初回作発売から25周年を迎えた世界的なレースゲーム「グランツーリスモ」。クルマ好きなら一度はハマったことがあるだろう。遊び方はさまざまだが、自動車メーカーがこのゲームのためにガチで作った「ビジョン グランツーリスモ」を操るのも大きな魅力。そこでここでは、日本車メーカーが生んだ傑作ビジョン グランツーリスモを振り返ってみよう。
文/ベストカーWeb編集部、写真/ソニー・インタラクティブエンタテインメント
あのグランツーリスモが25周年! 各社が作った「ビジョン グランツーリスモ」は汗と涙の塊だった!
■三菱コンセプト XR-PHEVエボリューション ビジョン グランツーリスモ(2014年5月30日発表)
三菱 コンセプト XR-PHEV エボリューション ビジョン グランツーリスモ
そもそもビジョン グランツーリスモとは、「グランツーリスモ」シリーズのプロデューサー山内一典氏がメーカー各社に「みなさんの考えるグランツーリスモ(GTカー)をデザインしていただけませんか」と投げかけたことに始まる。以来世界中のメーカーから超ド級のクルマたちが生まれ、現在その数は35車種にも上るのだが、日本メーカーでいち早く応じたのが三菱だった。
三菱のビジョングランツーリスモは、パリダカやWRCで培ったコンペティションの遺伝子を核に、2013年東京モーターショーに出展した「MITSUBISHI Concept XR-PHEV」のコンセプトをさらに発展させたもの。外観では、黎明期にあったダイナミックシールドを採用しているが、注目はその中身。プラグインハイブリッドやS-AWCの採用など、まんまアウトランダーPHEVのシステムを移植しているのだが、逆に言えばアウトランダーの未来性、拡張性がそれだけすごいということなのだ。
アジアクロスカントリーラリーでモータースポーツにも復帰を果たした三菱。将来はこんなクルマで、世界を舞台に戦ってほしい。
■日産コンセプト2020 ビジョン グランツーリスモ(2014年6月25日発表)
日産コンセプト2020 ビジョン グランツーリスモ
三菱と相前後して登場したのが日産のビジョン グランツーリスモだ。イギリスの若手デザイナーたちが手がけたスタイリングに、日本のエンジニアの技術的検討やシミュレーションが加わり、きたる2020年のGTカー像を先取りして誕生したという。2015年の東京モーターショーには実車も展示された。
その成り立ちの核には、日産が誇る「GT-R」があることは確かだが、ボディパネルの造形がダイナミックでハイパーカー的なたたずまいもある。パワートレインはV6ツインターボに前2基、後ろ1基の3モーターを加えたパフォーマンスハイブリッドFR-4WDシステムを採用するが、電動化されるという噂もある新型GT-Rにも繋がる要素技術かもしれない。
■TOYOTA FT-1 ビジョン グランツーリスモ(2014年9月16日発表)
TOYOTA FT-1 ビジョン グランツーリスモ
2014年1月のデトロイトショーで公開されたFT-1(スープラの原型ともなったコンセプトカー)をベースに、トヨタの北米デザイン拠点である「CALTY」が作り上げたレーシングカー。オリジナルのFT-1は「機能造形美」をテーマとしていたが、ビジョン グランツーリスモでは機能の集約を最優先し、サーキットでの生々しいリアリティが強調されている。
その外観だが、ワイドタイヤを収めるためにフェンダーを拡幅し、エアインテークも拡大されてクーリング性能が向上、リアのウイングやディフューザーも大型のものが装着されている。2020年にはスープラにもレース仕様のGT4マシンがデビューしているが、その原点になったのかもしれない1台だ。
■スバル VIZIV GT ビジョン グランツーリスモ(2014年11月19日発表)
スバル VIZIV GT ビジョン グランツーリスモ
当時のスバルが掲げていた「VIZIV(Vision for Innovation)」というテーマを具体化したスポーツカー。そのエクステリアは「超合金の鰹節」がキーワードで、フロントのヘキサゴングリルからリアに一気にショルダーラインが抜け、硬質な金属をカンナで削りだしたようなソリッド感がある。2020年に登場したレヴォーグが、このデザインを発展させて誕生したことは間違いないだろう。
パワートレインだが、伝統の2L水平対向エンジンに、フロント1基、リアに2基の高出力モーターを組み合わせて、システム出力600ps、最大トルク800Nmを発揮する。市販車においても、このアグレッシブさを具現化してほしいものだ。
■インフィニティ コンセプト ビジョン グランツーリスモ(2014年12月17日発表)
インフィニティ コンセプト ビジョン グランツーリスモ
日産のハイブランド「インフィニティ」もビジョン グランツーリスモを発表している。ピュアなGTカーをアーティスティックに表現した1台だ。
圧倒的に低く、マッシブに幅広いボディに積まれるのは、自然吸気4.5L V8エンジンにモーターを組み合わせたハイブリッドシステム。分厚い低速トルクを誇りながらも、高回転では官能的なエグゾーストを奏でる。トランスアクスルによって45:55という絶妙な重量バランスを実現し、積極的にリアを流す楽しさも備えているという。優雅なボディに隠されたエアロダイナミクスも優秀で、床下の気流コントロールや前後ディフューザー、特異なリアスポイラーがクルマの戦闘力をいっそう高めている
■マツダ LM55 ビジョン グランツーリスモ(2014年12月25日発表)
マツダ LM55 ビジョン グランツーリスモ
2014年のクリスマスの発表されたマツダのビジョン グランツーリスモ。マツダのモータースポーツといえばル・マンで総合優勝を飾った787Bにとどめを刺すが、このLM55は787Bをリスペクトしつつ、未来のル・マン24時間レースを見据えて作られた夢のマシンだ。
いっけんロードカーとは無縁のたたずまいだが、そのデザインにはマツダのデザイン哲学である「魂動」が活かされており、フロントグリルにも近年のマツダロードカーと共通するモチーフも見られる。
世界的に有名なイギリスの自動車イベント「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード」で、マツダは2015年のホストブランドとなり、787BとこのLM55が天空に駆け上るモニュメントが話題をさらった。2016年の東京オートサロンでも実車が展示され、クルマ好きの心を揺さぶったことは記憶に新しい。
■レクサス LF-LC GT "Vision Gran Turismo"(2015年3月18日発表)
レクサス LF-LC GT "Vision Gran Turismo"
当時RC FでスーパーGTを戦っていたレクサスが送り出したビジョン グランツーリスモ。RC Fの戦うエッセンスはそのままに、ラグジュアリークーペのコンセプトカーであるLF-LCをレースカーに仕立て上げた1台だ。
LF-LCは2012年のデトロイトショーで発表されたクルマだが、デザインを手がけた北米のCALTYは、ジェット機のアフターバーナーのようなテールランプなど、エモーショナルな表現を多数盛り込んだ。このビジョングランツーリスモはその官能的な表現にスパルタンさを上乗せしており、モータースポーツの躍動感を見事に表現したといえよう。
■ダイハツ コペン RJ ビジョン グランツーリスモ(2017年10月17日発表)
ダイハツ コペン RJ ビジョン グランツーリスモ
ダイハツは、日本人の暮らしを支えてきた軽自動車をテーマにビジョン グランツーリスモを開発してきた。素材となったのはダイハツきってのスポーツカー「コペン」だ。車名に付けられた「RJ」という欧文は「Racing Jacket」の略称で、レースでの勝利を見据えて身にまとった、鎧のような外観を指す。
実際その見た目は甲冑をまとった武士のようだ。大型のフロントアンダースポイラーとリアウイング、ディフューザーで武装し、オーバーフェンダーによって拡幅された全幅も強烈な迫力を生み出している。
排気量は660ccのままだが、ターボの過給効率を高めることで、149psまでパワーを高めている。車重も600kgまで落とされているので、大排気量スポーツカーとも互角に渡り合う実力を持つ。
■ホンダ スポーツ ビジョン グランツーリスモ(2017年11月9日発表)
ホンダ スポーツ ビジョン グランツーリスモ
「面白いからやる」というホンダの企業風土が生んだ、走りの楽しさとリアルさを追求したビジョングランツーリスモ。世界各地にあるデザイン拠点でコンペを行い、勝ち残ったモデルである。
ボディスタイルはミッドシップエンジンの2シータークーペ。ホンダのデザイン哲学である人間中心の考え方が、クルマの骨格を決定する人の乗せ方やエンジン、タイヤ配置といったパッケージデザインに具現化されている。カーボンを多用することで車重は899kgと軽く、DOHCの2LターボエンジンはVTEC化することで410psをたたき出す。
ホンダは2009年にS2000の生産を終え、2015年にS660を発表していたため、このビジョン グランツーリスモは新型S2000のティザーではないかとも噂された。いまでも市販してほしい1台である。
■スズキ ビジョン グランツーリスモ(2022年5月26日発表)
スズキ ビジョン グランツーリスモ
2022年5月に登場したばかりのビジョン グランツーリスモ。4輪と2輪双方を手がけるスズキはかつて両方のスポーツマインドを融合させた「GSX-R/4」というコンセプトカーを作ったが、その哲学をもう一度現代によみがえらせた1台だ。
エクステリアは、スズキを代表するスポーツモデル「スイフトスポーツ」の面影を、かつてのカプチーノのようなロングノーズシルエットと融合させたもの。モンスターバイクHAYABUSAの1.3Lエンジンをフロントに積み、フロント2基、リア1基のモーターと組み合わせて4輪を駆動する。
さらにこのクルマには戦闘力を高めたGr.3バージョンも存在する。電動モーターを廃止してFR駆動とする代わりに、HAYABUSAの4気筒エンジンを合体してV8とし、ツインターボ化した怪物モデルである。
いかがだったろうか。モーターショーなどで眺めているしかなかったコンセプトカーを、ゲーム内で自在に走り回れる存在へと一変させたビジョン グランツーリスモ。今後も魅力的なクルマが続々と発表されることを願いたい。
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