現在販売されているSUVのほとんどは、「クロスオーバーSUV」と呼ばれるものです。「あるものとあるものを掛け合わせる」ことを意味する「クロスオーバー」という言葉ですが、いったい何と何を掛け合わせているのでしょうか?
●時代のトレンドとなっている「クロスオーバーSUV」
デザイン性に優れ、広大な室内空間を持つSUVは、近年の自動車業界の大きなトレンドのひとつとなっています。2021年の新車販売台数ランキングを見ても、トヨタ・ヤリスクロスやハリアー、ライズなどが上位にランクインしており、SUV人気の高さがうかがえます。
SUVは「スポーツ・ユーティリティ・ビークル」の略であり、日本語では「多目的スポーツ車」などと訳されます。ここでいう「スポーツ」とは、必ずしも野球やサッカー、サーフィンやスキーなどを意味するわけではなく、あらゆる場面で便利に使えるというニュアンスです。
実際、SUVはたくさんの人や荷物を乗せることができ、また、最低地上高が高いことから、舗装されていない道路でも安心して走ることができるものが少なくありません。また、近年では高級感のある都市型SUVも登場しており、VIPの送迎などにも使用されることがあるなど、どんなシーンでも活躍できるのが大きな魅力です。
そんなSUVですが、各メーカーの公式ウェブサイトなどを見ると、「クロスオーバーSUV」と表記されているものがあることがわかります。「クロスオーバーSUV」はいったい何と何を掛け合わせているのでしょうか?
●クロスカントリー×乗用車=クロスオーバーSUV
結論から言えば、「クロスオーバーSUV」が掛け合わせているのは、「クロスカントリー車」と呼ばれる狭い意味での「SUV」と、「乗用車」です。
「クロスカントリー車」とは、トヨタ・ランドクルーザーや三菱・パジェロ、メルセデスベンツ・Gクラスに代表されるクルマで、それぞれラダーフレームという強固なフレームを持っていることが特徴です。
クロスカントリー車の多くが軍用車をルーツとしていることからもわかるように、耐久性や悪路走破性に長けている一方で、快適性や燃費性能などについてはそれほど優先されていません。また、価格も高くなってしまいやすいことから、多くの人にオススメできるクルマとは言えません。
実際に、1980年代中頃から1990年代初頭にかけて、日本ではクロスカントリー車がブームになりましたが、実用性に乏しいことから、実際に購入できる人は限られていたといいます。
そんななか、ベースは乗用車でありながら、スタイリングはクロスカントリー車のように仕上げられたクルマとして1994年にトヨタ・RAV4が登場しました。ランドクルーザーのような本格的な悪路走破性能はないものの、都市部でも運転しやすいサイズ感と手頃な価格で大人気となりました。
RAV4は、カローラやセリカといった当時販売されていたトヨタの乗用車の部品を流用したことで、快適な乗り心地と優れた燃費性能、そしてリーズナブルな価格を実現することができたと言われています。
RAV4は現代的な「クロスオーバーSUV」の元祖と言うべき存在ですが、そんなRAV4の成功をうけて、1990年代には、ホンダ・CR-Vやスバル・フォレスター、そしてトヨタ・ハリアーといったモデルが発売されます。なかでも、ハリアーは高級SUVというカテゴリーを切りひらいたとして、その後のSUVに大きな影響を与えることになります。
2022年現在、多くのSUVが発売されていますが、「クロスオーバーSUV」ではないもの、つまり、ラダーフレームを持ち、本格的な悪路走破性能を持つものはそれほど多くありません。国産車に限って言えば、トヨタ・ランドクルーザーやスズキ・ジムニーなどごくわずかです。
一方、ヤリスとヤリスクロス、カローラとカローラクロス、プリウスとC-HRなど、プラットフォームを共有して開発されたSUVは少なくありません。このように、「クロスオーバーSUV」では、比較的簡単に派生車種を生み出すことが可能という利点もあります。
●クロスオーバーSUVは、「クルマの基本形」になる?
「山道を走るわけではないなら、SUVに乗る意味はない」という意見を聞くことがあります。場合によっては「4WDではないSUVは、『ナンチャッテSUV』である」という人もいます。
こういった意見は、「SUV」という言葉を「クロスカントリー車」という意味で理解している人に多いようです。たしかに、荒れたオフロードを走行するなら、クロスカントリー車の方が優れていますし、4WDの方が適しています。
しかし、現代では、そうした道を走る機会というのはほとんどありません。都市部の舗装路をメインで走るのであれば、必ずしもクロスカントリー車である必要はありませんし、4WDである必要もありません。むしろ、2WDのクロスオーバーSUVの方が、乗り心地も燃費性能も優れていると言えます。
また、クロスオーバーSUVの多くは、セダンやコンパクトカーに比べて最低地上高が高く設定されています。悪路を走るわけでなくても、最低地上高が高いことで、駐車場などのちょっとした段差でも楽に乗り越えられるだけでなく、ドライバーの視点も高くなるため、運転がしやすくなるとされています。さらに、サスペンションのストローク(バネの伸び縮みの長さ)を長くできるため、路面からのショックを受け止めやすくなり、結果として乗り心地の良さにつながります。
このように、クロスオーバーSUVは、山道などの悪路でなくてもそのメリットを活かすことができます。その上、優れたデザイン性と広い室内空間を備えていることから、セダンやコンパクトカーに比べて機能的である上、ミニバンのように大人数乗車することも可能です。
つまり、クロスオーバーSUVとは、単なる人気のボディタイプというだけでなく、総合力の高さからかつてのセダンに置き換わって、今後はクルマの基本形となっていく存在だと言うことができるのです。
文:ピーコックブルー
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みんなのコメント
そのルーツはアメリカ製ピックアップトラックの荷台に、アフターマーケット製のFRPキャノピーを取り付けて、ステーションワゴン風の外観にしたものが始まりと言われている。後にメーカーが初めから荷台を室内に変えた形の車を作り始めた。
これは謂わば「狭義のSUV」。キャデラックエスカレード、リンカーンナビゲーター他が該当する。日本車だと初代ハイラックスサーフが正にこの形。
クロスカントリー車のルーツは軍用四輪駆動車。ランクル、ジープ、ゲレンデ、ディフェンダー等、どれも初めは軍用をベースに、民生に直して作られた車達。
後にこの2つの始祖の違うジャンルと、乗用ベースのクロスオーバーSUVとも合流し、まるでイルカとサメのように収斂進化して現在に至る。