに対する高い評判だろう。何か高度な技術が搭載されているわけではなかったが、小型・軽量で調和の取れたクルマは運転が楽しいことを、ロードスターは明らかにした。
アテンザは、エンジンこそ新規開発であったが、何か飛び道具のような技術を搭載したわけではない。しかし、技術者の英知を結集し、消費者が便利に思える機能を充実させ、魅力的な商品にした。またアテンザのプラットフォームが、フォードグループ内で供用される計画もあり、渾身の開発となった。そして、Zoom-Zoomの合言葉を、社内で皆が共有することで、マツダ車の魅力がすべての車種で統一的に広がった。
4)三菱i-MiEV
三菱自動車工業が、2009年に電気自動車(EV)のi-MiEVを発売したことも、その後の行方に大きな影響を及ぼした。軽EVのモーターやバッテリーを活用することで、SUVのアウトランダーPHEVが誕生するのである。そしてエクリプスクロスPHEVへもつながる。
軽自動車用のEV部品で、3ナンバー車のSUVを構成するようなことは、エンジンでは無理だ。こうして、三菱自は経営計画のなかで、電動化とSUVを柱として再起をはかっているのである。
メーカーを問わず、企業の危機を救った各車両は、必ずしも先進技術を搭載したわけではない。しかし、消費者にとって何が魅力であるのか、またクルマの本質は何か、未来がどう拓かれるのかを深く追求して生まれたクルマではないだろうか。前のクルマより良くするという仕事の仕方ではなく、あるいは足元の経営を取りつくろう近視眼的でもなく、本物を目指そうとした志が、時代に名を残すクルマを生み出させたのだと思う。
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みんなのコメント
フォードから来たヘンリーウォレス氏が社長になっていないと
今のマツダは無い。